『ターゲット』


イギリスでは2009年公開。日本では劇場公開はされずに2011年にDVDスルー。1993年の『めぐり逢ったが運のつき』というフランス映画のリメイクらしい。だから、劇中で主人公がフランス語を勉強してたのかな。

主演のビル・ナイは『パイレーツ・ロック』よりもだいぶ若く見えたけれど、公開は『パイレーツ・ロック』のほうが先。撮影はどうかわからないけれど、55歳の役だった。
家族代々の殺し屋で、未婚。でも、結婚に興味はあり。そんな彼が、ターゲットである女性に恋しちゃう。
ローズはマーケットをすいすい歩きながら、通りすがりに女性のスカーフを拝借したり、カフェの人のテーブルのジュースを飲んだりとやりたい放題。だけど、やり方がディズニー映画のように軽快で憎めない。ビクターは彼女を殺す依頼を受けていたため、近くで彼女をじっと観察している。その内、恋に落ちてしまう。この時の、ビル・ナイの「困った奴だなあ」みたいなゆるんだ顔が本当に可愛い。恋に落ちる瞬間が描かれている。

ビクターは冷静沈着な殺し屋だったはずなのに、彼女と、偶然居合わせたトニーと三人で逃亡するうちに、人間らしさを取り戻していく。慌てたり、怒ったり、上の空になったり、どのシーンもキュートなんですが、誕生日パーティーのシーンが特にはっちゃけていて最高。踊ったり笑ったり酔っぱらったり、本当に楽しそう。

ビクターはローズに恋をしていても、二人じゃなくてトニーも一緒の三人なのがいい。別に三角関係ではないです。トニーとビクターがくっつきそうな謎シーンはありましたが。
ローズがわりと厄介な性格というか、自由奔放すぎて、たぶんビクター一人では手に余りそう。あと、ビクターも頑固だし、ローズが早とちりの勘違いをして、衝突ばかりしそう。トニーはちょうどいい緩衝材の役割を担っていた。

トニーはトニーで、家族がいないようだったので、ビクターとローズを疑似家族的にとらえていたように思う。
ラストでビクターとローズに子供が生まれていましたが、トニーも一緒に住んでいるようだった。

別の殺し屋から命を狙われているのでスリルのあるシーンもありつつも、三人の関係がとてもいいので、大半のほのぼのシーンをにこにこしながら観ていた。

これもリメイクだし、続編がないのはわかってるんですが、本当は三人の活躍がもっと観たい。

セリフの言葉のニュアンスで事態が違う方向へ進んでいったり、うまい具合に間一髪で逃れたりというシーンが舞台っぽかったので、原作は舞台なのかと思っていたが違った。

ローズ役は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も楽しみなエミリー・ブラント。トニー役はハリー・ポッターのロン・ウィーズリーでお馴染みのルパート・グリント。私はハリー・ポッターをまともに観たことがないのでこの俳優さんを知らなかったんですが、良かったので他の作品でも観たいと思ったけれど、出演作がほぼハリー・ポッターだった。知ってる人からしたら、その印象が強すぎてしまうんだろうか。

ビクターの次に雇われた殺し屋、ヘクター・ディクソン役にマーティン・フリーマン。実は彼目当てで観ました。プライドが高そうで腕も確からしいけれど、ビクターよりは雇う金額が安かったらしい。いつものマーティンは慌てたり、巻き込まれたりする役が多いけれど、今回は違っていた。巻き込まれないし、声を荒げることなく、抑えめの演技で、わざとらしい笑顔を絶やさない。黒いタートルネックを着ていて、服装からも感情を殺しているのがわかる。
それでも所詮かませ犬というあたりも良かった。


2007年に公開された『300<スリーハンドレッド>』の続編。今作もザック・スナイダー監督だと思い込んでいたけれど、今作はノーム・ムーロ監督。とはいっても、戦い中にスローになったり、血がふわっと飛んだりと作風は似た感じ。ザック・スナイダー監督は脚本と製作に名前が入っている。
続編といっても、『300<スリーハンドレッド>』の少し前と少し後と、一方その頃…が描かれているのでサイドストーリー的な印象を受けた。前作を観てからのほうが楽しめると思う。

以下、ネタバレです。






私は前作のやりすぎ感が好きだったので、監督が変わったことでなのか、少し地味になってしまったと感じた。
今回は海軍が主役なので、海上で船同士がぶつかり合って戦う。海の色は青ではなく黒に近いような暗さで、血も赤ではなく暗い色だった。両軍の鎧も暗めの色なので、色彩が全体的に暗いのだ。
また、装飾具も前作より目立たなかった印象。前作のペルシャ王近辺の豪華絢爛な様子が良かったのに。
そのせいもあるのかもしれないけれど、前作がほとんどファンタジーみたいにして楽しめていたものが、今回はリアリティーが出てしまっているというか、本当に戦争を見ているような気持ちになった。

あと、なんとなく、『300』といえば、屈強な男衆の筋肉と筋肉のぶつかり合いなのかなと思っていたので、今回の敵が女性だったのが気になってしまった。アルテミシアという女性で、最古の女海賊と言われているらしい。演じてるのはエヴァ・グリーン。『ダーク・シャドウ』と同じく、格闘技セックスがありました。
それで、少しだけ恋愛要素もあるんですよね。あからさまなものではないけれど、振られた腹いせも多少感じられた。感じられる程度であってもいらないかなと思う。女性を敵役にするなら仕方ないとは思うけど、だからこそ、敵役を女性にするのはやめてもらいたかった。

必要以上に飛び散る血とか、首をかり取ったりとか、船から油みたいなのを落として引火するシーンは良かった。なので、良いけど前作のほうが好きかな…と思いながら観てたんですが、最後の戦いで、アルテミシアと金属でできた鬼の仮面を被った側近が全員二刀流で出てきたのが盛り上がった。防御無視で攻撃してくるのが恰好いい。
また、それに対するテミストクレスが両手剣や、大きい刀を片手で持って片手で殴ったりするのも恰好いい。縦の代わりに剣で受け止める。
あと、一番盛り上がったのは、もう駄目だと諦めそうになったときに、援軍が来たシーンです。スパルタ軍が助けに来る。あの丸い楯を持っているし、前作の印象があるから、この人たちが来れば安心だと思える。もうこれだけで、今作もおもしろかった!という感想が抱けた。最後にスパルタ軍が全部見せ場を持っていった。前作が見直したくなる。
王妃が亡き王の剣を手に切り込んでくるのも良かった。王妃は良くてアルテミシアがなんとなく嫌だった理由を考えていたんですが、戦う女が嫌いなわけじゃなく、最大の敵として出て来るのと、戦いに恋愛を持ち込まれたのが原因だったのだと思う。

