『人生はビギナーズ』


2012年公開。マイク・ミルズ監督。ユアン・マクレガー主演。ユアンが演じるオリヴァーの父親ハル役のクリストファー・プラマーがアカデミー助演男優賞を始め、様々な賞にノミネートもしくは受賞している。

原題も『Beginners』だし、タイトルからしても、“人はいくつになっても新しいことにチャレンジできる”みたいな意味合いがあるのだろうし、そんなキャッチコピーが付いていたように思いますが、そんなポップで明るい前向きなものとは少し雰囲気が違った。
最終的には前向きになりますが、もっと重く、深い話だった。

母親が亡くなったあと、父親にゲイであることをカミングアウトされるが、その父親もガンのため亡くなってしまう。
オリヴァーの現在の様子と、末期ガンと闘いながらも人生を謳歌している父親ハルの様子と、子供の頃のオリヴァーの様子を織り交ぜながら語られていく。

なんとなく、オリヴァーの恋愛が話の主体なのかと思っていた。好きな人が出来たけれど話しかけられない、けれど父も年をとってから勇気を出していたし僕も頑 張ろう、と好きな人に告白してうまくいくまでの話なのかと思っていた。実際はそうではなく、オリヴァーと意中の女性アナの出会いから接近するまではわりと容易だった。

問題はその先だった。ユダヤ人の母親とゲイの父親と、すでにその二人の両親を亡くしたオリヴァーは悩みを抱えていて、人付き合いがうまくない。最初こそ、うまくいっていたものの、結局別れることになる。

いままでのことが積み重なっているのだから、性格なんて急には変わらないし、悩みが急に消えることはない。でも、つらいのは自分だけではないのだ、ということにオリヴァーが気づくのが感動的だった。
アナにもまた違った悩みがある。悩みを持った人間同士が実際に会って、顔を見て話し、そして抱き合うことでわかることがあるかもしれないし、自分の悩みも少しは解けるかもしれない。母親や父親にも悩みがあったのだ、ということも、オリヴァーは回想の中で理解しているように思える。

ラスト付近で「僕がゲイだから会いにも来なかったんだろ?」と言っていた父親の恋人アンディとのシーンも直接会うことでわだかまりが解消していて泣けた。オリヴァーとしてはそんなことを考えていなくても、アンディにはゲイという多分自らが感じているであろう引け目もあるし、自分からは連絡なんてできない。でも、アン ディが気持ちをぶつけることで、オリヴァーにも伝わって、そんなことはないとハグをすることで、わかり合えた。オリヴァーは息子でアンディは恋人だけれど、ハルが亡くなることで生じた喪失感をわかちあえるはずだ。

もちろん悩みなんて人それぞれのもので、相手の心の中を完全に理解することはできない。それは親子であれ、同じことだ。けれど、相手の気持ちを考えてみると、わかることもあるし、自分のことも話してみると、理解してもらえるかもしれない。すべてではなくても、悩みが軽くなるかもしれない。

オリヴァーは、臆病ながらも人の悩みを受け止め、自分の悩みとも向き合った。きっと、この先はうまくいくだろう。

アーサー役のコスモくんの演技が素晴らしい。ジャックラッセルテリアです。パルムドッグ賞をとっていたかな?と思ったけれど、この年は『アーティスト』のアギーがいたんだった…。

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