『神のゆらぎ』



2014年公開。日本では2016年公開。
グザヴィエ・ドランが出演しているが、監督はダニエル・グルー。Podzという名前でテレビシリーズの監督なども手がけているらしい。

群像劇になっているのだが、その誰もが悩みを抱えている。
白血病で輸血しないと死んでしまうが、神の教えによって血を混ぜることを禁じられている。恋人も親も、周囲すら輸血を拒んでいて、彼の本心はわからない。
この青年、エティエンヌ役がグザヴィエ・ドラン。群像劇ということもありますが、そこまで出番は多くない。

別の話、宗教とは関係ない話で、ギャンブル狂の男がホテルの老バーテンに「毎年、妻とキューバに行ってるんだ」と話す。バーテンは実は同じホテルで働く女性と不倫をしていて、その言葉に突き動かされるようにキューバ旅行へ誘う。
老バーテンはここでギャンブル狂の男に声をかけられなかったら、思い切った行動には出なかったかもしれない。

一方で、あやしげな仕事をする男が出てくる。ドラッグの売人らしい。この男についてはどうして売人をしているのか、というのが話が進むうちにわかってくる。なにやら過去にやらかしたらしいというところから、それが姪っ子に関係あるということ、はっきりとはしめされないし映像なんて出てこないけれど姪っ子と関係を持ったらしいということ…。それが本当なのかというところまでも描かれないが、姪っ子はどうやら嫌ではなかったらしい。
ただ、親(男の兄弟)からすればたまったものではない。けれど、兄弟だから、二度と現れないことを条件に、逃がしてやろうとする。兄弟は空港勤めだ。キャンセル待ちの席を男にこっそりとあてがってやろうとする。

物語の序盤で飛行機事故が起きて、エティエンヌの恋人でもある看護師は病院に向かう。生き残りは一人だが、大怪我をしていて身元もわからない。
映画を観ているうちに、実はこの飛行機事故に向かって話が進んで行っているのがわかる。

ギャンブル狂の男とその妻、バーテンの男性と不倫相手の女性、そして逃げる男と全員が乗るのかどうやら同じ飛行機のようだ。
じゃあ、生き残っているのは誰なのか。

そのようなサスペンス展開がある一方で、エティエンヌたちのストーリーも進行している。エティエンヌの恋人である看護師は、医者に白血病は輸血をしないと治らないと聞かされても頑なに拒んでいたが、飛行機事故で人の死を目の当たりにして気持ちと信仰がゆらぐ。

飛行機事故の生き残りの人と血液型が合うのが看護師だけだった。すぐに輸血をしないと間に合わない。多くの人の死を目の当たりにしたのとエティエンヌのことがあったのだろう。
それより何より、不倫の女性の家に勧誘しに行った時に、夫が「全知全能の神がいるなら、飛行機事故なんて起こらないだろ」と言われたことが一番ひっかかっていたのだと思う。
彼女は輸血を承諾する。
そのために友人からは排斥され、家も出ることになった。エティエンヌには告白していたが、きっとエティエンヌの気持ちが知りたかったのだと思う。

エティエンヌの本心はどうだったのだろう。どこかで死にたくないという気持ちもあったと思う。それでも本当に、自分が復活することを信じていたのかもしれない。周囲がそう言うし、いままでそう信じてきたから今更考えは変えられないということか。
ここでのグザヴィエ・ドランは、正しいとか正しくないとかわからないけど信じてるんだよというような『トム・アット・ザ・ファーム』で見せたようなぐるぐる目になっていた。

結局、エティエンヌは(輸血をうけないまま?)亡くなり、看護師が輸血をした男性は一命をとりとめる。
ギャンブル狂の男の妻が病院に呼ばれていた。空港で別れ話をしていたので、こんな状況で呼ばれるなんて皮肉だと思っていたが、どうやらギャンブル狂の男とは別人ということが発覚する。

その前に空港のシーンがあったのですが、飛行機が苦手なバーテンの男性に向かって、過去に罪を犯した男性が勇気付けるようなことを言うんですよね。不倫の二人はその言葉で飛行機に乗ったのだ。
この二人がキャンセルして売人の男性が乗ったのかと思っていたが、キャンセルしたのは妻に別れ話を切り出されたギャンブル狂の男性だった。

ということは、病院で大怪我をしていて一命をとりとめたのは、過去に罪を犯した男性である。ちゃんとは描かれないけれど、おそらくそうなのだと思う。

難しいところで、過去に罪を犯した男は勇気付けるために不倫カップルに声をかけたのに、そのせいで彼らが乗った飛行機は落ちた。
過去に罪を犯した男はこの場から逃げたかったのに結局戻ってくることになってしまった。
教えに背いて看護師が輸血をして命を救った男は犯罪者だった。
ギャンブル狂の男の妻は、この先この男性と何か関わりを持っていくのだろうか。夫との関係は…。

最後に「全知全能の神がいるなら飛行機が落ちることはないだろ」というセリフがもう一度流れる。不倫の女性の夫である。最初にこのセリフが流れた時は、宗教の勧誘を断るためだけの言葉かと思っていた。けれど、妻が別の男と出て行った上に彼女が乗った飛行機が落ちたという彼の状況がわかった上で聞くと、深い悲しみがうかがえる。本心から、神など信じられないという気持ちだったろう。
宗教と運命と人の幸福と。考えさせることが多い作品だった。




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