『Cemetery Junction(セメタリー・ジャンクション)』


2010年イギリスで公開。日本では公開されていません。DVDなども日本語字幕版が付いているものは出ていません。
『The Office』『エキストラ』のリッキー・ジャーヴェイスとスティーブン・マーチャントが監督。
両ドラマよりはコメディー色が弱く、主人公たちはリッキーではない若い俳優のため、青春ドラマになっている。
リッキーは主人公の父親役で出演。やけに老けて見えたけれど、『エキストラ』の三年後らしいので、それほど時間は経っていない。タンクトップ姿のせいかもしれないし、アル中気味の太ったというよりむくんだ体型を作っていたのかもしれない。どちらにしても、田舎町の工場で働いている労働者階級の父親役なので、パッとはしない。スティーブン・マーチャントも主人公の入社パーティーでちょこっとだけ出てきました。

一応、イギリス、レディングのセメタリー・ジャンクションという場所が舞台になっている。リッキーはレディング出身らしいけれど、別に自分の子供の頃の話というわけではなく、ここが舞台と決めつけて撮ったわけではないそうだ。どこにでもある小さな町にあてはめてくれとのこと。

おそらく、ロンドンからはだいぶ離れている田舎町のようである。主人公たち三人は、たぶん町の問題児だったのではないだろうか。わいわいきゃーきゃーと小さな町で遊びまくっていたけれど、その内の一人、フレディが保険会社に就職し営業をやることになって、将来について考え始めた。
将来のことなんて考えてないブルースとケンカになったのは、考え方の違いもあったのだろうけど、ブルースが勤めているのが自分の父親と同じ工場だからというのもあるだろう。フレディはなんとなく、父親のようにはなりたくないと思っていたようだったし、そこで勤めているブルースのことも、本当になんとなく軽蔑していたのではないかと思う。
この二人の間に入って緩衝剤のような役割をしていたのがポール。体型もぽっちゃりしていたし、胸に女ヴァンパイアの入れ墨をいれてしまうちょっとマヌケな面もあり、でも憎めない人物だった。フレディの入社パーティーで、酔っぱらってステージに上がって歌ってしまうのも愉快だった。駅にある喫茶店の女の子に好意を寄せられて…というシーンも可愛らしかった。

フレディはちゃんとした会社に入社できたけれど、密かに想いを寄せていた幼馴染みは上司の娘なことと会社の先輩と婚約していることが同時に発覚してしまうし、最初はやる気を持って取り組んでいた仕事にも疑問を感じ始める。八方ふさがりでどうにもならない。
そこで、町を出てやり直そうと考えるのは若さゆえかもしれないし、若いからこそ出来ることだと思う。

それでも、フレディのぐちゃぐちゃした悩みは爽やかですらあるが、ブルースのこじれ具合はそんなものではないようだった。おそらく無職の父親が家にいて、死んだ目をしてTVを見てる。母親は出て行ってしまった。
その日のみのような刹那的な生き方をしていて、喧嘩をしては捕まって収監される。将来のことを考えて悩むフレディが健康的に見えた。
父親の古い知り合いの警官に説教をされ、真実を聞かされて、いままで自分は何をしていたのだろうというように、呆然と座るシーンが印象的だった。重い扉が閉じられ、四角い窓ごしに、ブルースの姿が見える。カメラがどんどん遠ざかって行く。
そこで流れて来るのが、『すべての若き野郎ども』。選曲が素晴らしくて涙が出てくる。このシーンにとても合います。
その後のシーンで、いつものようにTVを見ている父の隣りに初めて座り、ビールを手渡すのがまたいい。何も言わず、手を少し握るのも、精一杯のごめんなさいとありがとうなのだろう。

フレディが幼馴染みのジュリーに、「君のお母さんがお父さんにお茶を出しても、お父さんは“ありがとう”も言わなくて、お母さんはとても悲しそうだった。マイク(会社の先輩。ジュリーの婚約者)もお父さんと同じようになって、君が悲しい想いをすることになる」と言うシーン。そこではジュリーはフレディのことをはねのけていた。話を聞いていた母親に何を言われても聞く耳を持っていなかったけれど、部屋を出る母親が「そうそう、あの人が最後に“ありがとう”って言ってくれたのは1964年よ」(映画の設定は1973年)と言うのも、その一言にすべてが詰め込まれている気がして泣けた。
今まで言っていなかったけれど、憶えているということはそのことをずっと気にしていたということだし、今でも気にしているということだ。そして、それを娘に告げたということは、暗に「私のようにはならないで」と言っているのだ。
その後で、母と娘でお茶を出してみる実験をして、実際にマイクからも“ありがとう”という言葉が聞けないのを確かめて、ジュリーはフレディの元へ行くために家を出た。

ちなみに、会社の先輩で婚約者役がマシュー・グード、上司がレイフ・ファインズと豪華なキャスト。

自分を好いてくれる女の子がいるから町に残るポール、父のそばにいたいブルース、町を出るフレディとジュリー。楽しく遊んでいただけの青春時代の終わりと大人への第一歩。町に必要なものがある者は残り、外の世界に出て行きたい者は旅立つ。それぞれが最良の選択をしたと思う。
日本語字幕が付いていない映画やドラマに、英語字幕で何作かチャレンジしてみましたが、今回が一番わかりやすかった。『The Office』や『エキストラ』のようなスラングみたいなのもないし、あったとしても、TVの内容などを家族でべらべら喋っているシーンで、物語の大筋にはあまり関わって来ない。また、殺人事件や謎解きなどがあると、真相究明の場面で大体わからなくなるのですが、今作は日常ものなので、それほど複雑な現象は起きない。そっくりそのまま同じではないのは当たり前だけれど、映画の中で彼らが体験すること/思うことは、かつての私が経験したこと、今の私が経験することなので、気持ちが伝わってくる。そこに原語や国は関係ない。普遍的な出来事が描かれている。
ただ、コメディーではないとしても、必ずしも人生順調とは言えない人々の悲喜こもごもといった点では、二作のドラマと描かれていることは一緒なのだと思う。
時に厳しく、でも最後には優しく寄り添う姿勢に泣けてしまう。





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