このスパルタの援軍が現れる時の音楽がすごく恰好良いんですが、音楽担当はジャンキーXLだった。今度公開される『ダイバージェント』も担当しているみたい。

スパルタ援軍が来た時に、やっぱり私は前作が好きだというのとスパルタ軍最高!を再確認したんですが、いま思っても前作に出てた裏切り者せむし男が終盤に出てきたときに嬉しかったし、序盤、池みたいなところから上がってきた時に、よく見覚えのあるクセルクセスの姿に変身した時にも盛り上がった。普通の洋服/容貌だったのに、池に浸かったらスキンヘッドにピアスに半裸になっていたのは本当に変身としかいいようがなくて、お前だったのか!と思った。

このクセルクセスを演じたロドリゴ・サントロ、今回普通の姿でも出て来るんですが、実はかなり美形でブラジルのスターらしい。
あと、今回気になったのは戦士の息子で自分も戦士になろうとするカリスト役のジャック・オコンネル。マンチェスター・ユナイテッドの映画『ユナイテッド ミュンヘンの悲劇』という作品で主演らしい。イギリスのダービー出身。
もう一人、ダニエル・ブリュールとベン・ウィショーを足して、ちょっとだけバーン・ゴーマンを加えたみたいな容姿の人が気になったんですが、ハンス・マシソンでした。アイスキュロス役。ジョン・シムが出てた『NERO ザ・ダーク・エンペラー』の暴君ネロ役だった人。その他にも『タイタンの戦い』にも出ていたみたいなので、わりと古い歴史物が似合う顔なのかもしれない。

ドイツのドラマ。SOKOはSonderkommissionen=特別任務の略らしい。
そのうち、SOKO LeipzigのS13E09のKlassenclownという回にテオ・トレブスくんが出ていたので見ました。DVDを買おうかと思っていたけれど、公式がYouTubeにまるまる一話アップロードしてくれていた。

ドイツ語で英語はもちろん日本語字幕なんてついていないので話はあまりわからなかったんですが、刑事ものだった。学校で女生徒が殺されて、知的障害者の生徒に容疑がかけられて、ちゃんと容疑が晴れて、犯人である別の生徒がつかまるというあらすじだったと思う。テオくんは知的障害者役。拳銃やパトライトに興奮していたので、刑事さんが好きそうだった。

たぶん去年末くらいに放送されたものだと思うので最新のテオくんだと思うけど、もうくん付けでは申し訳ないくらい育っていた。身長もすごく伸びているし、体つきもがっちりしていた。
『コーヒーをめぐる冒険』が2012年公開だから、撮影がその辺かその一年前くらいだとしても、2、3年であんなに育っちゃうんだ。
10代後半からハタチくらいまでって一番成長する時期なんでしょうか。もう少年という感じではなかった。

これは、ライプチヒなんですが、もう一つ、SOKO Stuttgart(シュツットガルト)のSorgenkinderという回にも出ているみたい。これは2011年で、画像を見るとだいぶ少年っぽいので観たい。
ちなみにこの回にはPepe Trebsっていう2003年生まれのテオくんの弟と思われる子が弟役で出ているようです。

SOKO、ライプチヒ、シュツットガルトの他にもいくつかあるみたい。CSI:マイアミとかCSI:ニューヨークみたいなものだろうか。

ドイツでは2012年に公開。原題は“Oh Boy”。2013年のドイツアカデミー賞にて、作品賞、監督賞など、主要6部門を制覇したとのこと。さらにすごいのは、監督のヤン・オーレ・ゲルスターはこれがデビュー作。
私はその辺の事は知らずに、テオ・トレブスくん目当てで観ました。

以下、ネタバレです。




邦題ですが、コーヒーは常につきまとってはくるものの、めぐる冒険という感じではないし、冒険というほど壮大なものではない。それを考えると、ビートルズの『A Day In The Life』の歌い出しのI read the news today oh boyからとったらしい原題はいいタイトル。「なんてこった」とか、そんな意味みたいなので、いまいち抜けきらない一日をうまく表していると思う。でも、アメリカ版も“a coffee in berlin”といういまいちつまらないタイトルに変えられてしまっている。

行く先々でコーヒーを飲もうとするけれど、何かしらがあって飲めないのが続いて、それはそっくりそのまま、この主人公ニコのサエなさみたいなものにつながってきていた。大学を中退し、彼女とも別れ、いまいちぱっとしない。
映画で描かれているのは一日の出来事ですが、コーヒーが飲めない=ほっと一息つく暇がないという感じで、同じマンションの住人や、友人や、昔の同級生や、父親や、まったく知らない人などが次から次へと慌ただしくニコに関わってくる。
結局、話を聞いてあげたり面倒をみちゃったりして巻き込まれてる。家に入れてあげちゃうし、一緒に出かけるし、ゴルフに付き合うし、芝居も観に行くし、病院にも行く。
それでも距離をとりたいのか、頂き物のミートボールは芝居に出るようにすすめられても断るし、ドラッグも買わないし、セックスもしない。どこかさめているところが、この人の魅力であり、駄目なところなのかもしれない。
だから、最後にちょっと喋っただけの見知らぬ爺さんが倒れた時に、病院についていっただけではなく、手術室に入ろうとしたり、朝まで病院にいたりしたのを見て、何かしら成長したのかなと思った。

それは最後、一夜明けて、やっとコーヒーが飲めたことからも感じられた。一日中一人になれなかったニコが、おそらく不思議な一日を思いながら、少し苦いコーヒーを飲む。このラストの余韻が最高で、エンドロールはドイツ語で読めないけれど、席を立ちたくなかった。

次々出てくるドイツの俳優さんは詳しくはないので知らなかったけれど、きっと豪華キャストが集められているんだろうし、少し『グランド・ブダペスト・ホテル』的だと思った。また、本編が慌ただしめに過ぎていって、最後一人になって想いを馳せるという構造も似ているところがある。

ニコ役のトム・シリングですが、角度によってはジェームズ・マカヴォイにも似ていた。鼻の形が似てるのかも。マカヴォイよりもちょっと顔が丸い感じはする。仕送りを止められていたので大学生役だったと思うんですが、1982年生まれのようなので今年32歳。撮影時も20代後半だと思われる。動画んです。
あと、背が低いんですが、煙草の火をつけてもらうときに相手をかがませるシーンがあって、結構良かったです。
今回は情けない役だったんですが、びしっとしたのも観たい。

