『スモールアイランド』


2009年、BBC製作のテレビドラマ。93分ずつの前後編。
ベネディクト・カンバーバッチ特集として放映されていたけれど、ベネティクト・カンバーバッチの出番はそれほど多くありません。でも、ナオミ・ハリスやデヴィッド・オイェロウォなど、映画で活躍している俳優さんが出演している。
マイケルを演じたアシュリー・ウォルターズは『Tu£sday(邦題:バンクジャック 襲撃の火曜日)』で、ジョン・シムと共演していた。

どこか因縁めいた群像劇のような作品だったので、主役を一人には決めづらいけれど、一番中心となっているクイーニーを演じているのはルース・ウィルソン。あまり名前は聞いた事がなかったのですが、『ウォルト・ディズニーの約束』のお母さん役の方だった。2007年のドラマ版『ジェーン・エア』のジェーン・エア役や、『ローン・レンジャー』にも出演していた。

元々小説があって、それを原作としたドラマらしい。
舞台は1940年代のロンドン。クイーニーの夫のバーナード(ベネディクト・カンバーバッチ)は戦争に行って帰って来ない。クイーニーは義父と暮らす家を下宿としてあけていて、そこにジャマイカからイギリスの空軍に入ったマイケル(アシュリー・ウォルターズ)がやってくる。マイケルにひかれたクイーニーは関係を持ってしまう。

空襲が激しくなり、クイーニーは義父と一緒にヨークシャーへ疎開する。そこでマイケルに似たギルバート(デヴィッド・オイェロウォ)に会う。二人は親しくなるが、ギルバートが人種差別により攻撃された時に、義父が巻き添えになり、殺されてしまう。

戦争後、ギルバートはジャマイカに戻るが、仕事を求めて再びイギリスに行きたいと願う。恋人に一緒に行くのを誘うが、彼女には病気の母親がいた。
彼女の友人、ホーテンス(ナオミ・ハリス)は、元々マイケルと一緒にイギリスに行く事を夢見ていたが、戦争から帰って来ないため、せめてイギリスに行く夢だけでも叶えたいと思い、ギルバートと結婚をすることを望む。

ここまでが前半で、人物関係が少し複雑。ホーテンスとクイーニーは二人ともマイケルのことが好きなんですが、お互いのことは知らない。クイーニーには夫がいるけれど、生きているか死んでいるか、戻ってくるかわからない。また、クイーニーとマイケルは人種の問題もある。
時代が時代なだけに、二人が歩いているだけで悪い事を言われる。後半でも、イギリスに来たギルバートとホーテンスが仕事の面で苦労をしていた。
「こちらが母国を思っていても、母国は知らん顔だ」というイギリス批判が印象的だった。人種差別というとアメリカの映画やドラマのイメージだったけれど、イギリスでもこんなことがあったのだ。憧れの地と思って渡って来た移民の方々はさぞショックだったろう。このドラマでも、特にホーテンスが国に失望していく様子は悲しかった。

後半、イギリスに来たギルバートとホーテンスはクイーニーの下宿で暮らす事になる。最初はホーテンスもギルバートをイギリスに来るために利用して、政略的に結婚しただけだったけれど、仕事面などで白人のイギリス人から迫害されるうち、ギルバートの優しさに気づいていく。
そんな中、戦争から突然夫のバーナードが帰ってくる。クイーニーにとってはもう忘れた人だし、おなかにはマイケルとの間の子供がいた。バーナードは帰還兵特有のPTSD気味になっていて、かわいそうといえばかわいそうである。家に下宿している二人も追い出そうとしていた。他の白人イギリス人がそうであるように、彼も人種差別主義者だった。

クイーニーに赤ちゃんが産まれ、妊娠していることすら知らなかったバーナードはその肌の色を見て驚く。それでも、「君の子だから育てたい」と言っていたが、クイーニーは世間の状況や夫の子ではないことが見た目でもわかってしまうことなどを鑑みて、苦渋の決断をして、子供をギルバートとホーテンスに渡し、育ててもらう事にする。

戦争や人種差別など、その時代ならではの事象が反映されて、より重厚で複雑な人間ドラマになっていた。ただ単に、あなたが好きというだけでは済まされない。

最後、ナレーターがマイケルであることが明らかになり、マイケルの元にクイーニーの子供が渡っていたようだけれど、わかりづらかった。マイケルはクイーニーとの間に子供ができたことを知らないまま、カナダへと行ってしまったようだった。
それでも、ギルバートとホーテンスとは知り合いだし、クイーニーの写真もあったから、マイケルが気づいたのだろうか。その上で、マイケルはクイーニーにはもう連絡はとらなかったのだろう。
カナダに行くときにマイケルが誘うか、クイーニーが私も連れて行ってと言うかすればうまくいったのかもしれない。けれど、マイケルの性格的に一人で行きたそうだったし、クイーニーも故郷と家を捨てるのに躊躇したのだろう。おそらく、バーナードのことも気にはかかっていたのだろうし。そう思うと、どうしたってうまくはいかなかったのかもしれない。

ベネディクト・カンバーバッチは、もしかしたら『つぐない』以来の酷い男の役だったりするのかとも思った。明らかに自分の子ではない赤ちゃんに手を触れた時に、精神的に不安定なようだったので、どうにかするのではないかと思ってしまったけれど、優しくさみしそうに笑っただけだった。帰って来られなかった理由も、一度の過ちで梅毒をうつされたと恥じただけだった。結局は弱くて、優しい男だった。


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