『人生は小説よりも奇なり』



2016年公開。ドイツで2014年に公開された後、アメリカでは2015年にDVDが出たそうなので公開は2014年だろうか。

邦題の『人生は小説よりも奇なり』というほどとんでもなくドラマチックだったり意外性のあることは起こらない。原題の『LOVE IS STRANGE』のほうがとぼけた風合いでさらっとしていていいと思う。

合法化を受けて、39年連れ添った熟年同性カップルのベンとジョージが結婚をする。普通だったら、いろいろあって結婚するまでを描く話になりそうなものだが、この映画は結婚式から話が始まる。

ただ、同性と結婚をしたことで、仕事を辞めさせられてしまい、家賃が払えなくなる。39年連れ添って、晴れて結婚できたのに、家を失い、彼らは親戚の家へばらばらに居候することになってしまう。

ベンの家には女流小説家がいて、昼間も家で仕事をしている。ベンがどんどん話しかけて、小説家はストレスがたまってしまう。ベンに悪気がないのもわかるし、夫の親戚なので怒ることもできない。
この女流小説家役が新生スパイダーマンのセクシーメイおばさんのマリサ・トメイだった。邦題に小説とあるので、彼女が二人のことを小説に書くのかなとも思ったが、そんなベタな展開はなかった。

ジョージが居候する家では毎晩パーティーである。家主であれば寝室にこもって寝てしまえばいいが、ソファで寝ているため、パーティーが終わるのを待つしかない。
そのパーティーで若いゲイの青年とジョージが知り合うが、別に浮気などもない。

別にベンとジョージには最後まで愛の危機は訪れない。ずっと愛し合ったままだ。ベンが居候している家の少年の小さなベッドで「君と寝るのが恋しい」と言っていたシーンが切なかった。ただ愛し合っているというだけではうまくいかない。

この映画は同性愛者が主人公ではあるけれど、いわゆる同性愛ものとも違うと思う。もちろん、合法化がはやければ、老年期に入る前に結婚できたし、そうしたら、例え仕事をクビになっても新しい仕事がすぐに見つかったかもしれない。同性愛者でなければ、結婚もすぐにしたかもしれないし、仕事をクビになることもなかった。かといって、差別反対!ということを全面に出している映画でもない。

ドラマチックな展開はなくても、二人が愛し合ったこれまでの時間を感じることができるし、今も愛し合っているのが十分にわかる。

絵の個展の話をして別れた夜、なんとなくこの後ベンは亡くなってしまうのだろうという予感はあった。意外性はない。だから、泣かせにくるような演出もない。でも、やはり、新居に一人で佇んでいるジョージの姿は悲しい。やっと新居が見つかっても、一緒に住むことはなかったのではないかと思う。

ジョージの元にベンが居候していた家の少年が訪ねてくる。ベンが描いた絵を持ってくるが、そこには彼の友人が描かれている。両親に怒られていたし、たぶん少年はその友人とはもう会うことはできなくなってしまっただろう。でも、今でも思い出として心に残っているはずだし、おそらく彼にとってはベンも、その友人と同じ引き出しに入っているのではないだろうか。
好きとか嫌いとかではない強烈な印象を残す人物として。そしてもう、彼らには会えない。

少年はベンの葬式に行けなかったらしいので、ジョージに絵を渡すことが、弔いの代わりだったのだと思う。

少年は、旅行先で女の子のことを好きになったけれど挨拶すらできなかったとベンに話していた。少年はベンから後悔のないように人生を楽しめという教訓めいたものを得たのだと思う。

ジョージの家を訪ねた少年は、少女と待ち合わせをしていた。もしかしたらあの日に挨拶もできなかった女の子かもしれないし、別人かもしれない。でも、両親も息子に友達ができないと悩んでいるくらいだったけれど、ちゃんと人付き合いをしている。大切な人を見つけられたのだ。

少年と少女が夕日の差す道路をスケボーに乗っているのがラストシーンで、それは穏やかでとても優しい。じんわりとしたあたたかさが胸に広がる。
ジョージとベンが、愛し合って結婚をしたにも関わらず一緒に住めないまま一方が亡くなってしまうというのは悲しいことだ。けれど、別に後味が悪さややきもきした気持ちは残らない。残るのは、爽やかな感動だけだ。



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