『デッドプール』



ライアン・レイノルズ主演。監督はティム・ミラー。
この監督さん知らなかったんですが、よくエンドロールで出てくるCGアニメの製作会社ブラー・スタジオの設立に関わった一人らしい。視覚効果アーティストとして活躍していて、本作が50歳で長編デビュー作となる。

一応マーベルヒーロー? ヒーローとも言えないから、“マーベルコミックに出てくる”くらいでしょうか。X-MENにも出てくることがある。
アメコミの原作を相変わらず読んでいないので、今回も例に漏れず『ディクス・ウォーズ:アベンジャーズ』で観た知識しかなかった。単独で出てきて、好き放題に適当なことをやっていた。一人称は俺ちゃん。登場人物でありながら視聴者に話しかけてくる。テレビだったから視聴者ですが、コミックでも読者に向かって話しかけてくるらしい。

以下、ネタバレです。








映画では同じ調子で観客に向かって話しかけてくるし、序盤でカメラにべったりガムが張り付けてくる。BGMと一緒に歌ったりもする。「ミュージック、スタート!」なんて言って、彼の声で音楽が流れたりもしていた。あらゆる面で自在に映画を操る登場人物。新しい。

また、ヒーローではないどころではなく、実際に観てみるとほぼ悪役のようだった。
弾が残り少ないにも関わらず、死んだ奴の上から何発か撃ち込む。その理由が「気持ちがいいから」。なかなか酷い。
頭を切り落としてサッカーボールのように蹴っ飛ばすのも、死体を使って人文字を作るのもなかなかである。

追いつめた後で、X-MENのメンバーが「そこで慈悲をかけてやるのが…」などというヒーロー論をかましていたが、それをぶった切ってしっかり殺していた。

明らかにヒーローではない。
そもそも、活動の動機が復讐である。
アニメだと、デッドプールになっている時だけで、スーツの中のウェイド・ウィルソンについては語られなかったので知らなかったが、ガンの治療と引き換えにおかしな能力を植え付けられ顔をずたずたにされ…という、結構シビアな過去があった。
もっと映画自体がギャグ満載ではっちゃけているのかと思ったけれど、勝手に改造された過去のくだりは少し暗い。

けれど、デッドプールになっている時には飄々としていて、過去との現在の間の気持ちの移り変わりがわかりにくかった。
普通、過去に酷い目に遭って復讐に燃えている場合には、恨みを背負っているからシリアスになったり、トーン自体が暗くなったりする。
過去と現在があまりにも違うので、こちらがどんな気持ちで観たらいいのかわからなくなる部分があった。

けれどそれは、ウェイド・ウィルソンのもともとの性格なのかもしれない。もちろん怒ってないわけはないのだろう。けれど、落ち込むわけではなく、ひたすら冷徹に絶対コロスの精神で突き進んでいく。元傭兵というのも関係しているのかもしれない。

また、お友達の感じだと、環境のせいなのかもしれない。素顔を見て変に慰めたり逃げていくわけではなく、「アボカド同士の子供みたい」と遠慮のないことを言っていた。きっと、変に気を遣われるよりはいいと思う。

デッドプールの行動原理は復讐とかさらわれた彼女を救うとか、もう自分のことだけなんですね。世界平和ではない。国連ももちろん出てこない。
戦うのも、デッドプールとX-MENから二人が助っ人に来るだけ。
最近のアベンジャーズまわりの詰め込みすぎ盛りだくさんもそれはそれでいいけれど、この映画くらいの規模はこれはこれでちょうどいいと思える。アベンジャーズシリーズだと、もう一作観ただけでは何もわからないというようになってしまったが、この作品だと一作で完結する。過去作を観なくても大丈夫。気負わずに観られる。
億万長者ではない。志も高くない。そんな主人公でも充分に面白い。

エンドロールのあとにマーベル恒例のおまけ映像があるのだけれど、そこで「続編の予告なんてないよ。眼帯を付けたサミュエル・L・ジャクソンも出てこない」とアベンジャーズシリーズとこの映画を比べるようなことを言っていた。MCUについていけなくなった人向けでもあるのだと思う。映画を作っている側もわかっていたのだろう。

過去作を観る必要はないけれど、くだらないことながら、他作品の小ネタは知っているとおもしろい。本筋に関わってくる話ではないので知らなくてもまったく問題がない。より楽しめるという話。
『127時間』とか、ヨーダを背負ってるとか、「何回も娘を誘拐されるリーアム・ニーソンは注意力がない」とか、ジェームズ・マカヴォイとパトリック・スチュワートとか。まだまだ、全然拾えていない。

しかし、小ネタ満載で下品でコメディだと、日本なら普通はDVDスルーなんですよね。
この辺、『テッド』と似ていると思った。あれもDVDスルーになりそうなところ、ぬいぐるみが喋るという飛び道具を使ってきている。『デッドプール』もコメディにヒーロー要素を付け加えている(逆かも)。
アクションもしっかりしていて見ごたえがあった。デッドプールは銃も使っていたけれど、背中の日本刀での戦闘が恰好良かった。

最初のアメコミの見開きページのような構図も恰好良い。そこから一旦少し過去に戻ってその構図のシーンにたどり着くので、もっとちゃんと観ておきたかったと後悔する。

また、全体的に軽口を叩きながら軽快なトーンでぽんぽんと進んでいくが、こっちもケラケラ笑いながらゆるく観ているとそれが伏線だったりして、さっきなんて言ってたか忘れてしまっていたりする。具体的にはワム!のくだりとか。
なので、先の展開がわかった上でもう一度観たい。(くだらない)セリフが多い本作、吹替えもかなりいいようなので…。



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