テオ・トレブスは出番が一瞬だった。自分の家でドラッグをさばく役だったんですが、ニコはその家のおばあちゃんと触れ合っていた。どちらかというと、おばあちゃんエピソードが中心だった。キャップを深くかぶっていてあんまり顔も見えない。TシャツにFUCKっぽいことが書いてある悪ガキ役。出方からしてカメオみたいな扱いになっちゃってるけど、彼がドイツでどの程度の位置にいるのかわからないのでただのちょい役なのかもしれない。




アメリカで2009年に公開され、日本ではDVDスルー。署名によって2010年に劇場公開された。けれど、DVD上映だったような気がするけど、どうだったか。

スター・ウォーズファンの友達が末期ガンに冒されていて、その友達のために公開前の『スター・ウォーズ エピソード1』を観せようと、スター・ウォーズファン仲間でジョージ・ルーカスのスタジオを目指すロードムービー。

スター・ウォーズのことは知っていたほうが楽しめると思うけど、それよりも、マニアッククイズみたいなのをやりあって完璧に答えてるさまを観るのを「うわあ…」と思いながら観るのも楽しい。あと、知識面ではスター・ウォーズだけでなく、スタートレックについても知っていたほうが面白いのかも。

それと、両者の映画ファンの間にある深い溝ですが、話には聞いていたけれど、ここまで深いものだとは思っていなかった。全面戦争。映画だから大袈裟にはなっているとは思うけれど、ないこともなさそう。

コメディなので、仲間の病気についても勘違いかと思いながら観ていた。車のディーラーになって付き合いが悪くなったエリックを誘い出す口実としての嘘だと思った。途中で病院に行ったときも、病名は言わないので、何か別の病気だとしても末期ガンだとは思ってなかった。最後まで行って種明かしがあるのかと思っていた。
エリックをこの冒険に連れ出して、ライナスとエリックは仲直りして、四人の友情も復活! これでは駄目だったのか。
ルーカスのスタジオで、ライナスがエピソード1を観せてもらっているとき、まさか本当なのかなと思って、私だけが動揺していた。
示唆はされているし、最後の映画公開日にも居なかったから本当だったんだとは思うけれど、直接的な表現がないし、まだ疑っているくらい。地上波のテレビ放送で観たので、エンドロールはばっさり切られてたんですが、そこで何か仕掛けが…?とも思ったけれど、そこまで重要な仕掛けだったらちゃんと流すだろうし、たぶん本当だったんだろう。

観ている最中も、主要キャラは三人でいいんじゃないかと思っていた。太ったハッチとメガネのウィンドウズ、そしてスターウォーズとは距離をおいて真面目に働くエリック。途中で女の子が加わるにしても、四人が限界。なんとなく、ライナスのエピソードだけ浮いてしまうというか、なくても良かった気がしてしまった。
それか、泣かせるんだったら、もっとライナスメインにするとか。
バランスも三人のほうがいいし、スタジオに潜入する時も五人ではやっぱりちょっと多すぎて見つからないわけはないと思ってしまう。

ウィンドウズを演じたのがジェイ・バルチェル。メガネでひょろっとしていて冴えない。『ディス・イズ・ジ・エンド』のジェイのほうが恰好良い。
セス・ローゲンもラスベガスのコールガールの元締めみたいな役で出てくる。『ディス・イズ・ジ・エンド』だとジェイと友達役だったけれど、この映画を観るとセスのほうがだいぶ年上に見える。けれど、同い年だった。
ダニー・マクブライドもルーカススタジオの警備員役で出てくる。

あと、ダニー・トレホが出てきたので驚いた。外見を生かした、怖い顔してるけどいい人な役。笑顔が可愛い。

途中から冒険に加わって、ご本人のかわからないけどお尻を披露し、最後にはジャバ・ザ・ハットに捕らえられた時のレイア姫のセクシーなコスプレまで見せたのは、クリスティン・ベル。『アナと雪の女王』のアナ役の方でした。

スター・ウォーズ本編でレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーもカメオ出演。病院の女医役でした。途中で「自分の右手をレイア姫と呼んでた」みたいなエピソードが出て来るんですが、女医さんに思いっきりキスをするシーンが出てきてなるほどと思った。

スタートレックでカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーもご本人役で出演。「ジェリー・ライアンの下着も手に入れられる?」って聞いていて、誰かと思ったら、セブン・オブ・ナインを演じてた方だった。ここでキャスト名で誰かすぐわかったらもっとおもしろかったんだけど…。

『白いリボン』


2010年公開。ドイツでは2009年。カンヌのパルムドール受賞作品。ミヒャエル・ハネケ監督。『コッホ先生と僕らの革命』での意地悪級長役が良かったテオ・トレブス目当てで観ました。

コッホ先生が1874年、この映画は1913年ということで、似たような時代のドイツが舞台になっている。そして、両方とも子供が多く出てくる。
ただ、コッホ先生が厳格な規律にしばられた学校の中で最初は従っていたが次第に子供らしさを取り戻していくのに対して、この映画では逃げ場がない。学校でもがんじがらめだし、小さな村の中でも規律に縛られている。
ましてやタイトルにもなっている白いリボンである。要は未熟者の証ということなんだと思うけれど、子供なので未熟であって当然。なのに、晒すようにして腕に付けられてしまう。

小さな村で連続して事件が起こり、犯人は捕まらずに不穏な空気だけが蔓延していく。
語り手が学校の先生で、先生はたぶん真実に辿り着いているけれど、真実は明確には明かされない。村の有力者である牧師さんに脅されては、探偵めいた事ができないのも当然だと思うし、謎を完全に暴いちゃうのも映画が俗っぽくなってしまう。
有耶無耶のまま語り手が村を離れることで、謎が明かされなくても、本当にそんな村存在してたの?幻じゃないの?というような後味の悪い昔話みたいな感じになって良い。

結局、カーリと助産婦、アンナとドクターがどこに消えたのかは、もうヒントすらないのでわからない。
最初のドクターの事故は、親であるドクターから性的虐待を受けていたアンナを可哀想に思った子供たちがやったのかな。笛の件で男爵の息子を池に落としたのは家令の息子だったし、最初の男爵の息子の事件もそうなのかも。家令の娘がカーリが酷い目に遭う夢を見たと先生に言ったのはSOSではなかったのではないか。

子供たちはほぼ感情を示さないし、笑わない。教室で騒いでいるシーンが唯一だと思うけれど、それも見つかってこっぴどく怒られていた。
大人たちへの反抗でもあるのかなとも思うけれど、とにかく謎は明かされないので、予想です。ただ、じわりじわりと村が蝕まれていく様子が怖かったし、雰囲気が良かった。

