『サウスポー』



アントワーン・フークア監督。『エンド・オブ・ホワイトハウス』でもボクシングシーンがあったので何か思い入れがあるのかと思ったら、監督自身がボクサーでもあるらしい。
そのため、主演のジェイク・ギレンホールも6ヶ月間、本物のボクサーさながらのトレーニングをつんで、映画のボクシングシーンもノースタントでこなしたとのこと。
試合会場の照明をいじらなかったり、本物のボクシング実況の方が担当していたり、カメラも普段試合を撮っている方だったりと、ボクシングの試合シーンにもこだわりがあったとか。
撮影監督が『リアル・スティール』のマウロ・フィオーレというのも納得。迫力がありました。

以下、ネタバレです。









ちょっとした揉め事に紛れて妻が射殺されてしまったボクサーが、どん底に落ち再起を果たすまでを描いている。
もともとは、本作で主題歌を書き下ろしたエミネムが『チャンプ』のリメイクをやらないかと脚本のカート・サッターに持ちかけたのがきっかけだったらしい。子供との関係という面では確かに『チャンプ』っぽくもあるけれど、そこに、彼のユニットのメンバーだったプルーフがクラブで射殺されてしまった事件も加えて描かれている。何気なく主題歌を聞いていたけれど、そこまでエミネムがちゃんと関わっている作品なのだとは思わなかった。

序盤に妻が射殺されてしまい、夜に銃を持って車で出かけて行こうとするジェイク・ギレンホールの姿を見たときには、もしかしたらこれはボクシング映画じゃなくて、ノワールだったのかなと思った。暗黒面に身を落とした主人公が、復讐の鬼と化して銃をぶっ放す…。ジェイク・ギレンホールだと何でもありというか、汚れ役も似合ってしまうのでそんな予想をしてしまったけれど、ちゃんとしたボクシング映画でした。

最近のボクシング映画だと『クリード チャンプを継ぐ男』が後悔されたけれど、それに比べても、ストーリーが王道だったと思う。漫画っぽいというか。
ただ、綺麗に話が進む故に、ジムの子供の死や主人公のビリーと妻が両方とも施設育ちという境遇などが、少しご都合主義のようにも思えた。話をスムーズに進めるのに利用されているように見えた。

最後も、KOではなく判定に持ち込まれたので、そこで負けるのかと思った。ビリーも金を積んで不正な判定勝ちをもぎとったことがあったようだし、プロモーターはライバル側についていたし、同じ仕打ちをうけるのかと。結局、昔なじみなのはビリーのほうだし、金が入るならどっちが勝ってもいいという感じなのだろうか。
それに、ベルトという形に見えるものを手にし、ジムに飾って他の子供たちの目標を作るためには、勝利をしないといけなかったのかもしれない。娘の信頼を回復させるためにも、負けたけど実質勝っていた奴は金を積んで…みたいな後味の悪いことをやるよりも、勝利で気持ちよく終わったほうがいいのだろう。

綺麗すぎるくらいの展開と終わり方のストーリーだったけれど、カメラワークが時々遊んでいるのがアンバランスでおもしろかった。

最初の試合のシーンで、「ライバルのミゲルも見にきています!」と実況の人が言うと、ミゲルはカメラに向かって挑発するポーズをとるんですが、テレビカメラに向かっているミゲルを映画のカメラが撮っているわけではなく、映画のカメラに直接向くのだ。まるでボクシングの試合をライブビューイングで映画館で観ているよう。この辺が実際のボクシングの試合を撮っている方の映像なのかもしれない。

また、それと別に、最後の試合では、ビリー目線のPOVになるシーンもある。打つシーンではなく打たれるシーンなのでカメラが揺れる。こことは別に、手持ちカメラも多用されているので、画面が揺れるシーンは多かった。

序盤、妻役のレイチェル・マクアダムスがビリーにのしかかっているシーンで、カメラもどさくさに紛れて下から撮っていた。ここはビリー目線のPOVではないため、レイチェル・マクアダムスの視線を独占することはできない。けれど、体にぴたっとフィットするドレスを着たレイチェル・マクアダムスが夫にせまっている姿を下からとられているのはおもしろい位置から撮るなと感心した。

娘がメールを送るシーン、普通は娘の後ろから画面の文面を映すという手法が多いけれど、娘の横にポップアップでウィンドウが出た。コメディとかもっと軽めの作品だとよくあるけれど、本作のような人間ドラマを取り扱ったような作品でこの手法はなかなかとられないと思う。メールの内容も別にふざけたものではなかった。

ラスト、試合に勝利したビリーと娘が控え室で抱き合っているのだが、「はいはい、もういいでしょ?ちょっと出てね〜」というように、映画のカメラもマスコミのカメラと一緒に部屋から追い出されてしまう。序盤のミゲルの挑発ポーズと同じく、映画のカメラが一体何視点なのかわからなくなってしまう。その変換が急なのでおもしろい。

このように、何故かちょっとお茶目なカメラワークが多かったのが気になった。

それにしても、ジェイク・ギレンホールの出る映画は一定以上には必ずおもしろいのがすごいと思う。いい役者さんっぷりに歯止めがかからない。
本作では序盤は打たれるほど強くなるというか、HP20%以下の時、攻撃力3倍というスキルを持っているような戦い方をしていた。妻は、そんな調子で戦っていたらあっという間にパンチドランカーになってしまうと心配していた。キレる力を利用しているので、顔つきも目がギラギラしていて野獣のようだったが、後半、別のトレーナーがついてからはガード戦法に切り替えて穏やかに、けれど強い男になっていた。
この両方の演じ分け方に今回も感心してしまった。

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