ショートショートフィルムフェスティバル2016 アカデミー賞プログラム



毎年恒例のショートショートフィルムフェスティバル、今年で18回目とのこと。
毎年のことながら、短編映画はなかなか観られる機会がないので嬉しいです。

今年のアカデミー賞プログラムは4本と少なめ。
さすがに良作揃いではあったけれど、前々回の『Helium/ヘリウム』や前回の『THE PHONE CALL/一本の電話』に比べると少し弱いかなという印象。

以下、ネタバレ込みの感想です。


『Everything Will Be Okay/何も心配ない』

ドイツ・オーストリアの合作。アカデミー賞短編映画賞ノミネート。
妻と離婚した男が、久しぶりに娘と会う一日の話。

二人で記念にスピード写真を撮るシーンがあった。『バッファロー’66』でも見たが、海外だとプリクラ代わりに撮ることが多いのだろうか。でも、『バッファロー’66』でしか見てないので、一般的なのかどうかわからない…と思っていたら、それは伏線でした。
娘単独で写真を撮らせる目的で、それを使って緊急パスポートを作り、一緒に海外へ脱出しようとする大胆で無謀な決断。

結局、失敗をするんですが、娘を抱きしめて、わーわー泣き叫ぶ父親と困った感じの警察…。なんとなくですが、ドイツ人もこんな悩みがあるのが意外だった。
俗っぽいと言ったら身も蓋もないんですが、ドイツ以外の国でもよくあるいざこざに思えた。

タイトルの「何も心配ない」というのは、父と母、両方からの娘に対する言葉だった。車で空港へ向かう父が不安がる娘に「何も心配ない」と言い、警察につかまる父から娘を取り返した母が娘を抱きながら「何も心配ないわ」と言う。
娘としては、家にも帰りたかったが、父のことも考えているのだ。父母の「何も心配ない」と言う言葉は結局お互いが都合のいいことを言っているだけで、娘の気持ちは考えていない。自分に言い聞かせているだけとも言えるのではないかと思った。



『Bear Story/ベア・ストーリー』

アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞。

セリフは一切無い。
熊が家で一人で黙々とブリキの人形を作っている。なんらかの理由があり、妻と息子は今はいないようで、愛しげに写真を見つめている。
そして、その二人の人形も含め、一式の道具を持って出かけ、町に立つ。どうやら、日本で言う紙芝居みたいな感じで、鐘を鳴らすと熊の男の子が寄ってくる。

覗き込むと広がるのはブリキの世界。観客も熊の男の子と同じ世界を観ることになる。ポップアップ絵本のような動きをしていた。流れるように進んでいく様子が美しく独特。

そこで描かれているのは、おそらく熊の半生。家族で幸せに生活していたところ、いきなり人間が押し入ってきて、さらわれてサーカスに連れて行かれる。
鞭を打たれ、こき使われ…、自分だけならまだしも、残してきた妻と息子が心配でたまらない。意を決して逃げ出すが、家に帰るともぬけの殻。さらわれてしまったのか、二人では生きて行けなかったのかわからない。
父親熊は呆然としていたが、ふっと後ろに妻と息子が現れる。そして、ハッピーエンド。

最初のほうで示されていた通り、実際には妻と息子はいないんですね。だから、最後は創作です。ただ、観ていた熊の男の子も大満足、風車をおみやげに貰って父親の元へ帰って行った。実話を実話通りにやって、最後に観てくれる人にまで悲しい想いはさせたくないという気持ちと、おそらく彼の願いもこもっているのだろう。

本作では熊がサーカスにさらわれるが、少し『それでも夜は明ける』を思い出した、さらわれて強制的に奴隷にされる。熊の話というより、人間に置き換えられるのではないかと思った。


『Shok/ともだち』

アカデミー賞短編映画賞ノミネート。実話に基づく話。

一人の男性が道に捨ててある自転車を見て過去を想起する。
子供の頃、アルバニア人である主人公は町にいるセルビア兵士にタバコか何か(追記:タバコを巻く紙らしい)を渡してお金を受け取っていた。“ビジネス”と呼んでいたことから考えても、ちょっと悪いことして稼いでる俺カッコイイみたいな気持ちだったのだろう。
彼の友達はナッツ売りで一年間コツコツためたお小遣いで自転車を買っていた。大切な自転車である。ある日、嫌がる友達を無理矢理セルビア兵のもとへ連れて行く。自分の仕事ぶりを自慢したかったのかもしれない。
もちろんお気に入りの自転車も一緒だったのだが、その自転車が兵士に奪われてしまう。甥にあげるそうだ。
結局、主人公の少年家族と友達はセルビア兵士によって町を追放されてしまう。兵士は振り向くな、振り向いたら撃つというが、そこを自転車…自分の自転車に乗った少年が通りかかり、思わず振り向いてしまう。もちろん撃たれる。
必死に小銭を貯めて買った自転車、自分のわがままにより兵士に奪われた自転車、それでも友達でいてくれたにも関わらず、一緒に町を追放され、途中で撃たれてしまった。すべて、自分の幼さのせいである。
最後に現代に戻って、青年がかつて暮らしていた町でつらい表情を浮かべていた。

よく、ナチスのユダヤ人迫害の映画は観るけれど、コソボ紛争の映画は観る機会がなかった。
短編であっても、触れれば紛争のことを調べるし、知ることができる。
海外、特に欧米以外の映画を観る醍醐味だと思う。


『Stutterer/僕はうまく話せない』

アカデミー賞短編映画賞受賞作。タイトル通り、吃音症の男性の話。

言葉はうまく出てこないけれど、心の中では饒舌。
口を開くと、たどたどしくも詩的な美しい言葉が出てくるが、それも父親に対してで、外では耳の聞こえない人のふりをして、道を聞いてきた人をかわしたりしている。

彼にはFacebookのメッセンジャーで長い間やりとりをしている女性がいて、密かに想いを寄せている。音声チャットではないから、吃音であることは隠している。そんな彼女から、「あなたの家の近くにいるから直接会ってみない?」という連絡が来る。

彼はすごく悩む。好きだから、今の関係でいたいと思う。でも直接会って、吃音なのが知れたら、嫌われるのではないかと思う。だから、返信ができない。だけど、迷っている間に、彼女からは「駄目だったかな?」というメッセージが来る。
これではどっちにしろ嫌われてしまう。というか、こちらが嫌っていると思われてしまう。そこで、彼は勇気を持って、会いましょうと送信する。

彼女が道の向こうにいて、まさに会うというところで、映画は終わる。会話を交わすシーンはない。この先は各自想像してねという終わり方だった。
けれど、大丈夫だと思うのだ。だって、彼女だって、別に喋るあなたを好きになったわけじゃない。長い間やりとりをしてきたんだから、人柄がわかってる。会いたいってことは、そこを彼女だって好きになったのだ。だから、たぶん平気。

あと、司会の人も言ってたけど道を渡る前にちゃんと左右を見ていたので、轢かれるというラストじゃなくて良かった。ショートショートってそういうどんでん返しみたいな唐突なオチがある場合が多いから。

イギリスの短編なので誰か知っている人が出てくるかなと思ったのですが、彼女役がクロエ・ピリーだった。『グランドフィナーレ』で脚本家集団の若い女性役だった方ですね。
主人公はマシュー・ニーダム。『ホロウ・クラウン』にも出ているそうだけれど未見…。『SHERLOCK』シーズン1のエピソード3、“大いなるゲーム”にBezzaという役で出ているそうだけれど、あまりおぼえていないので、次に観るときには意識してみようと思う。

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