モノクロ撮影なのもいい。ドイツの田舎の村の雪景色が綺麗だった。子供たちの黒い洋服もよくはえていた。アカデミー賞を含め、いくつかの映画賞の撮影部門にノミネート、受賞しているようです。
いまとの時代の違いを表すためにモノクロになっているらしいけれど、最初はカラーで撮って、モノクロに変換したらしい。

テオ・トレブスは出番がそれほどなく、ほぼセリフもなかった。子供がたくさん出てくるわりに子供たちはほとんど喋らないですが。少し声が高く、もしかして声変わり前だったのかもしれない。撮影が2008年らしいので、当時のテオ・トレブスくん14歳。まだまだ少年の危うさがあって良かった。子供たちのなかでも際立って見えるけれど、それは私が彼目当てで観たからだと思う。


ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。
やはり、撮り方などはお洒落なんですが、それだけでなく、話の構造が好きでした。

以下、ネタバレです。





タイトルが『グランド・ブダペスト・ホテル』だったこともあり、グランド・ホテル方式だと勘違いしていた。その思い込みのせいか、予告だけ観た感じだと、ホテル内のシーンが多く感じていたのだ。とりあえず、グスタフ.Hの囚人服姿は出てこない。ほとんど、コンシェルジュの格好だったように思う。
ウェス・アンダーソンファミリー総出演というか、過去作に出た豪華俳優が多数集められているようだったので、彼らが全部お客様で、ホテル内での群像劇なのかと思っていたのだ。群像劇は好きだけれど、有名俳優を集めた群像劇はありきたりといえばありきたりだし…と思っていたら、まったく違った。

主役はホテルのコンシェルジュのグスタフ.Hとロビーボーイのゼロの二人だった。脇役を全部有名人が固めるという、贅沢な俳優さんの使い方をしている。
それで、ホテル内には留まらない。ほぼホテル内にはいない。元気に外へ飛び出して、大冒険を繰り広げる。なんとなく閉じこもり系の話を想像していたので、これは痛快だった。

グスタフ.Hが仲間と脱獄を企てるシーンですが、ありあわせ脱獄道具やその方法がちょっと工作っぽくて、このアイデアと手作り感満載な感じがまさにウェス・アンダーソンの映画を表しているのかなと思った。

シンメトリーが多かったり、どこで一時停止しても絵になるのはいつもの通り。また、床の変わった模様を真上から映し、カメラをぐるっとそのまま縦に移動させてバルコニーを映すとか、従業員たちが食事しているテーブルからカメラを横に移動させると、コンシェルジュがお知らせを言う演説台みたいなのがあるとか、カメラの動きと合わせても細部まで計算されていた。どのシーンも手抜きせずにしっかり作られているので、観ていて本当に楽しいし、二度目に観て字幕を読んだりしなければ、もっと細かい部分にも気づけそう。
ケーキ一つとってみても、あのマカロンが積み上がったみたいなのはなんなんだろう。可愛かった。

また、全体的に忙しい感じの音楽もよく合っていたけれど、一番気に入ったのは、教会で賛美歌を歌うシーン。もともとのBGMに賛美歌が自然な感じで乗る。流れを止めないという手法がお見事。耳でも楽しませようというのが感じられた。

それでも、音楽がいいとか、シンメトリーとか、可愛いとか、色がきれいとかはいままでのウェス・アンダーソンの作風通りで、はっきりいって、当たり前だったりする。私が今回一番この映画が好きだと思った点は、映画の構造です。

映画は文学少女が作家の墓参りに来るシーンから始まる。
画面が切り替わるとその作家が喋っている。どうやら、『グランド・ブダペスト・ホテル』の作者らしい(ここの孫らしき子供との一連のやりとりで、もうこの映画おもしろいに違いないと思った)。
また、画面が切り替わると、廃れたホテルで若かりし日の作家がホテルのオーナーらしき人物に話を聞く事になる。
そして、また画面が切り替わって、栄えていた頃のグランド・ブダペスト・ホテルへ。この映画の本編ともいえるものにここで突入する。
このような四重構造になっているとは全く知らなかったので驚いた。これも、予告を観ただけではわからない。

本編は登場人物も多いし、わりとチャカチャカした感じなのだが、うわーっと駆け抜けたあとで、廃れてしまったホテルに舞台が戻って、この冒険譚は廃れたホテル内で静かに語られていたのだと思い出す。語っていたのがロビーボーイのゼロだというのも途中でわかる。
そして、作家はこの話を一冊の本にまとめる。
そして、作家が亡くなった今、文学少女が墓参りに訪れ、墓の横でその本を開く。

この終わり方がもう完璧だと思った。文学少女は作家に想いを馳せ、作家は在りし日のホテルに想いを馳せ、ゼロはグスタフ.Hやアガサに想いを馳せる。
亡くなってしまった人、無くなってしまったもの、いまここにはないものに想いを馳せる時に、たぶん優しい気持ちになっている。
本編が多少慌ただしかっただけに、このセンチメンタルなラストがいきてくる。

あと、作家の墓に無数の鍵がかけてあるんですが、本の中でまさにキーアイテムとして鍵が出てくるので、そうしたら作家のファンはお墓を巡礼するとき、当然鍵を持っていくよなあと思った。ファン心理もよくわかっている。

この映画の構造は、劇中に出てくるお菓子のようだと思った。
箱に入ってリボンがかけられているんですが、リボンを解くと、箱の側面が四方に開いてカラフルで可愛らしいお菓子が顔を出す。お菓子はホテルやグスタフ.Hとゼロの冒険譚であり、箱やリボンがそれを語り継いだり、読んで楽しんだりする優しい想い。
静かなラストは、お菓子をきれいにラッピングしているようだった。

この想いの馳せ方に感動していたら、エンドロールの端っこのほうでコサックダンスを踊る謎のロシアおじさんを見ていても泣きそうになってしまった。もう充分楽しませてもらったのに、サービス精神が旺盛すぎる。

出演者についてですが、ティルダ・スウィントンが『スノーピアサー』を思い出すようなキワモノだった。おばあさん役。ティルダ様といえば、年齢のわりに老いてなかったり、性別すらもあやふやな『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』みたいな人外っぽい役が多かったけれど、最近は違う意味で人外になってきた。

エイドリアン・ブロディとウィレム・デフォーという顔に特徴がある二人が追って来るの怖かった。あと、しっかりした服装をしてるマチュー・アマルリックかっこいい。立派なおヒゲできっちりしてたエドワード・ノートンもいい。

