『ピウス13世 美しき異端児』(1話〜5話)(『ヤング・ポープ 美しき異端児』)



これもWOWOWのみの放送で、ソフト化もされていないようなので、邦題はWOWOWオリジナルのものと思われる。KADOKAWAがオールライツを獲得したらしいので、そのうちDVDででるのかもしれない(追記:『ヤング・ポープ 美しき異端児』のタイトルで10/6レンタル先行リリースとのこと)。原題は『The Young Pope』。そのまま、“若きローマ教皇”です。全10話のドラマ。

ピウス13世は実在するのかと思っていたけれど、ピウス12世以降、現在のフランシスコまで、ローマ教皇にそのような名前の人はいないようなので、架空の人物らしい。WOWOWの番組説明が、“史上初のアメリカ人ローマ教皇に選ばれたピウス13世のミステリアスな人生を描く”ともっともらしく書いてあったので、いるのかと思っていた。

主演はジュード・ロウ。はっきり言って、ジュード・ロウが聖職者の服を着ているというだけでも見る価値があるドラマ。
普通、牧師の服や教皇の服はストイックであり、着ている人物も慎ましやかで質素であることが多い。

けれど、本作ではジュード・ロウである。派手な顔のハンサムだ。そんな彼が、教皇の真っ白な祭服に身を包んでいる。前半だと一回だけ教会の外に出るときに私服(これも“白い”パーカー)を着ていたが、それ以外はずっと聖職者の服だ。
派手な顔にストイックな服。ミスマッチと思われるかもしれないけれど、すごく似合っている。そして、聖職者だからといって、顔の派手さを隠すようなことはしない。自分で自分の顔が良いことも自覚している。
男前が男前であることを存分に生かした役を演じると迫力があるものだが、本作もそれである。
オープニングでも、毎回、悠々と歩く教皇がやおらこちらに顔を向け、ウインクをして、いたずらっぽく笑う。こんなの絶対に好きになってしまう。

それにこの教皇、禁煙の教会内でタバコを吸い始める。とがめられるけれど、一番偉いのは私だと言って、吸うのをやめない。権力を持っていることも自覚している。

若くて顔が良くて破天荒となったら、俗っぽい人物を想像してしまう。周囲の人物たちも、若造具合が気に食わなくて、国務長官はなんとか失脚させようと企む。
あれだけのハンサムだと女性経験も豊富そうだし、女性好きだろうと、修道女を脅して、ハニートラップを仕掛けるのに協力してもらったりしていた。
教会の中のことだけれど、まるで政治もののドラマのようである。高度な情報戦と、狭い空間の中での派閥争い。味方と敵と、当然、スパイや裏切りなども。

しかし、教皇は屈しない。近寄ってくる女性と親しくはなっても、ぎりぎり教皇として接している。もちろん、キスや肉体的な接触もない。
実はハラハラしながら見ていた。私は教皇をまったく信用してなくて、国務長官の罠にはまってしまうのかと思った。
もしかしたら罠なのをわかっていたのかもしれないが、見事に退ける。

しかし、何事もなかったかのように退けたわけではなく、自らの欲望と戦っているかのようなシーンもあった。自分自身に課した修行のようなものだったのかもしれない。

一話の最初で、教皇がスピーチをしようとバルコニーに立つと、空が一気に晴れ上がる。まるで神のようだ。そこでひどく俗っぽくて破廉恥な演説をして市民をざわつかせ、教皇の任を解かれてしまう。
結局、これは夢だったのだが、彼の心の奥底にある願望とか気持ちなのかもしれない。

実際の就任スピーチは姿を見せず、シルエットのみで行っていた。しかし、市民がライトを当て、怒り、中へ下がっていく。すると、空は一点、稲光が…という、夢とは逆のものだった。(ここで姿を見せなかったので、昔はこうゆう謎の多い教皇が実在して、その人を描いたドラマなのだろう…と思ったら架空の人物だった)

おそらく教皇は人一倍俗っぽいし、一話では神を信じていないと言っていた。そのあと、冗談だと訂正したが、本音だろう。
しかし、誘惑に負けなかった教皇は一皮向けたように、青臭さと俗っぽさが消える。

彼の手の中にある権力は更に強くなって、もう無敵である。
枢機卿に向けての挨拶のときには、服装も装飾の入った冠とぶりぶりの凝った刺繍の入ったマントで仰々しい。
自分が上、お前らは下なのだと自覚させる恐ろしさ感じるスピーチは、決して虚勢ではなかった。もう年齢は関係無い。若いからってなめんなという宣言でもある。

枢機卿の一人が立ち上がり、あなたに従いますという意味を込めて教皇の前に跪いて足にキスをする。続々と枢機卿たちが同じような行動をするが、失脚させようとした国務長官は、足の前で顔を背けてしまう。
そこで、教皇はもう片方の足で頭を押さえつけて無理やりキスをさせていた。こんな屈辱ってないだろうなと思うけれど、もう逆らうことができないのもわかったはずだ。

教皇は、神を信じているというよりは、私が神だといった様子だった。しかし、権力を振りかざして、人を従える男前の教皇は、神というよりはむしろ悪魔のように見えた。慈悲深さなんてない。けれど、とんでもなくセクシーで魅力的である。(6話〜10話の感想はこちら




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