『天才スピヴェット』


試写会にて。『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督ということで、フランス語で舞台もフランスなのかと思い込んでいたけれど、英語でアメリカを横断していた。
『T・S・スピヴェット君 傑作集』という小説が原作になっていて、作家さんは1980年生まれと随分若い。

以下、ネタバレです。








小説が原作のせいか、スピヴェットの語りでストーリーが進んで行く。視覚的な要素も絵本のように可愛らしく、効果的に取り入れられていると思ったので、あんまり説明せずとも映像だけで見せてくれてもいいのにとも思った。
ちなみに、試写会だったので2D上映だったのですが、
前半部分、スピヴェットが旅立つ前までは、時系列もばらばらだし、エピソードエピソードが短く、破片を語りで繋げて行くようなパッチワークっぽい印象で、わりとちゃかちゃかしていたので、内容があまり頭に入って来ないまま話が進んでいってしまった。

けれど、スピヴェットが家を出てからは、慣れたせいもあるのかもしれないけれど、一気に観やすくなった。登場人物が減ったせいかもしれない。
基本的に旅の道中はスピヴェット一人で、奇妙ではあるけれど優しい大人に助けられながら話が進んでいく。
合間で会う大人たちは誰も彼も魅力的。セーラー人形の船長によく似たおじさん(ホームレス?)、ホットドッグ屋台の肝っ玉おばさん、コントのような警官(たぶん演じているのはコメディアンじゃないのかな…)、ヒッチハイカーの写真を撮るトラック運転手(痩せていてヴィジュアルが特徴的)。
前半にしても、中盤にしても、話が進んでいくといった感覚は変わらない。特に中盤は電車自体がアメリカを横断しているので、ラストへ向かっていく印象を残す。

映画は大きく分けて三部構成になっていて、スピヴェットがスミソニアン博物館に到着してからが三部といえると思う。
こうゆう子供が一人で冒険する話はだいたい道中が大切で、もう到着しようがしまいがどっちでもという撮られ方や、到着したとしてもしたところで終わることが多い。でも、この映画に関しては、着いてからも長い。
頭に電流を流されているところは何か嫌な予感がしたし、スミソニアン博物館次長の女性はスピヴェットのことを持ち上げてステージママのようになっていたし、ここにきて話がそんな流れになると思わなかった。到着してめでたしめでたしで終わらせてくれたほうが良かったのではないかと思った。

でも、チラシにもなっている、スピヴェットの受賞スピーチシーンは良かった。おめかしした姿は美少年っぷりが際立っていた。
また、いままではわりとどんな大人に会っても、困難に直面しても動じなかったのに、スピーチシーンではたどたどしくなっていて、演技もうまいと思った。
このシーンは、エキストラ130人の前で10ページ分のセリフを話したそうなので、本当に緊張気味だったのだろうか。

博物館次長のステージママの売り方もあり、テレビにも出演してちやほやされて、博物館に到着して以降がこんなに長くなくていいのにとも思ったんですが、そのテレビ番組のゲストに本物の母親が来たあたりから、嘘みたいに話が丸くおさまっていく。

結局、家族ものとして帰結していくんですが、普通の家族ものと違うところは、子供であるスピヴェットはとっくに大人だったというところだ。
遊んでいる最中に双子の弟を亡くした傷を一人でずっと抱えながら生きてきた。途中、弟の幻のようなものと会話するシーンもあったが、おそらくまったく正常な状態なわけではなく、病んでいたのだと思う。

無骨な父親、変わり者で博士の母親ともに、スピヴェットとちゃんと話すということがなかったのだろう。姉にしたって、弟とちゃんと話すなんてことはしない。年頃の女の子なら当たり前だ。

それを初めて、テレビ番組収録という場ではあったけれど、面と向かって話す。あれは事故だった。あなたは悪くない。

いつまでも鉛のように心の奥底に居座っていた出来事について、初めて、許されたと感じたと思う。言葉で聞かなきゃわからない。

この映画は、子供が道中で成長するわけではなく、子供に出て行かれた家族たちが成長する話だったのだ。

スピヴェットたちの住まいは西部だし、アメリカを横断しているし、スミソニアン博物館はワシントンにある。でも、監督の反ハリウッド精神がアメリカでの撮影をよしとしなかったらしく、カナダのアルバータ州とケベック州で行ったらしい。電車のシーンはどう撮っていたのだろう。

2Dで観たのですが、3Dだと発明品やスピヴェットが頭で考えている図式などがぼんやりと手前に浮かんでくるのかもしれない。迫力面とは違う使われ方をしてそう。監督自身、3Dにかなりこだわりをもって作ったらしいので、3Dのほうがいいのかもしれないけれど、見比べていないので不明。

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