『ペーパーボーイ 真夏の引力』


2013年公開。アメリカでは2012年公開。ピート・デクスターの同名の小説の映画化。

若者が年上の女性にもてあそばれる、ひと夏の恋愛の話かと思っていたら、もっと話が何層にも重なっていた。どちらかというと、殺人事件の謎の解明がメインになっていて、そこに絡む要素の一つとしての恋愛な気がする。

殺人事件とは直接関係はないが、60年代のアメリカが舞台になっているので、黒人人種差別問題も取り入れられている。主人公の家のメイドさんの話や、新聞記者になるためにロンドン出身と嘘をついた話の織り交ぜ方がうまい。登場人物の短いエピソードを所々に加えることで、キャラクターに奥行きが出ていると思う。リー・ダニエルズは『チョコレート』『プレシャス』『大統領の執事の涙』など監督作品の多くで、黒人人種差別問題について取り上げている。

ニコール・キッドマンが演じるシャーロットは一見するとただのブロンドビッチなんですが、甘い言葉の書いてある手紙だけで刑務所の中の男にもベタぼれしてしまうというエピソードからも、あまり恋愛的に恵まれてないのがわかる。頭はあまりよくなさそうだけど、好きな人に必死なのも慣れていないせいだろう。

シャーロットが好きになる囚人ヒラリーはあからさまにあやしい。ジョン・キューザックの怪演っぷりが凄まじい。なぜかいつも汗をかいて髪の毛がぴったりはりついている外見も嫌悪感がおさえられない。
彼のエピソードとしては、彼の家が沼と言われていたけれど、本当に沼地にあって、家というより小屋のような感じだった。あんなところに人が住めるのかと疑問に思うような場所だった。アメリカの貧困問題にも触れられているのだと思う。

マシュー・マコノヒーは主人公の兄で新聞記者役。途中まではただの正義感の強い若者だったが、同性愛者であることが明るみに出てからは、いままでもほのかに感じていた影が一層強く出る。このあたりはさすがマシュー・マコノヒーといった感じでうまい。
眼帯をした姿でボートに乗っているシーンで、弟に「海賊みたいだ」と言われるけれど、見た目も含めて凄みが増す。殺人事件の犯人への執着心も強くなる。

濃いキャラがつめこまれているが、その中でザック・エフロン演じる主人公ジャックは青臭いだけで平凡。でも、普通のキャラクターもいないと濃すぎて胸焼けしそうなので、主人公くらいはこれでいいと思う。
水泳部という設定が最後にいきてくるのもいい。ラスト付近の沼をヒラリーが追いかけてくるシーンは、ほとんどホラーのようだった。

結局、一番最初の事件の解決が見られなかったのは残念。後半の殺人事件ではヒラリーは投獄されたし、たぶん最初の事件の犯人もヒラリーなのではないかと思うけれど、はっきりとはしめされない。

それでも、映画全体から、夏の蒸し暑さやじめじめした空気が感じられるのが素晴らしい。この雰囲気が最高。夏の映画だからって、爽快さは一切無い。

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