『舟を編む』


2013年公開。原作は、題材はおもしろいと思いつつも文体が好みではなくて、あらすじをなぞるような斜め読みをしてしまっていた。作品に対する印象もあんまり良くなくて映画も見送っていたんですが、石井裕也監督だと知って観てみました。

一冊の辞書編纂を中心に物語が進んで行く。編纂するのは一冊だけれども、辞書なので15年かかる。関わる人も年をとり、中には亡くなる方も。

話は地味と言えば地味。本に囲まれた編集部や自宅でひたすら校正をしているシーンが多い。それでも、確実に時が過ぎているのがわかり、登場人物もそれぞれが成長している。

特に主人公の馬締光也を演じた松田龍平の演技が良かった。映画の中で、12年後に飛ぶんですが、その時に、ちゃんと12年を経ているように見える。少し疲労感が滲み出ている。でも、12年前よりしっかりしていて頼りがいがあるように見える。
登場シーンは変わり者であんまり関わりたくない人物に見えた。そのあと、あまり表情は変えないけれど、一生懸命頑張る姿とその頑張りがあさっての方向へいってしまう姿が可愛いながらも応援したくなった。
仕事を引き継いだ相手の定年退職、やっと打ち解けた同僚の異動といろいろなことがあっても、作品で描かれていない12年間にはもっといろいろなことがあったのだろう。それははっきりとは語られないけれど、表情やたたずまいでもってをちゃんと見せるのが良かった。

ただ、その中でのちに妻となる林香具矢だけが少しも変わらない。12年後にとんだときに、夫婦間に年月が感じられないのは違和感があった。
彼女との恋愛エピソードも“恋”の項目のためには必要だったのかもしれませんが、いまいちリアリティがない。ひとめ惚れだから仕方ないですが、急に恋に落ちるので過程が楽しめないのと、出会い方が漫画的すぎる。もじもじしている馬締は可愛くて応援したくなったけど、香具矢が馬締のことを好きになる理由がわからない。いきなり「みっちゃん」と呼んでいるのも幼馴染みでもないのにと思ってしまった。馬締の成長も恋愛絡みではなく、辞書関連での部分が大きいように見えた。
演じていた宮﨑あおいが悪いわけではないです。多分、原作の通りのキャラクターだと思うので。カグヤという名前、出会いのシーンの満月から、余計の事を想像しそうになる。

同僚を演じていたのはオダギリジョーだったんですが、松田龍平と初共演というのは意外だった。
ファッション雑誌編集部から異動してきた女性は現代っ子っぽい感じで印象が悪かったんですが、エンドロールで黒木華だと知ってびっくりした。『小さいおうち』の印象しかなかった。

香具矢は板前なので料理を作るシーンが何度か出てくるんですが、やはりフードコーディネーターは飯島奈美さんだった。特にお雑煮が飯島さんっぽかった。

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