『キャプテン・フィリップス』


去年観ようと思っていて、迷っていたら結局行けなかった映画。最初は興味がなかったんですが、予告から連想されるような家族を思う感動ものでは無いという点(『ワールド・ウォーZ』を思い出す)と、最近発表されている賞レースにノミネートされているという点で徐々に気になってきました。
よく考えたら、ボーンシリーズの監督、ポール・グリーングラス監督なんだから、簡単な感動ものなんて作ってくるわけは無かった。観終わったあとでは、“勇気だけが彼の云々”というキャッチコピーがひどく安っぽく感じられる。

以下、ネタバレです。








家族感動ものどころか、原作よりも家族のエピソードが削られているらしい。確かに最初の数分、フィリップスを送り出すシーンと、途中でフィリップスが家族へ手紙を書こうとするシーンが少し出てくるくらいだった。
原作というか、実話を元にしているので、手記のようなものが元になった伝記映画です。

映画のほとんどが船上でのシーン。最初は大きいコンテナ船、後半は狭い救難船。
まず、船に乗り込んでくるのを阻止するために針路を変えたり波を起こしたり偽の通信をしたり放水したりと、様々な手口が見られるのもおもしろい。レーダーでどんどん近づいてくる海賊船の様子はドキドキするし、もうこの先ずっとそうなんですが、海の上だから基本的に逃げ場がなくて、緊迫感がラストまでずっと続く。

海賊が乗り込んできてからも、見つからないように隠れたり、罠を仕掛けて陥れたりと、ここでの手口も見応えがあった。撃たれる直前で海賊側のリーダーがストップをかけるシーンも緊張したし、乗務員が隠れている最下層へいくのをなんとか阻止しようとフィリップスが機転をきかせるシーンもヒヤヒヤした。

結局、フィリップスだけが人質にとられ、海賊と一緒に救命ボートに乗るんですが、もう後半はほとんどその狭い中での話になる。風景があるわけでもない。海賊とフィリップスの駆け引きめいた会話と一触即発感がラストまで続く。外にSEALsがひかえていたりもするが、救命ボート内はますます緊迫していく。
SEALsの皆さん恰好良かったし大活躍だったんですけれど、予告でまったく海軍のことは出てきてないんですよね。もっと海軍をフューチャーしたら観る層が違ってきてたんじゃないかと思いますが、まったく予告に出てこなかったということは、たぶん意図的に海軍関係のシーンは抜かれたんだろうし、海軍好きな層へのアピールは必要なかったんでしょうね。

ラスト、突入されてからのトム・ハンクスの演技が素晴らしかった。目隠しをされているのですが、銃声だけが聞こえ、返り血を浴びて、必死に目隠しをとって目に飛び込んでくるのが、先程まで一緒に話していた海賊たちの死体。
救助されてからも、機械的に身体検査をされて、質問にもうまく答えられない様子の演技が本当にすごい。助けられてもちろん安堵感はあるのだろうけれど、それだけではなく、まだ恐怖が続いているような表情。そして、短い時間とはいえ閉鎖空間に一緒にいた海賊たちの話を聞いて、彼らの境遇に同情めいたものを感じて始めていて、でもその彼らが目の前で殺されたことでの複雑な心中。しかし、撃ってくれなければ、自分が撃たれていたかもしれないという状況。わかってはいるけれど、理解ができない放心状態と、でもやっぱり安堵感が少しだけ勝っているというようなあの表情はちょっとなかなか見られるものではない。あの表情で何もかもを語っていた。助けられても、笑顔はまったくなかった。
トム・ハンクスの映画をそれほど観てきているわけではないけれど、あんな演技をする人だと思っていなくて、去年のイベントで戸田奈津子さんが言ってた“すごい人格者”という話も相俟って、なんとなくトム・ハンクスファンになってしまった。

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