豪華俳優が大人数揃えられていて、それが次々に出てくるので、出てくるたびに小さな驚きがあって、それだけでも単純に楽しかった。
 

2012年公開。ドイツでは2011年公開。ドイツにサッカーを持ち込んだとさせるコンラート・コッホが主人公。
当時、映画館で予告を何度も見ていたんですが、内容は良くも悪くもその通りのものでした。実際に、現代のドイツにサッカーはあるし、ラストはまず想像できる。ストーリーのあらすじとしても、厳格な学校に送られてきたのはイギリス帰りの自由な気風の先生で、その人が最初は受け入れられないが、凝り固まった考えの生徒を変えていき、更に教職員や周囲の大人たちにも変化をもたらしていく、という、まあ、よくあるといえばよくあるもの。
オックスフォードからサッカーチームが来るところまで予告編に入れなくても良かったのにとは思いました。

ただ、政府の視察団が来た試合が無事にうまくいって、その後のドイツ内でのサッカーの広まりについて文章で説明が出始めて、あれ?もう終わり?となってしまった。
ドイツにおけるサッカーの始まりの話だから、こんな風にしてサッカーが入ってきましたとさ、おしまい、で終わりなのはわかってる。もちろん、続編があるような映画でもないのもわかる。けれど、コッホ先生は始め、生徒たちもそれぞれのキャラクターが良かったから、各キャラクターのエピソードがもっと観たいと思ってしまった。こんなことを言うと元も子もないんですが、もうサッカーの始まりとかどうでもいい。
生徒一人一人を主役にして、金八先生的な連続テレビドラマにしてほしいくらい。

生徒の中で特に目立っていたのは、労働者階級の巻き毛の小さい子と美形の金持ちの息子である級長とボールメーカー社長の息子の太っちょだ。それぞれの外見がまず漫画っぽい。

太っちょのオットー・シュリッカーについては、ボールづくりにも興味を持って工夫をしていたし、最後の試合のシーンでは商才を発揮してたし、たぶん工場を継ぐのだと思う。勉強や運動などはできなくても、そっちの面で活躍するさまがもっと見たかった。キーパーとしての才能もめきめき伸びていたし、サッカーの試合シーンももっとあると良かった。
生徒たちは、学校に通う時はタイまでしたきちっとした服装だけど、サッカーをする時は真っ白な肌着みたいな姿になるのもいい。

巻き毛で小柄なヨスト・ボーンシュテッドは、いじめられていても、気が強いのが良かった。労働者階級ということで、住んでいる街並もかなり汚い。彼の暮らしについても言及してほしかった。

級長フェリックス・ハートゥングは背が高くて美少年だけれど、鼻がやや上がっていてそこに幼さが残っている。美少年とは言っても、エルンスト・ウンハウワーやエズラ・ミラーみたいな完璧な魔性ではなくて、不完全なところがいい。
彼については、コッホ先生が来る前の、意地悪全開だった頃のエピソードも観たい。とりまき引き連れて、校内を仕切ってる感じの。
彼はいい家の子なので父親に逆らえないんですが、殴られた時に、白い頬が赤くなるのが痛々しいやら素敵やらでした。鼻血も出す。父親に対する愛憎みたいなものももっと見たかった。
また、使用人の女の子との恋愛話もわりとあっさりしていた。家にいる時から想い合ってはいたようなので、そんなものなのかもしれないけれど、階級の違いという障害を案外するっと乗り越えてた。あの先が大変なのかな。
使用人の女の子は階級が同じである巻き毛のヨストとも仲良くなっていってたので、三角関係になるのかと思ったらそんなこともなく。
フェリックスはいじめてたのに、最後の試合のシーンで「ヨスト!」とかファーストネームで呼んじゃって、ヨストからパスをもらって見事にゴールするんですよね。それで、二人で抱き合って仲直り…したのだと思うけれど、ここもその描写だけなので、もっと詳しく観たかった。
演じたのはテオ・トレブスくん(テオ・ターブス表記のところも)。1994/9/6、ベルリン生まれ。ドイツのテレビドラマ中心に活動しているみたい。映画だとミヒャエル・ハネケ監督のパルムドール受賞作『白いリボン』、今年日本で公開された『コーヒーをめぐる冒険』、劇場公開されたかわからないけどDVDが出てる『ベルリン・オブ・ザ・デッド』に出演してるっぽいので観たい。

コッホ先生関連でも、ヨストの母とのエピソードや、イギリス留学時代の話も見たかった。特に、友人イアンとの話。イギリスでチームメイトだったっぽい写真も出てきたけれど、彼にとってイギリスでサッカーがどんな役割だったのかがわかりにくかった。フェアプレーの精神だろうか。
イギリスに行ったことを逃げたと罵られていたけれど、そもそも、彼と父との間の確執もあまりよくわからなかった。
演じているのはダニエル・ブリュール。正しい事を教えようという気概を持った真っ当な先生役。もともとは彼目当てに観ました。

一応は実話でありコンラート・コッホというのも実在の人物らしいけれど、実際はイギリスに留学はしていなかったらしい。サッカーボールも彼の父がイギリスから持ち帰ったものだったとのこと。

この前観た『キル・ユア・ダーリン』もそうだったけれど、実話ものについてもっと観たいと思っても、実話なのだからそれ以上のものはない。それでも、この映画についてはこれだけ脚色が加えられているのなら、コッホとイアンのイギリス時代のエピソードくらいは入れて欲しかった気もする。

19世紀の規律が厳しいドイツの学校、牧師でもある怖い父親、豪華な屋敷の坊ちゃん、労働者階級の同級生…。おもしろくする設定がわんさか入ってる。舞台は整っているのだから、もう少し奥深いところまで描いてほしかった。
それでも、もともとが、ドイツサッカーの始まりの話なので、本当はこれで充分なのだ。学園ものとして観たかったというただのわがままです。


この前観たのと同じくインターナショナルプログラムですが、違うラインナップで。今回はフランス、スペイン、アメリカ、スイス、トルコ、イギリスの作品です。
今 回はセリフがなかったり少なかったり、映像も奇妙で不思議なものが多かったので、わかりにくい作品が多かった。でも、これこそがショートフィルムの醍醐味 ともいえるかもしれない。今回、三日間で複数のショートフィルムを観ましたが、観る前までの印象は今日観た作品に近いかもしれない。

以下、全作品について、ネタバレなど含みます。





『MILK/ミルク』
子供が食卓でシリアルを食べようとしているけれどミルクがなくなってしまい、冷蔵庫から出したいけれど、冷蔵庫の前には馬が鎮座していて…という話。もう家 の中に馬がでーんといる、という画がなんとも言えない奇妙な感じ。家族も困っているけれど、パニックには陥らず、わりと冷静に受け止めている感じだった。

