『アグネスと彼の兄弟』



日本だと2005年のドイツ映画祭で上映されたらしい。ドイツでは2004年公開。トム・シリング目当てで観ました。

三人兄弟それぞれの揉め事の話なので、『ひかりのまち』や『8月の家族たち』と似た印象を受けた。ただ、本当に個々の揉め事で、彼ら兄弟間のやりとりはそれほどなかった。男兄弟だとそんなものかなという気もするけれど。

また、タイトルを見るとアグネスが中心でその兄弟の話はそれほど出てこないのではないかと思うが、むしろ、アグネスが一番少ないくらいで、兄弟二人のエピソードのほうが分量が多く感じた。けれど、邦題詐欺というわけではなく、原題がAgnes und seine Brüderなので、おそらく、原題のままだと思う。

三人とも、家族間の問題やら、セックス依存症やら、性転換からのごたごたやら、人生がうまくいっていない。悪人が酷い目に遭う分にはザマーミロという気持ちになるけれど、この三人については、悪人というわけではなく、切羽詰まった中で踏み外した小さな一歩からごろごろと転げ落ちるので、他人事ではない。身近な悲劇に感じる。

それでもきっかけが小さな踏み外しなので、ぼろぼろではあっても三人ともに対して、回復の兆しや光が見える。身近な悲劇に救いがあるのは観ていてほっとする。

ただ、最終的にそれで良かったのかわからない。一人の兄の妻は家を出るのをやめたけれど、家庭の問題がそこから修正できるのかわからない。もう一人の兄は運命の恋人に出会えたけれど、父を殺しているのでいずれ捕まるだろう。アグネスは昔の恋人とのわだかまりは消えたようだったけれど、おそらく性転換手術のときに負った何かで命を落とす。ただ、最期に見た幻は優しいものだったので、これで良かったのかもしれない。

三人の父親は、子供が12歳までおねしょしていたことを近所に言ってまわる、子供に性的虐待をする、妻が出て行っていることなどから、問題のある人物であることは間違いない。三兄弟がそれぞれ問題を抱えてしまったのも、父親の影響があるのかもしれない。
父親を殺してしまった兄は、アグネスがいまでも相手をさせられていると思い込んでいたし、自分の状況もままならなかった。私から見ても、あの父親の影響を疑うのだから、当事者が、すべて父親のせいだ、あいつがいなければ…という思考回路に陥ってしまうのも仕方がないのかもしれない。その翌日に人生が好転するのは、皮肉としか言えないけれど。

アグネスが良いキャラクターだったので、もっと彼女の話が見たかった。これは性転換ものではよくあるパターンでもあるのかもしれないけれど、少しヘドウィグを思い出した。
夜、出歩いて、同居人と喧嘩をし追い出される。夜に出歩くのもさみしさなどがあったのでしょうが、それはアグネスが悪い。
病気のことを誰にも言わないのは、周囲の人に心配をかけたくなかったのだと思う。そして、性転換のきっかけとなった男との再会のシーンが泣けた。責めることはしないで、許したのは、彼と会うのが最後になるとわかっていたからだろうか。スターになった彼に再会して、あなたには野心があったのだから仕方ないと告げるさまが良かった。また、一緒に部屋を抜けようと誘われても気丈に断っていた。今更ついて行ったところで得られるものなど何もないこともわかっていたんだろうし、自分の病気のことも考えたのだろう。ここでの行動が本当に恰好良かった。

トム・シリングは一人の兄の息子役だった。思ったよりもたくさん出番があって満足。年頃の息子ってあんな感じなのかもしれないけれど、憎たらしいし、親の心配をよそに家を空けて「友達とレイヴに行っていた」とか言っちゃう。高校生か大学生か、ある程度の年齢っぽいけれど、まだまだ子供という役柄だった。
『コーヒーをめぐる冒険』は2012年で、この映画はそれの更に8年前になるんですが、この時のほうが、ジェームズ・マカヴォイに似ていた。

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