『トランセンデンス』


『ダークナイト』や『インセプション』などのクリストファー・ノーラン監督作品や『マネーボール』などの撮影をしてきたウォーリー・フィスターの初監督作。出演者もキリアン・マーフィーやモーガン・フリーマンというノーランファミリーとも言える方々に加えて、ジョニー・デップとポール・ベタニーということで期待してたんですが…。

以下、ネタバレです。







死にゆく博士の意識を人工知能に取り入れて、成功はするものの、現代社会は様々なものがインターネットに繋がっているため、世界各地まで拡散し、世界征服しようともくろむ脅威となる、という話かと思っていたけれど、そうではなかった。本当はそうゆうSFが観たかった。これはSFですらないと思う。

AIなんだから、他のAIとかコンピューターを味方につけたらいいのに、人間を内部から改造していく。治療するついでに内部に細工をして、操る。また、雨を降らせて、その雨を浴びた人にナノロボットを埋め込む。
じゃあ、家に居た人は無事なの? 傘をさしてた人は? そんなアナログな手段で操られるのを防ぐことができるのもおかしい。でも、序盤も、1年間職場に潜伏していたテロリストが毒入りのケーキをふるまうことで皆殺しにするというシーンが出て来た。ジョセフは仕事をしていて食べなかったので生き残った。これ、甘いもの嫌いなんで、とかでも生き残れたんですよね。1年潜伏してたら、もっと確実な方法で殲滅をはかるんじゃないかと思うけれど。職場を丸ごと爆破するとか。そもそも、1年潜伏する必要があったのか。

他にも時の流れに違和感があった。博士の意識がAIとして働き始めてから軌道に乗るまで2年もかかっている。ネットに繋がっているんだし、もっと素早く世界を混乱させられるはず。僻地(ロケ地はニューメキシコ)に施設みたいなのを作っていたけれど、それ、作ってるの人間なんですよね。たぶん、だから時間がかかってたのかな。SF的ではない。

そして、その2年間、レジスタンスの面々やFBIは何をしてたんだろう。ウィル博士は普通に亡くなったと思っていたにしても、少なくともエヴリンは行方不明になってるのに。捜索されてはいなかったのかな。この面以外にも、キャラクターがスクリーンに登場しているとき以外はまったく動いていないように思えた。その場限りで都合良く動いているようにしか見えない。せっかくいい役者さんを揃えているのに、キャラクターに命が宿っていない。

崩壊以降も3年経っても、降らせた雨粒が残っていたのかも不明。3年も経過させる必要があったのか。

終盤、操られた人間VSレジスタンスがドンパチで戦うんですが、どれが操られている人間かわ
からないとか、撃たれた部分が即座に治療されるとか、これって、SFというよりゾンビ映画では…。優秀なAIなんだから、人間同士で争わせるよりは、もっと有効な手段があるだろう。

そもそも、施設の拠点をニューメキシコにするのはいいとしても、AIならば、コンピューターに侵入して大ダメージを与えられる都市部を舞台にしたほうが良かったのではないかと思う。あの場所では機械があまりなさそうだし、もう最初からゾンビ映画にしたほうが良かったのではないか。

最後の方でもエヴリンとマックスの「ウイルスを私に注射して!」「でもこれを注射すると君の細胞にもダメージが…」って、病原体じゃないんですよね? コンピュータウイルスの話をしてるんですよね? 書いてて、もしやあれ、病原体のことだったのかなとも思ったけれど、病原体ではAIにダメージが与えられないし、やっぱりコンピュータウイルスですよね。そんなの、人体に注入して生きてられるの? そもそも抽出できるものなのか。この辺だけSFだから細かいことは気にするなみたいなことを言われても説得力がない。

それで、地下で人体錬成みたいなことをしてたけれど、出来上がったのは普通のジョニー・デップなんですよね。もっと、人を超越した、エイリアンみたいなものを作れば良かったのに。

私はもともとあったAIであるPINNがウィル博士の意識を呑み込んで、ウィルのふりをして人類の脅威となる話だと思ってたんですよ。でも、たぶん、一応のオチとしては、AIは本当にウィルの意識で、人の病や怪我を治す、植物を守るというエヴリンの願いを叶えてあげてたってことだと思う。誰も殺さなかったと言ってたし。まあ、だったら、なんか埋め込むのはやめたら良かったんじゃないかと思うけれど。
インターネットとかコンピューターがなくてはどうにもならない現代社会に警鐘をならしたりはしてなかった。ひどく狭い世界の話だったようです。

とにかく、AIとかSF要素の組み入れ方が中途半端だった。凶悪なAIが他のコンピューターとともに都市にいる多くの人間をパニックに陥れてほしかった。最後の停電のシーンではビル群が出るじゃないですか。あの一帯とも繋がってたってことですよね? なら、もっと多くの人間を間接的に支配できたんじゃないの? FBIなどもニューメキシコにわざわざ出張してきてご苦労様です。しかも、キリアン一人だけ…。他のFBIはどうしたんだろう…。

AIがAIの能力を発揮しないのならば、いっそ、ゾンビ映画にしてほしかった。死んだ夫ウィルを愛するあまり、ゾンビとして生き返らせた妻エヴリン。ウィルは仲間を増やすために人間を襲ってゾンビ化。「奴はもう死んでるんだ!目をさませ!」とか言いながら、危険な妄想にとりつかれたエヴリンを救うために、マックスがゾンビ軍団と戦う。

マックスはエヴリンのことを少し好きっぽかったし、生きている人間同士の何かもあったら良かったのに。ゾンビ映画の話ではなく、『トランセンデンス』の話です。マックスというキャラクターをもっと活躍させていれば、話の流れも変わった気がする。

それでも、ひまわりや雫など、映像は綺麗でした。さすが撮影監督。

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