『ブラックボード 戦火に生きて』



原題は『En mai, fais ce qu'il te plaît』。英語タイトルは『Come What May』。
2015年、フランス/ベルギー制作。日本では劇場公開されておらず、ソフト化も今の所されていないので、邦題はWOWOWが独自で考えたものだと思う。

第二次世界大戦中の話。
主人公のハンスはドイツで反ナチ運動をしていたが、ベルギー人と偽って、息子のマックスを連れてフランスへ逃げてくる。
北部のレブッキエールという小さな村で暮らしていたが、そこでドイツ人だとわかってしまい、刑務所に連れて行かれ、息子とは離ればなれに。
その状態のまま、フランスにドイツ軍が侵攻してきて、村ごと南へと避難することになる。

このように、故郷を捨てて南へ避難したフランス人が1940年には800万人いたそうだ。映画の最初に“その旅をした母と一人の少女に捧ぐ”と出る。監督のクリスチャン・カリオンは1963年フランス生まれなので、すでに戦争は終わっていたようだが、彼の母がこの800万人のうちの一人だったのだ。
母の証言なのかはわからないけれど、実際に故郷から離れて避難した人々の話を元にしているとのことなので、戦争ものでも兵士ではなく、市民中心の描写になっている。

先に避難した息子を含めた村民と、村に帰ってきたけれどもぬけの殻で後を追う父親という二つの旅が並行して描かれる。
旅とかロードムービーとかいうと呑気なもののように聞こえるが、本作はどこでドイツ軍と会うかもわからない戦時中なので、常に緊迫感がある。ただでさえ、故郷から離れていて不安があると思うのに、その上、どこから、いつ攻撃されるかもわからない状態というのはかなり厳しい。

ましてや、ハンスとマックスは親子で離ればなれになってしまっている。
マックスは父親に会えるように、場所などを記したメッセージを村の学校の黒板に残す。これが邦題のブラックボードの由来だった。

マックスは村の人々と一緒とはいえ、一人だけドイツ軍だし、父親がどうなったかわからない状態で心細かったろう。
村の人々も、金がなくなってしまい、途中の村の商店が何も売ってくれなかったので襲撃していた。それだけぎりぎりの状態だったのだろう。

途中、プロパガンダ映画を撮るためのドイツ人の集団と会っていた。村ごと逃げていたため、大荷物であったり、村の人々は不安げな表情を見せていたり。そこへ容赦なくカメラを向ける。
映画の冒頭で実際の逃げている人たちの映像が流れたが、これがおそらく、ドイツ軍がプロパガンダのために撮影したものだと思われる。

また、爆撃機に襲われることもあった。多数の戦闘機が不気味なエンジン音を響かせて空の彼方から現れるのは怖かった。兵士ではなく、市民である。無抵抗だ。その集団に、上空の安全な場所から砲弾を浴びせる。
そこで逃げたマックスははぐれてひとりきりになった。

ハンスは、残していくのはもったいないからとワインをがぶ飲みし、ワインセラーで寝過ごしたら村の人々が出発しちゃっててとり残されたというちょっと間抜けな村民と、小隊からはぐれたイギリス兵との三人で南下する。
ハンス役のアウグスト・ディールはドイツ人役だしドイツ人なのでドイツ語はもちろん、フランスに逃げてきてフランス語、それにイギリス兵と話すのに英語も話せていた。
ちなみにイギリス兵役はマシュー・リースです。

三人のうち一人が兵士なので、二人くらいのドイツ兵なら戦えたけれど、複数現れては隠れることしかできない。結局、村民も撃たれてしまう。
村の人々が通った後をハンスたちも追っていく。途中の村の黒板にもメッセージが残されていて、マックスのいじらしさが見えた。
また、最初、金がなきゃ売らないよと言っていた商店の人たちも、一度襲撃されたので、ただで持って行っていいよと怯えていた。

イギリス兵とハンスの間に友情も芽生えていた。敵はナチスというのが共通していたのもあるだろう。イギリス兵はフランスの隊と合流していた。
ハンスはひとりきりになる。

ハンスもマックスもひとりきりになってから、二人が会うのは結構あっさりしていた。もしかしたらハンスの夢で、マックスは実は死んでいるのかなとも考えてしまったがそんなことはなかった。
二人が会うところとそれ以降は、トントン拍子というかうまくいくことの連続で、案外きれいにまとまってしまった。

ドンパチはそれほどないし、大量に人が死んだりもしないけれど、さっきまで普通に喋っていた個人が簡単に撃たれてしまったり、避難とはいえ馴染んだ村の人々と旅のような道中だったのに突如戦闘機が現れて仲間が死んでしまったりと、日常の中に急に非日常が割り込んでくるのが怖かった。
それと、単純に第二次世界大戦下のフランスの一般市民がこんな暮らしをしていたというのも知ることができて、興味深かった。

ストーリーとは関係ないのですが、避難する村の市長が飼っているアヒルが、かなり表情豊かだった。飛行機の音がしたら上空を見上げたり、兵士が近寄ってきたら袋の中に隠れたり。ちょくちょく映し出されるたびに和む。一人前の登場人物でした。

ソフト化されていないため、下の画像はサントラCD。音楽は、エンニオ・モリコーネ。




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