『ドン・ジョン』


ジョセフ・ゴードン=レヴィット監督・脚本・主演作品。初監督作品としてちょっと奇抜な題材が選ばれていておもしろい。“プレイボーイと絶世の美女が恋の心理戦!”みたいな宣伝文句がついていたけれど、そんなロマコメみたいな感じではなかった。
なんとなく、タイトルとその宣伝文句のプレイボーイってところから、ドンファンみたいな感じなのかと思っていたのだけれど、まったく違った。
以下、ネタバレです。




主人公ジョンは遊び人ではあるけれど、Macの起動音を聞いただけで欲情するポルノ中毒という設定。劇中で何度もMac起動音が鳴るんですが、その時に毎回、ジョンの欲望のスイッチが入ったことを感じられてわかりやすかった。そして、使い終わったティッシュをゴミ箱に捨てると、Macのゴミ箱から削除した音が鳴る。

Macの効果音を使うというのもちょっとおしゃれな演出かと思いますが、車に乗って教会へ行って懺悔、家に行って家族で食事、ジムで聖書?の一説を唱えながらトレーニングというルーチンワークが何度も出てきた。たぶん、ジョンはそんなルーチンを大切にしているのだと思う。多少変わるけれど、大体同じような流れでも退屈しているような様子はなかった。

彼女ができて、そんな自分だけの世界が壊される様子はなかなかリアルだった。何かするにもいちいち口を出してくる。トレーニングや掃除の仕方まで。しかも、付き合いで自分の趣味ではない映画を観なくてはならない。
この凡庸なラブストーリー映画に出演しているのが、なんとチャニング・テイタムとアン・ハサウェイ。なんか、すごくありがちな感じのストーリーが本当に退屈そうで、逆に観てみたくなった。この二人をもってくることができたのは、JGLの人脈なんだろう。ご祝儀出演だったのかも。
しかし、ラブストーリーをこれだけ退屈なものに仕上げるというのは、JGL自体があんまりラブストーリー好きではないのかな。

このラブストーリー好きな女性を演じているのがスカーレット・ヨハンソンで、最初にバーでナンパした時に、相手役はスカヨハか…と少しがっかりした気持ちになってしまったけど、このがっかり役にすごく合ってた。

自分の部屋には『タイタニック』のポスターが貼ってあって、漫画的といえるくらいわかりやすいキャラクター。見た目が遊んでそうなわりには恋に恋する乙女。でも、注文が多くて口うるさい。

ジョンの妹は、家族での食事中も教会でも携帯を離さないで会話にも入ってこないんですが、最後の方に「要は彼女はいいなりにさせたいのよ」と急に鋭い指摘をするのがとても恰好いい。興味無さそうに見えて、しっかり聞いてた。

完全にJGL目線だったので、妹の意見には完全に同意をしてバーバラはなんてひどい女なんだろうと思っていたけれど、そのあとにジュリアン・ムーア演じるエスターが指摘する通り、言われてみれば確かにジョンも独りよがりなんですよね。
日々のルーチンをストイックなまでに守っていることからしても、自分だけの世界観があるのがわかる。
ただ、独自の世界観をもつ男を描くときに、その主人公をポルノ動画中毒にしてしまうのはちょっとおもしろいと思う。確かに、ポルノ動画にはまっていて、現実の性行為にはまれないというのは、独りよがりを描く上でわかりやすくはあるけれど。

教会で懺悔をしたときに、神父から言葉が返されるんですが、ラスト付近の懺悔のときにジョンは「また一緒の言葉?」と聞き返す。神父なのだから私情ははさめないだろうし当たり前だと思うけれど、ジョンが初めてルーチンに疑問を持った瞬間のように見えた。いままで守ってきた繰り返す毎日を自分で壊したのだ。

題材がとんでもなかったわりには、ラストは無難に落ち着いていて、結局良い話になっていた。そこには、意外性やスリルはない。でも初監督作品なんだし、あんまり冒険しすぎてとっちらかった終わり方になるのもどうかと思うので、これで良かった。

JGLのいろんなあられもない姿が見られるサービス映画でもあると思う。他の作品では観られないサービス満点なのは、さすがに自らが監督しただけある。

0 comments:

Post a Comment