二階の部屋におじいさんがいて、不吉な感じのする歌を歌っているのですが、家の中の厄介ごと=馬=おじいさんという皮肉なのかなとも思ったんですが、はっきりせず。

監督さんの質疑応答があったんですが、CGの馬を使おうとしたけれど、うまくいかなかったので、本物の馬を使ったとのこと。冷蔵庫の前でも子供に押されても動かないし、撃たれたあとも寝たまま動かないので、何か特別な訓練をされた馬なのかもしれない。
また、次回作は長編のロマコメらしいです。


『Canis/野良犬』
犬の吠える声はたくさん入っているのですが、人間のセリフはなかった。人形を使ったストップモーションアニメ。犬はフェルトかな。家の飼い犬は可愛いですが、野良犬たちは怖かった。

ま ず世界観からよくわからなかったんですが、少年と犬とおじいさんで住んでいて、あまり食料がないようだった。外の野良犬たちも飢えているようだったので、 罠を仕掛けていたけれど、不注意でおじいさんが野良犬たちに喰われてしまう。このシーンが怖かった。そして、その中の一匹が犬ではなく人間というのも、一 層怖い。

飼い犬を泣く泣く殺すはめになったりと怖いシーンが続いて、犬と一緒にいた人間が少年の子供を産み、少年が赤ちゃんを抱き上げて終わる。
少年も最後は犬の皮をかぶっていたし、これからは野良犬と一緒に生きるのかもしれない。

ラストに力強さを感じたものの、やはり各シーンでの怖さが強烈だった。ダークファンタジーというか。ファンタジーでもないのか…。モノクロなのもまた、怖さを際立たせている。


『Portraiture/友の遺した写真』
亡くなった友人の部屋の部屋へ入り、大量のフィルムを現像すると、そこに写っていたのはセルフポートレイトだった。
病気なのか、悩みがあったのかはわからないが、写真の中の友人は少しずつ痩せ、表情からも苦悩が読み取れるようになってくる。
もっと、ちゃんと向き合っていれば、何か友人の役に立てることがあったかもしれない。しかし、もう遅い。後悔と切なさに溢れた作品だった。

わずか10分ながら、途中、過去の映像として、その友人との会話が何度か挿入されたり、作りが凝っていた。また、友人の部屋は棚にカメラがたくさん置いてあったりと、おしゃれで美術面でも見応えがある。
しっとりした作風も好きでした。


『Collectors/コレクターズ』
昆虫採集の話かと思ったら、なんでもかんでも採集していた。しかも、窓から手だけひょいと出していたので、家にいながらにして、ということはインターネット なのかもしれない。ひょいひょいなんでも取っていたら、結局何もなくなってしまい、もうその集めた家ごと集めたりと、欲望に際限がなかった。
たぶん、現代社会の皮肉なのだと思うけれど、この作品もセリフ無しのアニメーション。

この作品も監督さんの質疑応答があったのですが、アイディアを出すところから始めると、完成までに1年半かかったとのこと。アニメーション作品のほうが作るのが大変らしい。
監督自身には特に収集癖はないけれど、強いて言うなら、お金かな?とのこと。
スタジオに四角い窓が付いていていてそこから手がにゅっと出てきてびっくりしたことが今作の始まりだった、とのこと。


『HUNGER/最後の晩餐』
砂漠の真ん中に食卓と簡易キッチンをかまえられている。四人家族が囲むテーブルで、食事の前のお祈りよろしく、ロシアンルーレットが始まる。結局、子供が倒れ、鍋の蓋をあけると、肉が三つだけ入っている。

ああ、なるほど、HUNGER(飢え)…、と観終わってタイトルに納得してしまった。わずか2分の作品ですが、テーマが簡潔に、濃縮された形で表現されていて、映像の作り方がうまいと思った。トルコの作品です。


『THE PHONE CALL/一本の電話』
悩み相談の電話がかかってきて、その相手との会話劇。とはいえ、実際には電話はしていないと思うので、ほぼ一人芝居です。画面も、ほとんど電話をしている顔を正面からとらえている。

この相談員を演じているのがサリー・ホーキンスでびっくりした。やっぱりすごくうまい。最初はあまり親身になっていなかったものの、少しずつ引き込まれ、なんとか命を救おうと必死になっていく。ほぼ、表情や口調の変化のみですが、観ていて飽きない。
特に、ジャズをやっていた話が泣ける。これから死のうという人に元気づけられて、彼女はどうしても救いたいと思う。

電話の向こうの人を演じていたのがジム・ブロードベント。『ブリジット・ジョーンズの日記』のお父さんや『クラウド アトラス』の逃げ出すおじいさん役の人で、こちらも豪華。しかも、最後に後ろ姿は出てきたかもしれないけれど、ほぼ声のみの出演。

サリー・ホーキンスの同僚役のEdward Hoggという人が恰好良かった。『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』に出てたいたいだけど、憶えてません…。

最後、セリフや説明はないんですが、たぶん、電話ですすめられたジャズの店に憧れの同僚を誘って行くシーンが良かった。結局、命は救えなかった、というところで終わりにしなかったのがうまいと思う。後味がいい。


『Woodrow Wilson/ウッドロウ・ウィルソン』
特別上映ということで、この作品のみ2005年のもの。デイン・デハーンが出ています。ノースカロライナ・スクール・オブ・ジ・アーツという表示が最初に出たんですが、学生さんの作品だったらしい。

大人しくて変わり者の子がなぜか上級生を差し置いて人気者になってしまったので、こらしめるために偽のドラッグを作ったら、プラシーボ効果でみんながそのドラッグにハマって、その子は更に調子に乗るわ、学校全体が堕落するわ、事が大きくなっていく…というコメディ。

最初は変な色の太い縞縞のラガーシャツだかポロシャツにでっかいメガネですごくダサい恰好だったデハーンくん。段ボールで作った人形に話かけたりと、変わり者でしたが、次第に調子に乗っていく。
グラデーションの入ったサングラスにヒップホップ系の服装のいかにも遊び人の格好になり、服装だけでなく、女の子たちもたぶらかす。主人公の憧れの女の子にも手を出したりやりたい放題。

最後、病院から脱走して、なんとか家まで帰ってきた時の格好も、入院してるときに着る背中が開いた服に、どこ通って帰ってきたのかは知りませんが麦わら帽みたいなのをかぶってボロボロのジャングル帰りみたいになっていた。

