『時をかける少女』


今年の年末で閉館になる新宿ミラノ座のさよなら興行、「新宿ミラノ座より愛をこめて〜LAST SHOW」での上映。
IMAXでなくても大きなスクリーンで観たい、という時によく利用していた劇場だったので、閉館は本当に残念です。
いつも座る席を決めていたんですが、今回はほぼ満席で座れなかった。

映画上映前に、支配人の方から作品の簡単な紹介があった。劇中に出てくる童謡は大林宣彦監督のオリジナルとのこと。てっきり尾道か広島の地元の童謡だと思ってた。
また、ロビーでラベンダーの香りを焚くという粋な演出も。それに対しての「お客様がタイムリープの能力を身につけても、責任は負いかねます」という、これもまた粋な言葉には、会場から拍手が起こっていた。

1983年公開。ビデオやテレビでは何度も観ているけれど、映画館では初だった。フィルム上映。

タイトルが出た後、尾道の街並の中を制服姿の高校生が登校していて、桜が満開で…というシーンがまず美しい。特に説明は入らないけれど、その前のシーンがスキー旅行で、帰る時に「山は冬だけど降りるともう春なんですね」みたいなセリフがあって、大体の季節がわかる。

子供の頃に観た時には、日本人形の首が伸びるシーンよりも時計屋の主人が店の奥で不気味に笑っているのが怖かった。時計の針が飛んでくるのの後だと憶えていたので、顔を伏せていたんだけれど、大人になってから観ると、それほど怖くなかった。

三角関係ものというのはもともと好きな要素なんですが、それに加えて、タイムリープでも記憶喪失でも前世の記憶でもなんでもいいんですが、知らない相手を何か知っているような気がしてしまう、気になってしまうというロマンティックさという、二つの要素が入っているところも『時をかける少女』が好きな要因です。

あと、今回久しぶりに観て気づいたのは、どうやら三角関係以上だったということです。はっきりとセリフでは出てこないけれど、委員長(とも言われてないけれど、クラスの代表っぽい女子)はごろちゃんのこと好きっぽかった。和子とごろちゃんが話してるときに、複雑な顔をしてるシーンがあった。たぶん、ごろちゃんのこと好きでありながら、ごろちゃんが和子のことが好きなのもわかってたんだろう。

今回、私は深町くんより、断然ごろちゃん派でした。飄々としているようで、和子のことをずっと守ってる。返してもらったハンカチを顔に当てるシーンは、素直になれなさを表しているようでいじらしかった。
最後に実験室で倒れている和子を発見した時には、いつもは「芳山くん」って呼んでるのに咄嗟に「和子ちゃん!」って、昔の呼び方が出ちゃってた。たぶん、高校生になったし、なんとなく恥ずかしくて、気取って「芳山くん」なんて呼び名にしてたんですよね。和子は「ごろちゃん」って呼ぶのに。なのに、幼馴染みらしい呼び方が、咄嗟の時には出てしまう隠しきれなさ。意地を張り通せない。
10年後になっても、和子を遊びに誘おうと電話をかけてくるあたりも本当に好きなんだと思う。和子はあの調子だし、おそらくほとんど断り続けてるんですよね。そのめげない姿勢も、報われて欲しいと思った。

でも、ラストで深町くんがもう一度出てきてしまう。お互い憶えていなくても、何かが気になるのか、タイミングがずれても二人で振り向く。和子がこの先、何かあるとしたら、ごろちゃんより、このニュー深町くんのほうなんですよね。
幼い頃から大人になるまで、ずっと和子のことを気にかけているのはごろちゃんなのに…。
つらいけれど、ただ、この切なさも三角関係の醍醐味でもある。

主題歌の歌詞もほぼ深町くんのことのようですし、たぶん、深町くんとのラブストーリーがメインなんですよね。それもわかってるんですけどね…。

あと、いままでメロンのくだりは普通に観てたんですけど、あれって父のゴルフのブービー賞の景品なんですね。日曜日に貰って来て、月曜日は「まだ熟してない」と言われ、火曜日に一日置いて「食べごろ」と言われる。

和子は日にちを行ったり戻ったりするけれど、日めくりカレンダーや黒板の日付やメロンなどで日にちがわかるようになっている。周囲の人物に加えてメロンも時間と一緒に正常に進んでいるけれど、和子だけがちょこちょこ移動しているのがわかりやすい。

あとは、改めて見て、30年前としてはSF表現がかなり斬新だと思った。
特に最後の時の旅人になったときの映像はおもしろい。和子が昔の姿を窺おうとすると、子供和子がその場からすっと姿を消す、同じ人が一緒に存在出来ないルールもここですでに採用されている。
ここで、深町くんは和子をお姫様抱っこするんですが、これって最初の和子が実験室で倒れているシーンでごろちゃんが和子を持ち上げられないのと対になっているのかもしれない。結局、足の方をごろちゃんが持って、頭側を深町くんが持って、二人で保健室に連れて行くんですが、深町くんは一人でも和子をお姫様抱っこできる。ここでも深町くんに軍配が上がってた。

この映画はエンドロールも最高でたぶん誰も席を立てないと思う。実験室で倒れている和子が、おもむろにむくりと起き上がって、主題歌を歌い出す。MVとNG集が一緒になった感じのもの。ここでは不気味な笑みを浮かべていた時計屋の主人ものりのりで、幼い頃に観たときにもほっとしたものです。
そして、最後の原田知世のまったく汚れの無いはにかんだ笑顔が本当に可愛い。いい映画を観たという想いがじんわりと浮かんできて、爽やかな気持ちで席を立てるのだ。



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