『悪童日記』


アゴタ・クリストフの1986年の小説の映画化。
読んだのは20年以上前で、内容を忘れていたので原作との比較はできません。近いうちに読み直したい。

以下、ネタバレです。







舞台は戦時下のハンガリー。
戦時下とはいっても、戦争をしている当事者ではなく、子供たちの目を通して描かれているので、ドンパチはそれほどない。どちらかというと静かなくらいなので、数回ある爆発シーンはどれも音がかなり大きく感じた。
それぞれが、人を殺すシーン、母親に爆弾が落ちるシーン、父親が地雷を踏むシーンと衝撃的でもあるので、余計に爆弾の威力を感じて大きく聞こえたのかもしれない。

兵士が戦ったり、爆弾で吹き飛ばされるのも、もともとの小説の作風通りというか、双子が日記に書いた絵で表現されている部分もあった。
それも、淡々としているので、少し不気味で怖いパラパラアニメのようになっていた。

淡々としているのは、主人公の双子の感情そのままなのだろう。戦争につかず離れずのようでいて、結局両親や隣りの家の女の子を戦争でなくすのだから、自分たちが兵士として戦うわけではなくても、直中にいたのだ。

ポスターなどを見ればわかるが、主役の双子役の子たちの表情が素晴らしい。監督が見つけてきたハンガリーの貧しい村の子たちらしく、映画出演も初めてだそう。かなり顔の整った双子なのですが、この先も映画に出て行くのだろうか。
感情を殺しているような役なので、演技面ではよくわからないけれど、たたずまいははまっていた。
大体のシーンで、周りすべては敵という顔をしてるんですが、一人が下から睨み、もう一人が顎をあげてこちらを見ている様子などは、並んでいるだけで絵になる。
コートなどのもこもこした服も可愛かった。体を洗ってもらうときの痩せ細った裸も印象的。

優しくて綺麗で若い女性に、体を洗ってもらい、食事を与えてもらうシーンは映画の中で色合いもあたたかく、ほっとするシーンだった。でも、なんとなく嫌な予感も感じるシーンで、それは双子と同じく私も疑心暗鬼になっているだけかなと思ったら、やっぱりいい人ではなかった。

他のシーンはだいたい、少しくすんだような色で撮影されている。祖母の家が古いせいかもしれない。
あたたかい色合いはほっとしたけれど、作り物めいていてなぜか居心地が悪かったのだ。くすんだ色のほうがしっくりくる映画だった。
また、双子役の少年たちが美しいせいもあるかもしれないけれど、背景を含めて、綺麗で絵になる映像が多かった。

二人は育つというより、どんどん精神的に強くなっていた。二人が離ればなれになったとき以外は取り乱すこともない。子供らしさが封印されていた。成長とは少し違うと思った。
最後、あれだけ嫌がっていたことを自分たちで選択をする。大人の手によって、ではなく、自分たちで離れて行く。もうそうなると、これで本当に怖いものがなくなる。

この二人はどんな大人になるんだろう…と思っていたら、『悪童日記』のあとに二作続編が出ているらしい。未読ですが、再会もするとか。
今回のヤーノシュ・サース監督が権利を持っているそうなので、ぜひ映画化してもらいたい。もちろん、主演の二人はそのままでお願いします。

ヤーノシュ・サース監督はアゴタ・クリストフと同じハンガリー生まれとのこと。
ハンガリーでもホロコーストがあったらしく、それは映画内にも出て来るのですが、監督のご両親がホロコーストからの生還者とのこと。
かなり戦争に近い位置にいたと思うのだが、戦争に対する感情的な怒りは描かれていない。小説のトーンを尊重しているのだろう。秘めた怒りは存分に感じる。

監督インタビューなどは新聞や雑誌の記事になっているみたいですが、双子に関しては何も無い。もちろん、役者ではないからかもしれないけれど、映画以外でのグラビアも見たかった。

映画は一部ドイツ語でほぼハンガリー語なのですが、あまり馴染みのない言語でした。双子がおばあさんを呼ぶ時の語尾がニャで可愛かった(nagyanya)。

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