『フューリー』



戦車アクションと聞いて、ドンパチのある爽快感溢れる作品かと思っていたら、そんな雰囲気ではなかった。犯罪多発地域ロスの警察官の日常をファウンド・フッテージ方式でリアリティのある映像で仕上げた『エンド・オブ・ウォッチ』のデヴィッド・エアー監督と聞いて納得した。
以下、ネタバレです。







戦争ものではあるけれど、開戦や終戦は描かれていない。大抵の戦争ものはそれらを描くことでドラマティックに、時には過剰に感動的になっていたりもするが、今作はその要素は一切ない。
戦時中の、よりによって一番過酷な時期が描かれている。それも、大河的に描くわけではなく、24時間だけである。しかし、過酷な時期の24時間のため、より過酷さが凝縮されている。
上映時間は二時間を超えていても、描かれているのは主に四つの戦いと、制圧した町での家の出来事だけだ。一つ一つが入念に細かい。

戦車対戦車はこの四つの戦いのうちの一つだけでした。戦車同士の戦いがメインかと思っていたので、もっと見たかった。
ただ、この戦いについてもかなり濃厚。正面からではまったくダメージが与えられないあたりも、ドイツ軍のティーガーのすごさが窺えた。
この戦車、イギリスの戦車博物館から唯一動くものを借りてきた本物を使っているらしい。アメリカ軍側の戦車も本物だとか。

戦車同士の戦いについては、手に汗握るものだし、弾が当たればやった!と思いながら観ていたりしたんですが、戦車からドイツ兵たちが逃げ出して、その人たちは当然撃たれる。そこでは、やった!とは思えないんですよね。
もちろん人間が中にいるから戦車は動いているのはわかっていたはずだ。それでも、そこまで描かれると、少なくともエンターテイメントとしては楽しめない。

だから、戦車どっかんどっかんとか、5人のアメリカ兵が300人のドイツ兵相手に戦うとかで、『300<スリーハンドレッド>』と同じと思われるかもしれないけれど、まったく違う。あちらは、一応史実を元にしているけれど、ファンタジーめいているからエンターテイメントで済まされるのだと思った。

この映画はもっと殺伐としている。最後の戦いにおいても、少数で戦に臨んでも、結局は敗れてしまう。これが現実で、助けてくれるスパルタ兵はいないのだ。
なんであのシーンで逃げなかったのだろうとも思うけれど、いままで一緒だったフューリーを残して行くわけにはいかなかったのだろう。観ているだけでも、途中からはただの戦車ではなく、仲間のように見えた。
だから、最後、動かなくなった満身創痍のフューリーの周りで多数のドイツ兵の死体が転がる様子を上からのショットはさみしいし、やはり何も残るものはないのだと思う。

主演はブラッド・ピット。感情が適度に死んでいる、歴戦の兵士の顔をしていた。戦車の中の仲間たちを引っぱる、頼りがいのある軍曹役だったけれど、序盤に一度だけ、人に見られないように影に隠れて弱さを見せるシーンがあったのも印象的。それ以降、最後まで決して弱さは見せなかった。

新人役にローガン・ラーマン。『ウォールフラワー』にも出ていたがぼっちゃんっぽい風貌だし、兵士という感じはしない。配属されたときには、一人だけ色が白いし小綺麗だったので、とても戦場では通用せず、序盤で死ぬのではないかと思った。だけど、最初は頼りないながらも、段々顔つきが変わっていくのが良かった。

『ニンフォマニアック』が良かったシャイア・ラブーフも出ていた。信仰心が厚く、通り名はバイブル。冷静で、何を考えているかわからない感じだったが、腕は確か。首を傾けて、潜望鏡から外を窺う様子がセクシーだった。あと、睫毛の長さも気になった。
シャイア・ラブーフ、『ニンフォマニアック』の前まではどちらかというと好きではない俳優だったけれど、今回も良かった。たぶん、肝がすわった役が合うのだと思う。前まではふわふわした、子供っぽい役しかやっていなかったような感じがする。この先も期待してます。

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