『6才のボクが、大人になるまで。』


“4人の俳優が12年間家族を演じた”という宣伝文句の“家族”の部分を読みもらしていたので、主人公の男の子の12年間を4人の俳優が演じているのかなと思っていたのですが違った。
撮影期間が12年間で、演じているのは同じ俳優さんたちだった。

以下、ネタバレです。




『いとしきエブリデイ』も実際の4人兄妹を5年間かけて撮影しているため、よく引き合いに出されるのですが、『いとしきエブリデイ』のほうが歯磨きや朝起きて学校へ行くなどというルーチンワークを描いていて、よりドキュメンタリーっぽかった。
この映画も淡々とはしているけれど、ドラマティックな時々が入っているし、より演技している感じはする。
5年と12年という歳月の違いもあるけれど、6才から18才という時期は髭も生えれば声変わりもする。わかりやすく変わってくる時期なのかもしれない。
姉の12年でもあるんですが、この子は小さい頃からそれほど変わらない。髪を赤く染めたり、化粧をしたりはもちろんします。この子はリチャード・リンクレイター監督の娘さんらしい。

子供だけでなく、当たり前だけれど、親たちも12年間経っている。時の流れは誰にとっても等しいものだ。なんとなく、子供の成長だけを描いた映画だと思っていた。

母親は見た目にも少し太ってくるし、胸も垂れてくる。体つきから加齢が感じられた。
父親に関しては、見た目は髭が生えたくらいでそれほど変わらない。中年太りもしていない。これは、演じているのがイーサン・ホークだからというのもあるのかもしれない。

ただ、内面は随分と変わった。若くして親になったときには逃げ出したけれど、息子が15才の誕生日には、新しい奥さんとの間に赤ちゃんが生まれていた。昔から大事に乗っていた趣味の車(GTO)を売り、ファミリータイプに買い替え、ミュージシャンになることもあきらめて、会社勤めを始めていた。やっと親になる決心がついたのだろう。

母親も最初は子供を大事にしながらもフラフラしている様子だったが、大学で学び、そのうちに教授になって教鞭をとるようになるとまるで別人のようだった。恰幅が良くなっているせいもあるかもしれないけれど、頼りがいがある。

『6才のボクが、大人になるまで。』というタイトルですが、大学に入り家を出ただけで大人なったわけではないので、原題の『BOYHOOD』か直訳の“少年時代”でいいのではないかと思う。少年時代は、確かに終わる。大人にはなっておらず、大人への階段をのぼり始めたところだと思う。
大人になったのは6才のボクではなく、むしろ、両親のほうだ。

いちいち、何年という表示は出ないけれど、車の中や店内で流れている音楽や映画の話、使っているゲーム機などで大体の年代がわかるのがおもしろかった。

最初の方でドラゴンボールを見ているシーンがあるんですが、これはアメリカでの放送がどれくらいずれているのかわからないのでなんとも言えない。魔神ブウのあたりでした。寝ている布団のカバーもドラゴンボールだったので相当好きなようだった。

父親の家に遊びに行った時に「妖精はいるの?」という話をしているのですが、次の日に送ってもらう車の中で流れていたのがThe Flaming Lipsの『Do You Realize??』(2002年)。
アル中の継父に車で連れ回され、酒屋で換金させられてるときに流れていたのがGnarls Barkleyの『Crazy』(2006年)。
二番目の夫のところから逃げて来た後だったか、母親が学校まで送って来たときに車の中で流れていたのがPhoenixの『1901』(2009年)。

あと、父親と二人でキャンプをしたシーンで、「あの子(好きな女の子)は『ダークナイト』や『トロピック・サンダー』の魅力が全然わかってないんだ」と話すシーンがあって、両方とも公開は2008年なのでそのあたりのようです。
それより、『ダークナイト』は名作として名高いのでいいんですが、それと『トロピック・サンダー』を並べてくるこの子のセンスがとてもいい。将来が有望だと思った。

それもそうなんですが、高校卒業あたりで「人間がさらわれてロボットにされる」と陰謀説を彼女に話したり、アート写真を撮って現像していて授業にでなかったりと、幼い頃に離婚をしていても、少なからず実父の影響があると思った。

主人公の高校卒業の日に、父親の友達だかバンド仲間のライブに行くシーンがある。その人は「あの時小さかった子がこんなに大きくなって」みたいなことを言っていたけれど、その人が変わらずにバンドというか音楽活動を続けていたのも驚いた。
その時に、お祝い代わりに歌を捧げてくれるんですが、ここ、歌詞が出てきたら絶対に泣いていたシーンだと思うんですが、イントロでシーンが変わってしまう。
なんとなく、泣かす要素を排除しているようにも思えた。

感動というよりは、感慨深い映画だった。監督にしても、キャストにしても、スタッフにしても、よく撮ったなと思う。
物語というよりは、生活や人生そのもの。母親は二回離婚をしているけれど、決して特別変わった家族ではない。12年間をこっそり覗き見させてもらったような感じだ。

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