『キャプテン・フィリップス』
Posted by asuka at 5:58 PM
去年観ようと思っていて、迷っていたら結局行けなかった映画。最初は興味がなかったんですが、予告から連想されるような家族を思う感動ものでは無いという点(『ワールド・ウォーZ』を思い出す)と、最近発表されている賞レースにノミネートされているという点で徐々に気になってきました。
よく考えたら、ボーンシリーズの監督、ポール・グリーングラス監督なんだから、簡単な感動ものなんて作ってくるわけは無かった。観終わったあとでは、“勇気だけが彼の云々”というキャッチコピーがひどく安っぽく感じられる。
以下、ネタバレです。
家族感動ものどころか、原作よりも家族のエピソードが削られているらしい。確かに最初の数分、フィリップスを送り出すシーンと、途中でフィリップスが家族へ手紙を書こうとするシーンが少し出てくるくらいだった。
原作というか、実話を元にしているので、手記のようなものが元になった伝記映画です。
映画のほとんどが船上でのシーン。最初は大きいコンテナ船、後半は狭い救難船。
まず、船に乗り込んでくるのを阻止するために針路を変えたり波を起こしたり偽の通信をしたり放水したりと、様々な手口が見られるのもおもしろい。レーダーでどんどん近づいてくる海賊船の様子はドキドキするし、もうこの先ずっとそうなんですが、海の上だから基本的に逃げ場がなくて、緊迫感がラストまでずっと続く。
海賊が乗り込んできてからも、見つからないように隠れたり、罠を仕掛けて陥れたりと、ここでの手口も見応えがあった。撃たれる直前で海賊側のリーダーがストップをかけるシーンも緊張したし、乗務員が隠れている最下層へいくのをなんとか阻止しようとフィリップスが機転をきかせるシーンもヒヤヒヤした。
結局、フィリップスだけが人質にとられ、海賊と一緒に救命ボートに乗るんですが、もう後半はほとんどその狭い中での話になる。風景があるわけでもない。海賊とフィリップスの駆け引きめいた会話と一触即発感がラストまで続く。外にSEALsがひかえていたりもするが、救命ボート内はますます緊迫していく。
SEALsの皆さん恰好良かったし大活躍だったんですけれど、予告でまったく海軍のことは出てきてないんですよね。もっと海軍をフューチャーしたら観る層が違ってきてたんじゃないかと思いますが、まったく予告に出てこなかったということは、たぶん意図的に海軍関係のシーンは抜かれたんだろうし、海軍好きな層へのアピールは必要なかったんでしょうね。
ラスト、突入されてからのトム・ハンクスの演技が素晴らしかった。目隠しをされているのですが、銃声だけが聞こえ、返り血を浴びて、必死に目隠しをとって目に飛び込んでくるのが、先程まで一緒に話していた海賊たちの死体。
救助されてからも、機械的に身体検査をされて、質問にもうまく答えられない様子の演技が本当にすごい。助けられてもちろん安堵感はあるのだろうけれど、それだけではなく、まだ恐怖が続いているような表情。そして、短い時間とはいえ閉鎖空間に一緒にいた海賊たちの話を聞いて、彼らの境遇に同情めいたものを感じて始めていて、でもその彼らが目の前で殺されたことでの複雑な心中。しかし、撃ってくれなければ、自分が撃たれていたかもしれないという状況。わかってはいるけれど、理解ができない放心状態と、でもやっぱり安堵感が少しだけ勝っているというようなあの表情はちょっとなかなか見られるものではない。あの表情で何もかもを語っていた。助けられても、笑顔はまったくなかった。
トム・ハンクスの映画をそれほど観てきているわけではないけれど、あんな演技をする人だと思っていなくて、去年のイベントで戸田奈津子さんが言ってた“すごい人格者”という話も相俟って、なんとなくトム・ハンクスファンになってしまった。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: