『FRANK-フランク-』


フランク・サイドボトムのかぶり物を絶対にはずさない男が主人公というちょっと変わった映画。しかも、かぶり物の中身がマイケル・ファスベンダーというのでも話題。ただ、ポスターや宣伝などから受けるキャッチーな印象とは少し違った映画でした。

以下、ネタバレです。






もう、かぶり物の中身がマイケル・ファスベンダーということだけでおもしろそうだった。
初めてステージに現れたときのマリンスーツ姿のフランクを見た時には爆笑したし、煙草を吸おうとしたときにかぶり物に火がついてしまったり、シャワーのときにもかぶり物にビニールをかぶせていたりと、コミカルなシーンも多々あった。この辺はイメージしていた通りなのですが、思っていたよりも現実的というか、少し違った方向へ話が進んで行って、着地点も意外だった。

音楽を作って演奏することに憧れる平凡な青年ジョンが、ひょんなことからちょっと変わったバンドと知り合って、そのメンバーになることからストーリーが始まる。
かぶり物をしているバンドの中心人物フランクは謎めいているし、作る曲も素晴らしい。アイルランドの小屋に篭ってのレコーディングは他のバンドメンバーから疎まれたりしてつらいけれど、フランクの信頼は着実に得てきているし、様子を実況しているTwitterのフォロワーも増えてきている。なんとネットを見た関係者から、インディーズバンドの大会に出ませんか?と声もかかった!

こうなったら、大会に出て、たとえ結果は思わしくなかったとしても、バンドが団結、ジョンも晴れてバンドメンバーになって、ハッピーエンド…となりそうなものである。今回はだめでも、これからも楽しい仲間たちの冒険は続く!『フランク2』お楽しみに!といった感じに。

なんとなく『リトル・ミス・サンシャイン』を思い出した。そこまでの家族はバラバラで、でもオリーヴのミスコンに向かってみんなが動いていて。でも、ミスコンに行くと、ちょっと比べ物にならないほど本気の人たちがいて、とてもうちの子が勝てるとは思えない。案の定、失敗はしてしまうけれど、家族全員のフォローもあって団結力は強まった。

本来の目的とは違うけれど、もっと大切なことがわかる、というのはハッピーエンドの形としてよくあるものだと思う。この映画もそうだと思っていた。

この映画では、大会が近づくにつれ、バンドメンバーが一人一人抜けて行き、肝心の大会ではフランクすらも昏倒してしまう。
ジョンはバンドの仲間入りをするどころか、めちゃくちゃに壊して、フランク自身のことも壊しただけだった。形だけ繕って、一人去って行く…という寂しい終わり方だった。
映画内でいい曲を作ることもなかった。結局、どれだけ憧れても、凡人は天才たちの仲間には入れないのだということをまざまざと見せつけられたようだった。

ただ、ジョンがナレーションをやっていたり、Twitterにあげる文章もジョン視点だから、映画自体をジョン視点で見てしまっていたが、逆に、もともとのバンドのメンバー側として考えると、また違った見方もできる。

そもそもフランクがかぶり物が取れないというのは、見た目はコミカルでも深刻な問題である。バンドのメンバーは、フランクを守るように音楽活動をしていた。ジョン視点で、他のメンバーの気持ちはあまり語られないからわからないけれど、彼らはおそらく人気者になりたくてバンドをやっていたわけではない。
それなのに、ジョンはTwitterで実況をし、勝手に撮影をしてYouTubeにアップされてた。ジョンとしては、善かれと思ってやったことでも、メンバーの一人、クララは盗撮だと怒っていた。
結果、インターネットで興味本位の人々をひきつけることになる。大事に守ってきたフランクが晒されてしまう。

フランクには音楽の才能があるし、カリスマ性もある。でも、日常生活でもかぶり物がとれないというのは、ひどくデリケートな問題なのだ。序盤はいついかなる時もかぶり物をとらない様子がコミカルに描かれていても、これは漫画ではなく、もっと現実的な話なのだ。後半は精神病の一つとして描かれる。

ジョン視点だと、クララに意地悪されてバンドから追い出されそうになって…というのは、かわいそうだなと思うんですが、おそらくクララは最初から嫌な予感を感じ取っていたのだろう。事情のわからない外部の人間を入れたら、大事にしてきたものが壊されてしまうのがわかっていたから、早めに追い出したかったのだ。そして、追い出せずに予感は当たってしまう。

ジョンが、フランクのことをずっとかぶり物をしているなんてクール!としか思えなかったことは、浅はかとしか言いようが無い。天才とか凡人とかではなく、事情を察することができていない。
少し変わっているからこそ天才なのだなと、そもそもフランクのことを理解しようとしなかったのかもしれない。どちらにしても、思いやりの欠如である。

ただ、ラストでフランクはかぶり物を脱いだ状態で歌うことができる。もしかしたら、荒治療が成功したのかもしれないと思うと、どちらが良かったのかわからない。
かぶり物をずっと着けたままの生活は幸せでも、クララたちだって、いつまでもこのままではいけないとは思っていたはずだ。
かぶり物の無い状態で、涙を流しながら、“I love you,all”と歌うマイケル・ファスベンダーの姿は感動的でもあった。

映画のほとんどでかぶり物をしているので、マイケル・ファスベンダーの姿が見たいなあと思っていたけれど、かぶり物をとったフランクはずっと不安定だったし、見たいなあと思ってしまって申し訳なかった…と思うくらいに演技がうまかった。

また、かぶり物をしている時の手などの動きはかなり大袈裟で、顔の表情はなくてもすべての感情が伝わってきた。特に、ジョンの気持ちを買ってなのか、売れよう、人気者になろうと考えてからは、フランクがいっぱいいっぱいになって次第に追いつめられていくのがよくわかった。
売れようと考えて作った曲は奇妙なものだったし、大会のステージに上がる前には白いドレスでかぶり物に化粧を施していて、笑いを誘う姿ながらも、中の人が相当追いつめられているな…というのがわかった。そもそも、化粧と言うのは素顔を隠すためのものなのに、素顔を隠すためのかぶり物に更に化粧をしているというのは、もう自己を内の内にまで隠してしまっているということだ。

ただ、ジョンの気持ちにも応えたいと考えるあたり、フランクは優しくもあるんですよね。謎がありながらも、性格が伝わってきた。

クララ役にマギー・ギレンホール。出ていると思わなかったので驚いた。ジョンから見たら少しイカれていて怖い人な演技がうまかった。フランクに対する態度は優しかった。
フランクが去った後、場末のバーでしっとりと歌う様も綺麗だったけれど、フランクとバンドを組んでいるときの、肩を細かく震わせながらキーボードを弾くパフォーマンスが鬼気迫っていた。

ジョン役はドーナル・グリーソン。監督やこの映画の舞台と同じくアイルランドの俳優さんで、未見ですが、いま公開されている『アバウト・タイム』にも出演中。『スター・ウォーズ』の最新作にも出るらしい。

最近、観た映画の出演者を調べると、結構『スター・ウォーズ』の最新作に出る方がたくさんいるので、一旦まとめると、『それでも夜は明ける』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ、『アタック・ザ・ブロック』のジョン・ボイエガ、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のオスカー・アイザックとアダム・ドライバー。

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