16分半の中で服装がコロコロ変わる。服装だけでなく、性格も変わる。
最初の、なんにも知らないウブな感じもニコニコしていて可愛い。車の後部座席で居心地悪そうにしている様子は、この頃から少し影があるのを感じた。
でも、図に乗ってきて、服装や言動が次第に派手になっていく様子も憎たらしくてすごく可愛い。
ドラッグの話を出されて知ったかぶりで話を合わせるところも可愛かったし、偽のドラッグを渡されて、耳でやるとキクぜ?という言葉を信じて耳に羽根みたいなので塗り込んで、「本当だ!タマがゾワゾワしてきた!」とか言っちゃう姿も可愛かった。
もう、恩とかまったく感じてなくて、踏み台にするだけするという極悪人。でもちゃっかりしていて憎めない。たぶん、登場人物たちは憎んでるけど。
そうして最後、お母さーん!と命からがら(に見える)家に帰ってきた時の様子も反省してるんだかしてないんだかわからないけど可愛い。
もう、全体的に可愛かったです。
勿論、自分がデハーンくん目当てで観ているせいもあるとは思いますが、それでも、主人公より確実に目立っていたし、キャラクターとしても一番良かった。
これ、ソフト化はされてないのかな…。手元に置いておきたい。

ちなみに、劇中では14歳の役だった。たぶん、実際のデハーンくんは2005年で18歳くらいかな。見た目は、いまとそんなに変わらなかった。

この前観たのはアカデミー賞ノミネート作品が集められている回でいいのは当たり前だったので、今回は実はほとんど期待をしていなかったのですが、なかなかどうして、どの作品もそれぞれ特色があっておもしろかった。いろいろな作品を撮る方がいるのを再確認。
また、今回はウクライナ、アイスランド、イギリス、ドイツ、ベルギー、スペインの映画だったんですが、各国の景色や部屋の内装などもそれぞれ違って楽しかったです。

以下、全作品について、ネタバレなど含みます。





『Not less than 50 kg/50kg以下お断り』
ウクライナの映画は初めて観ました。主人公の女の子がとても可愛かった。

50kg以下では動かないエレベーターに乗るために四苦八苦。オフィスの観葉植物と一緒に乗ったり、清掃用具を勝手に借りたり、警備員さんと同乗してもらったり。 挙げ句の果てに、カロリーの高そうなお菓子やパンをがぶがぶ食べて太ろうとしていた。その奮闘具合が微笑ましくて、つい笑顔になってしまう。
セリフがない作品なので詳細はわからなかったのですが、会社を辞めさせられたか、部署の異動を言い渡される。本当は50kg以下なのがバレたから? 乗るためのすったもんだを見られたから?
異動先か新しい会社は階段で下におりていく半地下のような場所で、エレベーターは関係ない。そして、部署の人が林檎をくれる。カロリーの高そうなお菓子よりも林檎のほうがいいし、半地下でも窓からは光が差し込んできている。辞めさせられたときは落ち込んでいたけれど、これはこれで、見方を変えればこっちのほ うが素敵かもしれない。
という解釈でいいんだと思うけれど、なんせ、セリフがないのではっきりとはわかりません。


『Bruised/傷跡』
アイスランドの映画も初めてかもしれない。
野生のヤク(多分)が草をはんでいる草原で男性がバイクで事故に遭う。目覚めると少し様子がおかしくて、どうやら女性の姿だけが見えないらしい。
前回観た『The Voorman Problem/ミスター・ヴォーマン』と同じ部類の世にも奇妙な物語系の少し不思議な世界へ迷い込んでしまう話。

見えないけれど、男性が罵倒しているのは聞こえるし、何かを殴っているのもわかる。そして、自分はどうやら女性が見えなくなっているらしい…ということは殴 られているのは女性だ。そこまでわかっているのに、見えないためにDVに遭っている女性を助けられないというジレンマがつらい。
今作も主演の男性が恰好良い。若い頃のヒース・レジャーの顔をもっと痩せさせた感じ。


『The Boy with a Camera for a Face/カメラの顔をもった少年』
コメディアンであり、俳優、脚本などもこなすスペンサー・ブラウンの初監督作。

これも世にも奇妙な物語系。産まれたときから頭がカメラになっていた男の話。産まれ落ちたときに両親や医者が驚く顔も、ちゃんと録画してた。
当然いじめにあうけれど、記録しているので犯人がすぐにわかって先生に怒られていじめはなくなる。便利なこともあるけれど、著作権保護の関係から映画館に入れないなど不便なことも。この監督さんが知っているのかはわかりませんが、外見がまさに映画泥棒です。
テレビにスカウトされて、トゥルーマンショーみたいなものを放送することになるけれど、みんながテレビに釘付けでゾンビのような生活を送るようになってしまったため、世界を救うために自殺をすることになる。世界は元に戻ったけれど、恋人は悲しんでいる、というような話。
途中はコミカルで笑いも起きていたんですが、最後は少し切なかった。


『Half You Met My Girlfriend/僕の彼女』
恋人がおしゃべりしすぎてうるさいなー、そうか、もう下半身だけでいいんじゃないの?という話。
アニメーション作品。綺麗なあわい色づかいですが、映像は暴力的なほどせかせか進んでいく。マネキンの下半身だけがちょこちょこと横を歩いているさまがシュール。

Nicolas de Leval Jezierski監督が来場していて、軽い質疑応答があった。このアイディアはどこから来たのか、という質問には、デート中に彼女の前にガラスの板が 通って、下半身しか見えなくなったときに思いついたと言っていた。主人公が芸術家なのは?という質問にはそこまで深く考えていなかったとのこと。今回字幕 を付けてそこまでちゃんと読んでくれたのは嬉しいけれど、どちらかというと内容よりは流れを重視しているとのこと。でも、主人公のモデルはやはり自分で、 自分も女性のお尻に目がいっちゃうとのことでした。
ちなみにバンドもやっているらしく、エンディングの曲は彼のバンドの曲らしい。


『THE HUNGER/ウサギ』
家も何もない、草むらでのセックスを目撃してしまった少年。嫌悪感を抱いたのか、ウサギの死体を二人に投げつける。怒った男が追いかけてきて、少年を殴る。
投げつけた死体は何か他の動物にくわれたのか、内臓が見えてしまっていた。

生と死というか、プリミティブな話なのかと思っていた。タイトルもHUNGERだったし。
実際に、海の中まで逃げるウサギを追いかけていって、耳を持って持ち帰ってくる少年は野性味あふれて見えたし、そういう撮り方をしていたと思う。

ただし、この話にはオチがある。
おそらく、少年の家は厳格なキリスト教徒一家であり、父親が特に厳しそうだった。
そして、食事の際、少年の正面に座るのは、さきほどセックスをしていた女性。少年の姉だったのだ。
食事の前のお祈りで、姉が「処女マリア様に」という言葉を発した際に、少年がわざとらしく咳をしていた。てっきり私は、少年は何をしているかわからずに嫌悪感を抱いたのかと思っていたけれど、全部知っていたのだ。
そして、出された食事はウサギ。さきほど、内臓が飛び出している姿を見ているし、姉はぎょっとしていた。
すごい秘密を握ってしまった少年の話でした。これでいつでも優位に立てる。

