『ラ・ラ・ランド』



アカデミー賞13部門、歌曲賞は二つと全14ノミネート。これはタイタニック以来だそうです。
何部門受賞できるかどうかはわからないけれど、間違いなく今年度の中心となる作品であることは間違いない。

以下、ネタバレです。








オープニングは渋滞で止まっている車から人が降りて歌って踊るというもの。ここで歌われるのが歌曲賞にもノミネートされた『Another Day Of Sun』。これから映画が始まるというわくわくが止まらなくなる。
映画が観ていなかったのでわからなかったが、今年のゴールデングローブ賞のOPは、これのわかりやすいパロディだった。
監督曰く、実際に渋滞に巻き込まれている最中にひらめいたとのこと。渋滞は日常的なことだし、そこからミュージカルの世界に自然に引き込みたかったと言っていた。

ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンのコンビだと『ラブ・アゲイン』を思い出してしまう。『ラブ・アゲイン』ではライアン・ゴズリングが男前を演じていて、男前が男前役をやるとかなり迫力があるなと思ったけれど、今回は男前役ではないです。

ライアン・ゴズリング演じるセブは、売れないジャズピアニストで、冴えない、鬱陶しい、面倒臭い。頑固で考えを曲げない。ジャズ語り出すと熱くなってしまい、その情熱は少し『セッション』を思い出すほどだった。

序盤、エマ・ストーン演じるミアは、オーディションに落ちて落ち込んでいるところ、友人たちに誘われてパーティーへ出かける。ここでドレスアップした女子たちがきゃいきゃい言いながら踊るのも可愛かった。けれど、運命の相手に会えるかも?とわくわくしながら参加したのに、結局収穫はなく、車もレッカー移動されて、とぼとぼ歩きながら帰ることになってしまう。
そこで、店の中からピアノの音色が聴こえてくる。映画を観ている私は中にセブがいることがわかっているし、二人が恋に落ちることもわかっている。ミアはふらふらと引き寄せられるように店内へ入っていく。

元々、今夜は運命の相手を探しに出たんだし、ここで運命の相手に会ったのだ。ミアは釘付けになっていたし、ああ、恋に落ちたなと思った。
しかし、話しかけようとしたのに、店を解雇されたセブはミアに肩をぶつけ、不機嫌そうにしながら店を出て行く。
ここではなかった。

その次に二人は偶然再会をする。セブはa-haの『Take On Me』を演奏する余興向けのバンドの雇われキーボーディストをしていて、もちろんやる気がなさそう。それをおもしろがったミアはA Flock Of Seagullsの『I Ran』をリクエストして、挑発するようなダンスをする。このシーンがとても可愛い。セブが眉間にシワを寄せて鬱陶しそうな顔をしているのもいい。

その後、夜の公園で二人きりになる。雰囲気はロマンティックだけど、二人ともロマンティックにならないように自制しているのがなんとも可愛い。
ここでミアは黄色いワンピースを着ているんですが、ポスターでよく見るあの服なので、二人で踊るシーンが来るぞ来るぞと構えてしまう。
二人のタップダンスが始まる。子供が拗ねた時に足を地面にトンとやるような仕草からのタップダンスでその入り方も素敵。あのポスターになっている場面もあります。

背景もロマンティックだし、ポスターにもなっていたし、ここで二人は恋に落ちるのだろうと思っていた。だいぶ意識をする関係にはなっていたけれど、ここでもなかった。ここではおそらくセブの方がミアのことを好きになっていたようだったが、ミアには彼氏がいたのだ。しかし、このすれ違い具合はもどかしくてドキドキして楽しい。

このあと、映画の約束などをするんですが、その日はミアが彼氏とのデートの日だったんですね。でも、ミアは彼氏と食事をしていても全然楽しくないし気が気じゃない。
このミアの彼氏、ちらっと見えた顔がフィン・ウィットロックに見えて、動揺してしまう。その後に結構はっきり顔が映って、フィン・ウィットロックなのを確信して、出ているのを知らなかったからびっくりして、大切なシーンなのに一部、ストーリーが頭に入ってこなくなってしまった。

