『レジェンド 狂気の美学』



1960年代のロンドンに実在した双子のギャングの話。
双子のギャングを演じるのはトム・ハーディ。一人二役。他、クリストファー・エクルストン、タロン・エガートン、コリン・モーガン、ポール・ベタニーなど、イギリス俳優好きにはたまらない面々が揃えられている。
監督は『ロック・ユー!』『42 〜世界を変えた男〜』のブライアン・ヘルゲランド。

以下、ネタバレです。




ギャングの双子、クレイ兄弟に関しては、1990年に『ザ・クレイズ 冷血の絆』というタイトルですでに映画化されている。クレイ兄弟を演じたのはなんとスパンダー・バレエのゲイリー・ケンプとマーティン・ケンプ。双子ではなく兄弟です。
同名タイトルで小説が出ているが、映画の小説化というわけではなく、映画の元となった小説『The Profession of Violence』(ジョン・ピアースン著)を翻訳したもの。今作も、原作は同じくこの小説です。

原作は読みました。『ザ・クレイズ 冷血の絆』のほうは観ていないのでわかりませんが、本作に関しては、そこを切り取ったか…という感じだった。

本作はクレイ兄弟というより、エミリー・ブラウニング演じるフランシスが主人公とまではいかないが出番が多かった。こんなに多くなくてもいいのにというくらい多かった。エミリー・ブラウニングの魚顔は好きなんですが、それでも首を傾げざるを得なかった。

ただ、フランシスをそんなに出すなら、もういっそ、フランシスとレジーのラブストーリーにしちゃえば良かったのに。出番が多いのに、深くは描かれてないから、なんで二人が魅かれ合ったのか、なんで「愛してる」などと言い合っているのか、なんで結婚することになったのか…。いつの間にか感が否めなかった。
フランシスが映画の語り手なんですが、端折るためのナレーションというか、説明くささも気になった。「のちの私の義弟である」とか、なんで結婚することを先に言ってしまうんだろう。ドラマも何もない。実際、ドラマチックには描かれていませんでしたが。
それでも、たぶんレジーとの結婚のことだと思うんですが、フランシスは「私の夢」と言っていた。それがないがしろにされているようで、可哀想に思えた。

また、レジナルドはレジナルドで、結婚したら堅気に戻ると言っていたのに、実際に結婚したあとは、堅気に戻るそぶりも見せなかった。それどころか、余計にギャング業に精を出しているようだった。フランシスのこともあんなに好きだとか愛してるとか言っていたのに、鬱陶しそうに扱っていた。釣った魚に餌をやらないタイプという風にも見えなかったし、まるで二重人格ではないか。
原作ではこんな人物ではなかったと思う。

ラブストーリーにしないのなら、真っ当なギャングものやクライム・ムービーにしてほしかった。双子にきっちり焦点を合わせ、原作の通り、子供時代からレジーのボクシングのエピソードなども入れてほしい。フランシスはエピソードの一つだろう。
でも、子供時代をやるとしたら、子供の双子を連れてこなきゃ行けなくて、それも厳しかったのだと思う。

改変をするならフランシス中心ではなく、もっとうまくできなかったのかと思う。トム・ハーディーが双子を演じていて、どうしてこうなってしまったのか。もっと兄弟愛を前面に出してほしかった。愛というか、愛憎か。
最後のほうで、レジーが人を滅多刺しにしたあと、ロンに「なんでこんなことを?」と聞かれ、「俺にはお前を殺すことはできないから身代わりだ」と耳許で囁くシーンがある。
このシーンだけは、ぞくっとしたし、いいな!と思えた。どうしてこの路線でやらなかったのか。
原作ではレジーが問題児のロンの世話をかなり焼いていたと思う。迷惑も多大に被っていた。けれど、兄弟というか、双子なので憎めない。どんなに憎くても殺せない、呪いのような関係を描いてほしかった。

双子なのだし、二人には二人にしか理解し得ない事柄がたくさんあるはずなのだ。そんな二人の濃密な時間や関係はまったく描かれない。それどころか、二人一緒のシーンがほとんどない。
なぜかと言ったら、それは一人二役だからです…。

レジーは正統派ハンサム。髭も無いし、こんな美形なトム・ハーディーは久しぶりに見た。ロンは問題のある人物。特徴のある大きな眼鏡と、喋り方は『‪Stuart: A Life Backwards‬』のスチュアートっぽい。
二人の演じ分けは完璧だし、両方のトム・ハーディーが見られるお得な映画ではある。
けれど、二人が同じ画面に収まると合成感が隠しきれない…。

二人が向かい合っていて、一人が背中姿では味気ない。触れるシーンもほとんどない。二人きりのシーンはなかったと思う。
殴り合いのシーンでは、オールバックにしていた御髪が乱れて顔が隠れるので、たぶん違う人なんだろうなというのが丸わかり。また、レジーとロン、それぞれのPOVになったのは、そうするしかないよなあと苦笑してしまった。
(トム・ハーディーは最高だったけれど、こんなことなら本物の双子を使ったほうが良かったんじゃないか、でもそんな都合のいい双子なんて…と考えてたときに、こんな場面にルークとハリーのトレッダウェイ兄弟がいる!と思った。イギリスだし! でも、あいつらは、ロンドン暗黒界を牛耳るギャングの体型ではなかった…)

あまり予算がなかったのかなと思った。屋外のシーンがまったく1960年代っぽくなかったことからもそう思いました。

他の出演者について少し。
ポール・ベタニーはほんの少ししか出てこない。似ているけどそうなのかなと思ったらそうだった。
コリン・モーガンの実直さはとても良かった。フランシスの兄の役。
クリストファー・エクルストンはドクターの時のようなスキンヘッドじゃないとよくわからなかった。彼の出番はそこそこ多かったけれど、あとから知りました。あの耳の大きさで気づくべきでした。
タロン・エガートンは生意気っぽくて良い役だった。けれど、彼も原作ではもっと出番が多かったし、もっと特徴のある人物だった。どうせならロンと際どいくらいいちゃいちゃして欲しかったです。とにかくどっちかに振れた作風にしてほしかったのだ。なんとなく単調で、事実をなぞっているだけに思えた。


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