『あなたを抱きしめる日まで』


アカデミー賞作品賞やジュディ・デンチが主演女優賞など、4部門にノミネートされた。生き別れた息子を捜す実話だが、涙涙というよりは、怒りがわいてくる、家族ものというよりは社会問題ものかなと思う。宗教論やジャーナリズム論の面もある。

以下、ネタバレです。





予告を見た時には、一緒に捜す記者が実は息子だったりするのかなとも思ったけれど、実話なので、そんな偶然はありません。
記者は社会面の記事作りのためにフィロミナの息子探しに付き合う。社会面とはいっても、ゴシップみたいなもので、息子が亡くなっていることやゲイであったことがわかると上司は「記事としておもしろい」と囃し立てる。しかし、事情が明らかになるにつれ、フィロミナは私生活のことなので載せないでくれと言い、記 者もフィロミナと旅をするうちに、載せるのをやめようとする。
記者として同行していたのだから、どんな結果であれ載せるのが当然だけれども、情がわいてくる。この二人の関係がなんとなく疑似親子のようになってくるのも良かった。

ラスト付近など、フィロミナのためにカトリック教会に対して本気で怒るのだ。それは、いまいちカトリック教会のことが理解できない私のような観客の気持ちまでを代弁している。ここで、カトリック信者であるフィロミナは記者を否し、カトリック教会を赦すが、信者でもなんでもない私や記者には理解できない。なぜ、そこまでしてかばうのか。
しかし、最後に「やっぱりこれを記事にしていいわ」と言うということは、静かな怒りをたたえた告発なのだろう。
ここで、ジャーナリズムがやっと役割を果たす。おもしろおかしい面だけではなく、隠されていた事実を明るみにするという重大な役割だ。

映画の最後に、アイルランドのカトリック教会にはいまでも子供を捜す母親が訪れるという文字が出て、本当に許せないと思ったし、映画にまでなることで私もこの事実を知る事ができた。
実際のところ、私はカトリック信者ではないから、信者にとっての若くしてのセックスにどれだけの罪があるのかわからない。勝手に子供を売られるという罰を受けなくてはならないのか。犯罪としか思えない。

ジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンのコンビが良かった。官邸記者だったので息子に会った事がある事実が発覚したときのフィロミナのはしゃぎ具合と全然憶えちゃいないのに話を合わせてあげる記者のやりとりがおかしい。
また、ジュディ・デンチのおばあちゃん演技というか、とぼけた感じが可愛かった。
アイルランドの国章であるハープのピンバッチを息子が胸に付けているのを教えられた時、混乱のあまり「ゲイだからハープのピンバッチを付けてるんでしょう?」などとうっかり差別的な発言をしちゃうシーンは泣き笑いだった。
それだけではなく、凛とした気高さも感じるシーンも何度かあった。やはりとても好きな女優さんです。

途中からアメリカに舞台が映りますが、アイルランドの風景も思ったよりもたくさん映って良かった。

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