『未来を花束にして』
Posted by asuka at 8:55 PM
1912年イギリスの女性参政権を求める運動についての映画。運動自体は実際にあったものだが、まるまる実話というわけではないらしい。
監督はもちろん、他の製作スタッフも女性を中心としていたとのこと。
以下、ネタバレです。
原題は『Suffragette(サフラジェット)』。もともとはイギリスでのこの女性参政権を求める運動をする人たちはサフラジストと呼ばれていたらしい。けれど、一向に認めてもらえず、窓を割る、ポストを爆破するなど非合法の手段で運動をしていた人たちを、合法的な手段を用いて運動をしていた前者と区別してサフラジェットと呼んでいた。
『未来を花束にして』というタイトルは優しすぎる。どちらかというとサフラジストっぽい。この映画で描かれているのは、この邦題から受けるそんなふわっとした優しいイメージでも慈悲深いものでもない。そんな季節はとっくに過ぎたのだ。
慈悲深さなんてものは、自分に余裕があるときに生まれるものである。この映画に出てくる女性たちに余裕なんて無い。
この映画で描かれているのはもっとガツンとした、ゴリゴリした岩のような事柄である。
主人公のモードは最初はサフラジェットたちの過激な行動を見て、関係を持たないようにしていたし興味もなさそうだった。最初に逮捕されたときにも、私はサフラジェットじゃないとはっきり言っていた。夫にも怒られるし迷惑していたようだ。女性参政権については最初から無いものと思っていたから求めることもしなかったと言っていた。
しかし、サフラジェットたちの話を聞き、一緒に行動するうちに、ちゃんと自分で考え始める。よくよく考えてみたら、おかしなことが多いことに気づく。
主演のキャリー・マリガンの表情も、最初はぽやぽやしていたけれど、次第に険しく、きりりと引き締まってくる。
私も最初は、投石するのはやりすぎではないかとも思った。けれど、男に力で押さえつけられ、最初から馬鹿にされている彼女たちを見ていると、怒りの気持ちがわいてきた。
声をあげて行進していても何も変わらないなら、気にかけてもらえる行動をとるしかない。
モードは実際には存在していない人物とのこと。実話をもとにした映画で、主人公が創作なのも珍しいと思うが、きっと、運動に参加していた中にはモードのような女性もいたのだろう。それに、普通の人を主人公にしたほうが、観ていてより感情移入できる。逮捕されるのが普通のことか?と思うかもしれないが、逮捕者は千人以上だったらしい。普通の人が逮捕されたのだ。
映画の登場人物で実際に存在したのは、メリル・ストリープ演じるサフラジェット界のカリスマエメリン・パンクハーストと、最後にダービーのレースに飛び込んでいった女性の二人らしい。メリル・ストリープはメリル・ストリープだから仕方が無いけど、日本のポスターなどに使われているけれどほとんど友情出演くらいの出番しかない。けれど、重要な役です。
最後に走る馬の中に入っていった女性は実際には何のために亡くなったのかはわからないらしいが、映画の中ではそれがきっかけで、この運動について他の国にも知られることになり、政府も動いた。葬儀に多数の人が訪れた映像は、実際にこの女性の葬儀の時のものらしいので、やはりサフラジェットとまったく関係無いということもなさそう。
それにしても、ここまでやらないといけないとは。ここまでやって、やっと女性が参政権を手にすることができた。イギリスでは1928年のことだ。わりと最近である。
最後に各国が女性参政権を得た年代が出るけれど、どの国でも男女は平等ではなかった(ない)のがわかった。日本も1945年である。サウジアラビアにいたっては2015年だし、いまだに認められていない国もある。
過去に戦ってくれた人たちがいるから今がある。それを思うとひとごとではないし、現在だって、ニュースでは連日デモ行進の様子が報道されている。それが何であれ、訴えたいこと、変えたいことがあるのは同じなのだ。
実話をもとにしたとのことだけれど、時代背景もちゃんと考えられているらしい。
あの時代、労働者階級の女性は実際に映画に出てきたような洗濯場で粗悪な条件で働いていたらしい。
また、カメラを使った捜査もあの時代から始まったとのこと。
そして、刑務所でハンガー・ストライキを行った者をおさえつけ、チューブで食物を流し入れる虐待も実際に行われていたらしい。
外国の政治関連の映画だし、とっつきにくいかもしれない。ショッキングな内容も多い。けれど、本当にひとごとではないし、観て良かった映画だった。
そういえば、モードの夫役がベン・ウィショーで、一応目当てでもあったんですが、とても嫌な奴です。この映画に出てくる男性はすべて嫌な奴です。
ただ、アーサー警部だけは、モードと何度か語り、追ううちに心を動かされているようにも見えた。けれど、味方になったり、かばったりはしないです。
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