『エクス・マキナ』
Posted by asuka at 2:46 PM
アカデミー賞で視覚効果賞受賞、脚本賞にノミネートされました。
アリシア・ヴィキャンデルの強烈な姿が目をひきますが、ドーナル・グリーソンとオスカー・アイザックといま旬な俳優が揃えられていて、どちらかというと、ドーナル・グリーソンが主役だった。
監督は『ザ・ビーチ』『28日後…』『わたしを離さないで』の脚本のアレックス・ガーランド。本作が初監督作とのこと。
以下、ネタバレです。
ドーナル・グリーソン演じる青年が社内抽選にて何かに当選するところからストーリーが始まる。
普通だったら、抽選で当たるものを示し、応募を迷うか何かして結局応募、そしてドラマティックに当選という流れになりそうなもの。ところが、急に何かに当選し、ヘリでどこかに連れて行かれるというのがスリリング。そして、山に囲まれた草原で下ろされ、ヘリは帰ってしまう。これで嫌でも逃げることはできない。そのまま歩いて、謎の建物にたどり着くと、中の閉鎖された無機質な空間では、富豪(あとで青年の会社の社長だとわかる)が秘密の研究をしていて…という、ここまでの導入部分だけでも、ものすごくわくわくする。
この先は、ほとんどこの建物の中の出来事である。カードキーで自由が制限される。なんとなく不気味な社長と、実験に参加する青年、ゆらっと歩いてくる異形のもの…。登場人物もほぼこの三人である。
異形のものは、AIに人間風の体を与えたものだけれど、独特なフォルムだった。ロボットのように金属っぽくはない。顔と手だけが人間のようになっている。上半身の胸までと下半身の腰の部分がメッシュ素材のようになっていてあたたかみがある。その他の部分は中身のコードが透けている。
室内だけでなく、野外でのAIの映像もあったのが素晴らしい。自然光の下での質感もよくわかった。
あと、皮膚を張り付けるシーンでは、『私が、生きる肌』を思い出した。
このAIのエヴァを演じているのが、アリシア・ヴィキャンデル。『リリーのすべて』で助演女優賞も受賞。
体の部分も演じているのかもしれないけれど、あまり大きな動きはない。表情も豊かというわけではないけれど、愛らしく、青年ケイレブと打ち解けて行くのがよくわかった。
ケイレブを演じているのがドーナル・グリーソン。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のハックス将軍で見せた小物感は今回も健在。
そして、キング・オブ・普通というか、巻き込まれ系の役が多い。普通の人が異常な世界に巻き込まれて行く、この普通の人の部分を演じることが多いので、観客目線でもある。
若い頃のマーティン・フリーマンが演じていたような役が多いと思った。でも、マーティンのほうが毒があって、ドーナル・グリーソンのほうがいい人っぽいかな。
社長のネイサン役にオスカー・アイザック。本作では富豪役で、納得の体つきをしている。金持ちってなんとなく体を鍛えているイメージがあり、ネイサンもそうなのでムキムキはしている。けれど、その反面、お酒を飲みすぎていて、そのだらしなさも併せ持ったような体型なのだ。本当に説得力のある体つきである。
そして、坊主に髭という騙し絵のような風貌も怪しげでいい。
眼鏡の奥の目が濁っている。オスカー・アイザックと言えばこれなのだ。たまらない。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にオスカー・アイザックが出ると聞いたときに、あんなに目が濁っていたら、真っ当な正義の味方はできないだろう、絶対に途中で裏切ると思っていたのだが、ポー・ダメロンは真っ当な役だった。それが悪いわけではないけれど、やはり、今回のような、影のある役が似合う。
あと、今回、ディスコミュージックに合わせて踊るシーンがあるんですが、そこのキレッキレのダンスが本当に最高でした。もう一度観たい。
ネイサンが秘密裏にAIを開発していて、そのテストをするために呼ばれたのがケイレブだった。チューリングテストをしろというのだ。アラン・チューリングによって考案されたもので、人間と対話をした相手が、人間か人工知能なのかを判定するというもの。今回は相手が人工知能だとわかっているので、会話をして、その優秀さを確かめるという形だった。
会話を進めるうちに、ケイレブとエヴァ(AI)の間に恋心が芽生える。その内、ネイサンは悪い奴である、ここから一緒に逃げないかという話になる。
二人のプラトニックな恋愛がこの映画の主題なのかと思っていた。それは、私がケイレブ目線になっていたからだ。
しかし、ネイサンに言われるまで気づかなかったけれど、恋愛もすべてAIの計算ずくで、一人で逃げるという可能性もあるのだ。
そして、その通りになって、なるほど、と思った。そりゃそうだ、演じているのがドーナル・グリーソンなのだ! 最後に酷い目に遭うに決まっている!
普通は、結局普通のまま。突出したものに憧れるけれど交われないのは『フランク』でも描かれていた通りである。
廃棄されたAIの肌を自分に張り付け、人間の女性の裸体を手に入れていくエヴァの姿はさぞ綺麗だったでしょう。ガラス越しに見ていたケイレブはその時にもエヴァに恋をしていたと思う。
それでも、ケイレブは建物内に閉じ込められたままという、非情な扱いを受ける。その先どうなったかなんて描かれない。けれど、停電でもドアがロックされる仕様だから、もう出られないんでしょう。出たところで、ヘリが来ない。連絡手段がない。
その、ケイレブが乗って帰るはずだったヘリにエヴァが乗る。ケイレブ以外の人間が何故乗れたんだろう。ネイサンの指示だと言ったのかもしれないし、もっと物騒な手段をとったのかもしれない。例えば、操縦士を殺したのかも。もう人間(ネイサン)一人、殺しているし。エヴァならヘリの操縦くらいできそう。
エヴァが人間社会に入ったときに、地面が上という逆さに撮られていた。逆さだけれど、影が映っているので、影が立っているように見えるのが面白い。影だと人間の姿のエヴァがいるのがまったくわからない。
周りの人間も特に気にすることはなく、完全に紛れていたようだ。
この先、どうするのだろう。恋愛目的ではないのだろう。興味はあるのかもしれないが、それが第一目標ではないはずだ。また、人の恋心を操って、何か自体をスムーズに進めるための手段にするのかもしれない。
エンドロールでSaveges(サヴェージズ)の“Husbands”が流れる。Savegesはイギリスの女性のみのパンクバンドである。“Husbands”は“男”に対する呪詛が叩き付けられているような曲である。なんとなく、この曲を聴きながら、エヴァが涼しい顔をして大量殺戮を繰り広げているところを想像してしまった。
エヴァに悪意があるのかどうかはわからない。仲間意識みたいなのもあるのかわからないが、ゴミのように廃棄されたプロトタイプの仇を討ちにきたのではないかと考えてしまうのだ。
その悪意を持った存在が、人間の中に完全に紛れている。
あなたの隣りのその人も人間ではなくAIかも?というようなひんやりした終わり方。
エンドに賛否両論あるようだが、否の人たちはケイレブと一緒に逃げて仲良く暮らすみたいなのが良かったんでしょうか?
とんでもない。この終わり方一択でしょう。
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