ミアはレストランを抜け出して映画館へ駆けつける。映写機に照らされた姿が綺麗ですごくいいシーンなのに、私だけフィン・ウィットロックでまだ動揺していた。
ここで、お互いにじりじりと手を握るのがいい。そのあと、キスをしようとして映写機のトラブルでまたお預けをくらっていたけれど、二人で手をとって、映画に出てきたグリフィス天文台へ向かう。

ここで、二人は完全に恋に落ちる。ここも本当に素敵なシーンだし、ああ、良かったと思った。
でも、ここまでじりじりと焦らされて、でも結局おつきあいすることになったということはこの先どうなるの?といきなり不安な気持ちになってしまった。

最初から、“冬”とか“春”というように季節のテロップが入るんですよね。これは、季節の移り変わりと共に二人の関係も変わって別れるパターンなのでは…。

この先を観ながら、これはロマンティックなラブストーリーとはちょっと違うのだなと思う。女優を目指すミアと自分の店を持って自分の好きなジャズを弾きたいセブという、夢を追いかける二人の話なのだ。二人はたまたま出会って恋に落ちたが、それが中心ではない。おそらく、ミアにとっては。

恋愛と夢とどっちが大事ということもないのだと思うけれど、敢えて考えるなら、ミアは夢をとり、セブは恋愛をとったのだと思う。

お金を稼がなきゃいけないとやりたくないバンドに入ったセブ。結局、プールで演奏していた時と変わらないが、バンド本体の能力差で今回は売れて、アメリカツアーに出る。
このバンドのボーカルを演じているのがジョン・レジェンド。さすがに歌が上手いし、ジャズではないけれど曲も恰好良かった。

やりたくもないことをやって金を稼ぐセブと、あくまでも夢を追い続けるミアの間ですれ違いが起こる。

夢にいつまでしがみつくのか、夢をあきらめることが大人になることなのか。なんとなく、『フランシス・ハ』を思い出してしまった。

ミアの一人芝居の日。お客さんは身内だけだったけれど、そこに彼はいない。
何をしていたかというと、バンドのバカみたいな撮影で、あまりのバカバカしい撮影に苦笑してしまったけれど、多分、本当に行われていそう。

ミアは自分の舞台が失敗し、おまけに悪口まで聞いてしまいどん底だけれど、その時に近くにはいてくれなかった。

その後、一回仲直りしたかに見えたけれど、オーディションに行ってこいと背中を押して、そこでたぶん、セブの役目は終わったのだと思う。
一人芝居の夜もそうだし、すれ違い初めてからもそうかもしれない。いつ終わったのかはわからないけれど、背中を押して、完全に終わったのだ。

ミアがパリに撮影に行くことになったらどうするか?という話をしたときに、セブが様子を見ようと言うんですが、おそらくこれも良くなかったのだと思う。
恋愛シュミレーションゲームの選択肢を間違えて、バッドエンドになってしまった。

いきなり5年後に時間が飛ぶ。
ミアは歩き方が女優然としていて、かつて働いていたカフェでコーヒーを買う。特に説明はないけれど、映像から、どうやら女優として成功をして、豪華な家に住んで、セブではない男性と結婚をし、子供もいる。ああ、別れてしまったのだなと思う。

じゃあ、セブはどうしたのだろう。
ミアと夫が子供をベビーシッターに預けて出かけ、帰りに偶然寄ったのが彼の店だった。
二人はお互いに認識をするが、話さない。ここで映画が終わりだったら、とても切なかった。それに、序盤は楽しかったのにこんな終わり方でいいのかと怒ってしまっていたかもしれない。
しかし、ここで走馬灯のように二人の出会いからがミュージカル仕立てで流れる。

最初のピアノの店で出会うシーンから、話しかけたミアにセブがキスをする。ほら! やっぱりあのシーンで恋に落ちなきゃいけなかったんだよ!と思う。ここでそうしていたら、この先の未来もバラ色になっていたのかもしれない。

このミュージカルシーンはドタバタしながらもハッピーなことしか起こらない。セブはバンドの誘いを断る。ミアの一人芝居は成功。セブはミアと一緒にパリに行く。二人は結婚し、子供が生まれる。

確かに、見たかった未来はこれなのかもしれない。けれど、こんなにうまくいかないのも人生だ。選択肢だって間違える。目の前の金に目がくらむ。ぽっと出の女優の一人芝居が満席になるわけはない。

けれど、ミアは女優になったし、セブは店が持てた。夢は叶ったのだ。さっきバッドエンドと書いたが、バッドエンドではなく、多くある終わり方の一つだろう。

ミアは久しぶりに会ったセブが自分の店でピアノを弾くのを見つめ、いろいろと思い出したとは思うけれど、今更家族を捨てることはないだろう。
歩き方もそうだけれど、表情も5年前とはまったく違う。チワワっぽいというか、可愛いけれど愛嬌のある可愛さだったけれどそれが無くなった。実際には5年も経ってないわけで、エマ・ストーンの演じ分けが素晴らしい。

確実に捨てているものもあるし、逆に言えば、何かを捨てないと大女優にはなっていないと思う。
夢見る私が恋したあなた、夢見る私とサヨナラしたときにあなたとも一緒に別れるといったところか。
彼女は決して自分を曲げない。一貫して夢を追い続けてきた。

セブのほうがふらふらはしていたけれど、結局自分の店を持って、しかも繁盛しているのだから、夢は叶っている。
でも、おそらく、セブはミアのことを想っていたのだろう。
それでなければ、彼女が考えた店名とロゴの店は作らない。彼女に見つけて欲しかったのだ。すぐわかるように、そのロゴを使った。

けれど、結局、ミアの夫が店を見つけるというのも皮肉なものだ。

走馬灯のようなミュージカルパートは、こういう未来もあった可能性というよりは、この映画か完全にミュージカルだったらこうなっていたというのが示されていたのかもしれない。この映画は、それほどコテコテのミュージカルではない。ドラマ部分も多い。
ミュージカル部分が夢の世界、または夢のようなうきうきした世界、ミュージカル以外の部分が現実ということでもあるのかも。
オープニングも、渋滞という苦行からの現実逃避でもあるのかもしれない。

ほろ苦い再会ではあったけれど、店を出る時に振り返ったミアとピアノの前に座るセブは笑顔を交わしていた。吹っ切れていなかったら、振り返ることもなかっただろうし、後日一人で訪れると思う。ここで振り返って微笑めるというのは完全に吹っ切れた証拠だろう。

これで二人の関係は本当に終了したけれど、セブも違う未来に向かって歩き出せる。きっとこれはこれで幸せな未来なのだ。

もっと幸せいっぱいなキラキラした気持ちで映画館を離れるのかと思ったけれど、ちくちくする小さなトゲを残すような映画だった。
でも、ビシッと背筋が伸びるような、爽やかさが残った。



1月26日にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われたジャパンプレミアへ行ったのですが、そのことも少し。
主演のライアン・ゴズリングと監督のデイミアン・チャゼルの舞台挨拶が一時間くらいとかなり長く設けられていた。

多数の部門でノミネートされた感想
デイミアン・チャゼル「スタッフたちも本当に頑張った映画なのでみんなにスポットライトが当たったのが嬉しい」

エマ・ストーンとの共演について
ライアン・ゴズリング「今回で3度目の共演だけれど、前回2回は短かったので今回は長くて嬉しい。過去の作品でも撮影の合間に彼女が歌ったり踊ったりしていたので、ミュージカルができることはわかっていた」

日本は監督は初めて、ライアン・ゴズリングは『きみに読む物語』以来12年ぶり。だけれど、今回の日本滞在時間は短かったらしい。前日まで北京にいたようなので、その次の日くらいには別の場所に移動か帰ってしまったと思われる。
もっと長く滞在できたら?という質問にライアン・ゴズリングは「映画を撮ってみたい」と言っていたが、おそらくサービスではないかと思われる…。

ライアン・ゴズリングは歌だけでなく、ピアノやタップダンスなども三ヶ月間練習をしてすべて自分でやっているらしい。
長回しシーンについて、「綱渡りのような緊張感がある。けれど、その緊張感がマジックを生み出していい映像になる」と言っていた。

ミアは作中でオーディションに落ち続けるが、オーディションに受かるコツについて、ライアン・ゴズリングは「わからない(笑)」とのこと。逆に監督にどうしたら合格かという質問をぶつけると「こんな冷たい本読みはせずに、もっと遊びをもたせたオーディションにしてその部分を見る」と言っていた。

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