『ウソから始まる恋と仕事の成功術』


2009年アメリカで公開。日本では劇場公開はなく、2010年にDVDスルー。発売はされず、レンタルのみだそうです。そうゆうリリース方法もあるんですね。
監督、脚本はリッキー・ジャーヴェイス&マシュー・ロビンソン。組んでいるのがスティーブン・マーチャントではないですが、本編中にほんのちょっとした役で登場してた。演じ方は濃かったです。

主演もリッキー・ジャーヴェイス。人々が正直なことしか言わないという世界が舞台となっている。いわば、心の声がそのまま聞こえてくるというような世界。リッキー演じるマークは外見も良くはないので、初めてデートする相手から、「太っていてぶた鼻」とか「寝るつもりはない」とか、散々なことをズバズバ言われる。
会社に行ってもやり手のハンサムや秘書から、「お前のことが嫌いだ」と言われ、他人よりも劣ったところのある人間は傷つきながら生きて行くしかない世界になっている。
ジョナ・ヒルも出てくるが、今よりも更に太っていて、髪型も小さいパーマをかけていて、見た目が冴えない。ファッションも最悪。おそらく彼も、周囲から色々言われているようで、暗い顔をしていて、常に自殺を考えているという役だった。
リッキーが描くのは順風満帆とはいかない人生を歩んでいる人物であることが多いが、今作では順風満帆な人物との差がかなり激しくなっているし、正直なことしか言わないことによってうまくいかないことがかなり多いのがわかった。お世辞もないし、物語も生まれない。

そんな中、ちょっとしたことから、マークだけが嘘をつけるようになる。
他の人間は嘘という概念自体がわからないから、マークの言った嘘が他の人には真実になっていく。思うがままである。物事は円滑に進むようになって、人生も好転する。
ためしにギャンブルなど自分のためにも使ってみるけれどそれだけではなく、周囲の人たちを幸せにしてあげていた。
嘘を耳打ちすることで問題が解決させるなんて、魔法使いのようにも見えた。

嘘をつくという、当たり前のことを特殊能力としているのがおもしろい。普通、出てくる特殊能力は、超能力めいたものが多いが、この映画の場合は世界の側が歪ませてあり、主人公に親しみが持てるようになっている。

病床につく母親を怯えさせないように、「死んでも消えてしまうわけではない」と天国について説くという行為は、息子として当然のことのように見える。本当に天国があるのかなんてもちろんわからない。でも、そう声をかけてあげることは優しさである。それでもそれは、嘘だったり創作であることは間違いない。

そして、そのせいで、他の人々に死後の世界を説くようになってしまう。本当のことしか言わない世界にはキリストもいない。マークが話したあとに作られたとおぼしき教会めいた建物のステンドグラスには、マークが最初に人々に死後の世界を説いた時の様子が描かれていた。
もう、ほとんど神様扱いなのだ。
髪の毛と髭が伸びたマークがシーツにくるまった姿がまるでキリストのようだった。あれも意識していたのかもしれない。

嘘で世界が変えられるから、悪い方向へもどんどん使えたはずだけれど、大切な場面では正直に話してしまうあたり、マークの人間性が滲み出ていた。
学校などでは嘘をついてはいけない、と一辺倒に教えられるかもしれない。けれど、嘘がなくなったら、それはそれで困った世界になってしまう。
例えば、最後に奥さんの作ったどうにもまずそうな料理を「おいしい」というシーンが出てくる。そこで、「まずい!」と言ったら、奥さんは傷つくし、毎日それが続いたら人間関係もうまくいかなくなる。ここでも優しい嘘をついたのだ。
正直なだけでは殺伐としてしまう。物語などもそうだけれど、適度に、そして円滑に進めるためには多少の嘘は悪ではないのではないか。

とてもつまらなそうな邦題がついてしまっているけれど、原題は“The Invention of Lying”である。マークが嘘を発明したというお話。

「太めでぶた鼻の遺伝子が子供に引き継がれるから結婚したくない」などと、本当にひどいことを言われてしまうけれど、子供に引き継がれた遺伝子はそれだけではなかった。嘘をつく能力もしっかり引き継がれていた。
おそらく子孫にどんどん引き継がれて、何百年後かには嘘の横行する世の中に変わっているのだろう。

特典映像として、出演者が原始人に扮しているコントのようなものが入っていた。嘘の始まりが描かれている。原始人の一人が嘘をついたので現在のようになりました、といった内容で、本当は映画の最初に入れるはずだったらしい。
家が小さいとか貧乏の象徴が、洞窟が小さいとなっているのが面白かった。嘘をつかない原始人たちは酷いことをどんどん言って、石を投げていた。原始人姿だと、正直になんでも言う姿にそれほど違和感がない。
まったく嘘をつかない現在の人間が滑稽に見えたのは、服装などは現在でも、中身は原始人と同じということか。

特典映像は他にも、原始人コントのためにイギリスからアメリカに呼ばれた俳優のどっきりめいた日記形式をとったメイキング“カール・ピルキントンの日記”や、裏話かと思いきや、他の出演者やスタッフがリッキーについて語り、彼がいかに愛されているかがわかる映像などが入っていた。結構豪華だけれど、リッキーの魅力が満載といった内容のものが多かった。

例えば、『The Office』がまったく嘘のつけない世界だったらどうなっていただろうと考えてしまった。
デヴィッドは空気が読めない男である。周りの冷たい目に動じず、というか気づかず、おちゃらけ続ける。しかも信頼されていると思い込んでいる。
これが、冷たい目だけでなく直接言われたらどうなってしまうのだろう。
リッキー自体は周囲の目に気づかないデヴィッドを演じながらも、脚本を書いているわけだから、周囲の人の心の内がわかっている。すべてわかった上で演じているのだと思うと、なんとなく恐ろしいような気持ちになった。









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