個人的に、今日観た作品の中で一番好きでした。


『PACIFIER & BLOWPIPE/決行の時』
深夜のダイナーにお面をつけた二人組の強盗が入ってくる。どうやらどこかの強盗を失敗したらしくあとが無さそう。ジャンルも何もわからないで見始めると、シ リアスなのかなとも思ったんですが、二人組のお面がそれぞれ笑いを誘うような力が抜けたものである点もそうなんですが、会話がおもしろく、どうやらコメディで良さそうだった。クライムコメディですね。

ダイナーに二人組で強盗に入ってきて喋りまくるということで、タランティーノの影響を感じる作品だった。

途中で警官がハンバーガーを買いに来るんですが、まったく気づかない。で、外に停めてあるパトカーの中で、ハンバーガーをかじりながら同僚とどうでもいい会話をしている。ジョージ・マイケルはもう心が女性になっていて、その上で同性愛者ってことはレズビアンなんだ!ジョージ・マイケルは女が好きなんだ!イ エーイ!みたいな、本当にどうでもいい会話。ダイナーの中と、外に停めてあるパトカーの中という、二元というか、少し群像劇っぽくなるあたりもタラン ティーノっぽい。

それにしても、どうでもいい会話と群像劇を13分という短編の中でやりきるのは素晴らしい。
絶対にアメリカ映画だろうと思っていたら、スペイン映画だった。



『Beat/鼓動』
ベン・ウィショー主演作。この作品目当てだったのですが、これが本当に難解でした。
鼓動という邦題がついてますが、そのままビートでいいのではないかと思う。

ウィショーが曲に合わせて外を激しく踊りながら歩いているので、ミュージカル的なものなのかと思ったらそうではなかった。感情を表現していて外からは普通に見えているのかと思ったらそうでもないらしい。
しかも、動きが曲と合っていたけれど、外から見たら曲も聞こえない。ただの踊りながら歩いている人ですよね。ウィショー以外の人は普通に生活をしているから不審者にしか見えない。
コンビニの陳列棚の商品をざらざらーっと下に落としては外につまみだされ、飲食店でテーブルを叩いては注意されてつまみ出され殴られ。ギャルたちにはキモーイ!みたいなことを言われ、チンピラに殴られ。

映像的には恰好良かったけれど、ストーリーがあるタイプではないのかなと思った。今作の監督は、ミュージックビデオやCMを作っているというのに納得。

使われていたのはBATTLESの曲だったみたいなんですが、それに合わせて激しく踊るベン・ウィショーは恰好良かったです。長い手足をゆらゆらさせたりめいっぱい使っていて魅力的でした。ただ、日常生活にそんな人がいたら怖いのは怖い。
殴られたあとに鼻血を出しているショットがあるのも嬉しかったです。

コーエン兄弟監督作品。ルーウィン・デイヴィスは実在する人物なのかと思っていたが、最後に“現在のルーウィン・デイヴィスは”みたいな文章も出なかった。デイヴ・ヴァン・ロンクという実在するフォーク歌手をモデルにしているらしい。
アカデミー賞撮影賞と録音賞にノミネートされていました。

以下、ネタバレです。





フォークにこだわりを持つミュージシャンというだけで、もうロクでもなさそうな雰囲気だけれど、実際かなりのろくでなしだった。まず家がなくて、知り合いの家を点々としてカウチで寝させてもらっている。その家では暴れるし、女友達を妊娠させる。ライブハウスの店主のご好意で出演させてもらっているが、他の出演者 にヤジを飛ばす。
周囲の人間にはかなり恵まれているようだった。彼がろくでなしなのをわかっていて許容していそうだった。

キャリー・マリガン演じるジーンは本気で怒っていたけど。罵倒の数々が痛快ですが、特に、「コンドーム二枚重ねよりも、巨大なコンドームの中にお前ごと入れ」と「私に触るな、というか、生き物全般に触るな」が好きでした。

中盤以降、ニューヨークからシカゴまで車で目指し帰ってくる、ちょっとした旅があって、そこら辺だけロードムービーのようになっているのもおもしろい。ルー ウィンは頑固ですが、このタイプの主人公ってあんまり自分から行動を起こすイメージがなかったので。一箇所に留まっていることが多そう。どの辺まで実在の 人物のままなのかはわからないけれど、途中でロードムービーっぽくなるのは、コーエン兄弟の話の作り方のおもしろさなのかなとも思う。

また、最後の方で、教授の家で猫に起こされるところからループっぽくなるのもおもしろい。二回目はちゃんと猫を逃がさないようにするのは、ちゃんと学習しているのを感じた。ただ、ヤジをとばしてライブハウス裏で殴られるのは学習していなかった。

映画になるくらいだし、これは彼の特別な数日間の出来事なのかと思ったんですよね。でも、ラストを少しループっぽくすることで実はこれは彼の日常なのだとわかる。妊娠させたかもしれないのも、ジーンが初めてではないようだった。

ただ、最後のライブハウスのシーンでは、ボブ・ディランらしき男がステージで歌っていて、ルーウィンが感慨深そうに聴いていた。変わらない日常のようで、少しの変化はある。猫も逃がさなかったし、ほんの少しずつは前に進んでいるのかもしれない。ループっぽい作りの粋さがわかる。

主演はオスカー・アイザック。新スターウォーズにも出演予定。フォークの渋いギター演奏も歌も彼自身のものらしいのが驚いた。撮影をしながらの録音だったらしい。

『SHAME』でも歌を披露していましたが、キャリー・マリガンも歌っている。ジャスティン・ティンバーレイクは一応本業なので歌えるのも不思議ではないんですが、彼とのデュオも良かった。
ま た、フォークは金にならないから、ということで、ジャスティン演じるジムは変なポップソングをレコーディングするんですが、これがまたハマってる。この映 画の中ではこのポップソングは好意的なとられかたはしていないし、このキャスティングに少し厭味すら感じた。でも、こうゆうスカした若者みたいな役がうま いし似合う。

あとは猫がとにかく可愛い。教授の家から抜け出して、一緒に行動することになるのですが、抱きかかえて地下鉄に乗っている と、外の景色をよく見ている。車窓に猫の顔が映る。猫目線だろう映像もあった。歩くときにしっぽがぴんと立っているのも可愛い。シカゴへの途中、車を捨て ることになって猫をどうするか迷ったときの、え?なんで車降りるの?まさか置いてくの?みたいな不安の入り混じったつぶらな瞳が可愛かった。自分も降りた 方がいいのかな?というように、脚を出しそうになっていたけれど、あれは猫演技なのだろうか。