『わたしはロランス』
Posted by asuka at 12:56 AM
2013年公開。カナダ・フランスでは2012年公開。グザヴィエ・ドラン監督作。
タイトルから、男性として生まれたロランスが女性になる話かと思っていたけれど、そんな単純な話ではなかった。
もともと、ロランスには女性の恋人フレッドがいたけれど、ロランスが女性になりたいと打ち明けたあとも、ロランスはフレッドを変わらず愛そうとしていた。
私はどうしてもフレッド目線になりながら観ていたし、「求めるのは何?」と聞かれたときにフレッドが「男になって」と答えてしまう気持ちもわかった。
お互い愛し合っていながらも、カミングアウト後は相手に対して求めているものが微妙に違っていくのがわかった。好きでたまらなくても、男だから女だから好きなのか、その人だから好きなのかというのもある。片方は同性同士の恋愛に抵抗がなくても、片方はあるかもしれない。しかも、同性とはいっても、好きになった時には異性だった。
ただ一つ言えるのは、こうだからこう、というような決まった形はないのだということだ。二人の関係はパターンに当てはめることなんてできないもので、それは、この映画の二人に限ったことではない。どんなケースでも、多分、当事者同士にしかわからないことがあるし、当事者同士だって、相手のことがすべて理解出来るはずもない。
当事者同士ですらわからないのに、周囲がとやかく言うことなんてできないのだ。
『わたしはロランス』というタイトルだけれど、映画内ではロランスだけではなく、フレッドのことも同じくらい描かれている。二人が一緒に居るシーンと離れているシーン、両方とも人物に密着するように撮られていて、まるでドキュメンタリーのように感じた。些細な気持ちの揺れ動きも逃さずにとらえようとするような執拗さを感じた。
ただ、映画全体的には決してドキュメンタリーではなく、アート寄りの手法も多数取り入れられていた。シンメトリーだったり、中盤でフレッドがロランスの詩集を読むシーンでは大量の水が押し寄せるなど、感情表現の仕方も抽象的な部分もあった。
アート系だとわかりづらかったりするけれど、そんなことはなく、映像作りにこだわりながらも、かなり人間臭いという、この融合が特殊だと思う。
再会したあと逃避行的な旅行に出るシーンは、映画内でも一際幸せな気持ちになる。色とりどりの洗濯物が空を舞うのも、実際に舞っていたわけではなく、感情表現なのかもしれない。
後半、別れたあとに枯れ葉が舞っているのは、そのシーンとの対比のようだった。枯れ葉なので当たり前だけれど、色も枯れた一色だけ。歩いているのも一人きり。洗濯物のシーンでは、二人が密着するようにして歩いていた。
最初に化粧をして女物の服を着てロランスが学校へ行くシーンは、ロランス目線になっているのが面白い。それはグザヴィエ・ドランが経験したことなのかもしれないし、こんな好奇の目にさらされるんだ、耐えられるか?とでも問いかけてきているようだった。
ただ、好奇の目であっても、冷ややかな視線の他に、生徒たちの間には「先生やるじゃん」みたいな賞賛と、負けてられないというような挑発するような視線も含まれていた。授業のシーンでも、少しの驚いたような静寂のあと、いつもと変わらぬ授業内容についての質問が飛び出した。
そのあとに喫茶店の従業員(責任者)のおばさんが、ロランスを質問ぜめにするシーンがある。悪気はないのかもしれないけれど、いい気分はしないし、フレッドも爆発してしまう。これは学校でのシーンの対比のようだったし、年を取った人のほうが若者よりも保守的であるというのもグザヴィエ・ドラン自身の経験なのかもしれない。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: