『10 クローバーフィールド・レーン』



タイトルから、『クローバーフィールド/HAKAISHA』の続編と思われそうだけれど、違います。作風も、『クローバーフィールド』がファウンドフッテージものだったけれど、こちらは違う。まったく関連がないと言ってもいいと思う。
製作にJ・J・エイブラムスが入っているのは同じだけれど、監督は違う。(ただし、JJは「血の繋がった映画」と言っているらしい)
製作費も、『クローバーフィールド』が2500万ドルだったのに対して、本作は1500万ドルである。

ただ、予算が少ないながらの工夫があり、とても楽しめた。
ちなみに、一番最初に観た予告編は三人が部屋のテーブルを囲んでいて、楽しげな音楽が流れているものだった。けれど、次第に音楽が歪み始め、三人のうち、女性がそこから逃げようとするもの。
これで『10 クローバーフィールド・レーン』というタイトルが出たので、驚いてしまった。
これは、オリジナル版の予告を縮めたものだったのだと思う(公式サイトを見る限り)。
日本版の予告は怪獣の姿が出てしまっているらしかったので、見ないようにしていた。でも、映画館にあるポスターなどでちらっと観てしまい、慌てて目をそらしたりしていた。

『クローバーフィールド』でも、ためてためて最後に怪獣をバーン!と出していたので、その姿をはっきり映してしまうのは情緒が足りないと思う。けれど、そうしないとお客さんを呼び込めないのかもしれない…。

映画を観た後で日本版の予告を観たけれど、これは詐欺だと言われそうだし、私は本作が好きだけれど、多分、こっちの予告だけ観て本編を観た人は想像と違ったと思う。オリジナル版予告のほうが本作に忠実です。

以下、ネタバレです。









というのも、怪獣が出てくるのが本当に終盤の少しの時間だけだからだ。
そして、できることならば、出てくるという情報も知りたくなかった。けれど、タイトルに“クローバーフィールド”と付いているから、ある程度出てくるだろうなとは思うのだけれど…。
本作は、本当は何が起こっているのかがわからないところがおもしろい。

主人公のミシェルは恋人と別れ、傷心のまま車を運転していたところ、事故に遭い、目覚めたら監禁されていた…というところから始まる。
あれやこれや考えて、工夫をして逃げようとする様子は少し『ソウ』を思い出した。

ここの主人がハワードという太った男で、外は汚染されているから良かれと思ってお前を助けてやったと繰り返す。もう一人逃げこんでいたエメットと、この狭いシェルター内での共同生活が映画の主たる部分である。

観客はミシェルと同じ視点である。POVというわけではないが、観客の知っていることとミシェルの知っていることが一緒なのだ。ハワードが言っていることを疑わしいと思うのも、この人信用できるのかも、と思うのも同じタイミングだ。だから、共感できる。

外が何者かに攻撃されて…と急に言われても信用できない。もちろん、観客は頭の中に“クローバーフィールド”という単語がちらついているから、その点ではミシェルよりもハワードのことを信じたかもしれない。
そして、エメットというおそらく同い年くらいの青年がいた時には、本当に外が汚染されているとして、ハワードはもしかしたらノアの方舟を作りたいのかなとも思ってしまった。けれど、エメットとミシェルが少し仲良くなり始めたら腹を立てていたので違うらしい…。

ハワードが車をぶつけてきたことを思い出したときにも、ミシェルと同じくただの誘拐からの監禁かと思った。だから、逃げようと思った気持ちもわかった。
しかし、外で生きている人…瀕死の女性が、「ガスを少しだけ浴びた」と言いながら必死で助けてと言っていて、本当に何事かが起こったのはわかった。

けれど、その後もハワードには怪しい部分が多すぎて、あの瀕死の女性ももしかしたらハワードが仕込んだ人物なのではないかとも思ってしまった。
常に疑心暗鬼である。ミシェルと一緒に、様々な出来事を疑いながら観るのが楽しい。

ハワードの娘のエピソードが少しわかりにくかったんですが、エメットの友人の妹をさらってきて、娘代わりにしていたということでいいのだろうか。それで、抵抗したから殺した、と。それで、ミシェルも同じようにやはりさらってきたということなのだろうか。
だから、やはり気が動転していて車をぶつけてしまったという序盤の弁解は嘘だったのではないかと思う。

エメットも最初は(目的はわからないながらも)ハワードとグルなのではないかと思っていたけれど、話していくうちに、信用できる普通の青年なことがわかったし、あの異常な状況の中で普通の他者がいるとどうしても好きになってしまうところもあった。ミシェルがどうだったかはわからないけれど。
ラブな展開はまったくなく、ハワードにあっさり殺されてしまう。

そうなったらもう本格的に逃げるしかない。命からがら、手作り防護服を纏って外へ出たけれど、虫の声はするし、鳥が空を飛んでいる。
ああ、やっぱりハワードの言ってることは嘘だったんだ。汚染なんてされていない。こんな防護服なんて着ちゃって馬鹿みたいね。なんて感じでマスクを取る。遠くからヘリが飛んできて、助けを求めて映画が無事に終わるのかなと思った。けれど、この時にも、頭の中に“クローバーフィールド”という単語がちらちらしていた。

で、結局、助けてくれるヘリなんかではなく、それが怪獣だっていう…。
ちなみに、この空を飛ぶ巨大な宇宙船に触手が付いたような怪獣は、日本版のポスターにも予告にも出てました。これを出しちゃだめだろう。映画で観て、初めて絶望する感じがいいのに。

そこで怪獣を撃退し、ハワードの車で大きな通りまで出るんですが、そのときに吹っ飛ばしたポストに書かれていたのが“10 クローバーフィールド・レーン”でした。住所だった。なるほど。
大きな通りでは辛うじてラジオが受信できるんですが、ヒューストンで怪獣と戦っているらしいという情報を得て、車のハンドルをそっちにきるシーンで映画は終わる。勇ましくて好感の持てる主人公でした。

もうあらかた話は終わったと思ったところで怪獣が出てくるので、パニックものみたいなのを想像した人はがっかりすると思う。時間にしても30分もないと思う。本当に、出てこないまま終わるのかとすら思った。だから、怪獣出まっせ!みたいな煽りの強い、日本版の予告はどうかと思うのだ。

私はオリジナル版の予告しか観ていなかったので、予告での印象ともそれほど違わなかった。個人的な好みもあるかもしれないけれど、ほぼ密室三人芝居の心理戦がとてもおもしろかったです。少しずつ謎が明らかになっていくサスペンスは、パニックムービーに比べると地味といえば地味なので、好き嫌いは分かれそう。IMAXとか大きなスクリーンが割り当てられているのは、映画館の人か配給の人かわからないけれど、内容を観てないんでしょうか。

エンドロールで初めて知ったんですが、ミシェルの元恋人のベン役がブラッドリー・クーパーで、評価が更に一段階上がった。ベンは電話の声だけの出演です。



0 comments:

Post a Comment