Feb 25
クリント・イーストウッド監督作品。実在の伝説的な狙撃手を描く実話。どの程度実話なのかわからなかったんですが、ご本人の回顧録を原作にしているので、おそらくほとんど実話なのだと思う。
以下、ネタバレです。
4回のイラクへの派遣と戦闘の様子が映画の中心になっていながらも、その合間の日常に帰って来た時の様子も描かれている。
狙撃兵のクリス・カイルは伝説とか英雄などと呼ばれていて、腕は確かなこともあるのかもしれないが、次第に日常との齟齬を感じているように見え、戦闘地域のほうが生き生きとしていたようだった。また、友人や他の兵士を自分が救わなくては、という使命感にも燃えていたようだった。
兵士がむしろ戦争にひかれてしまう様子は少し前だと『ハート・ロッカー』でも描かれていた。あの映画も優秀な爆弾処理班の班長が主人公で、スーパーマーケットのシリアル売り場で呆然とするシーンが印象的だった。
映画は主人公が戦場へ戻っていくシーンで終わる。俺の生きる場所はここだとでもいうべき背中が印象的だった。流れるミニストリーも合っていた。
『アメリカン・スナイパー』では、クリス・カイルの弟も戦地へかり出されている。ちゃんとは描かれないけれど、小さい頃に弱虫だったことから考えてもあまり戦闘が得意ではないはずだ。彼は戦争なんてくそくらえというようなことを言っていたし、正常な立場の人間として描かれていたのだと思う。やはり、戦場に惹かれてしまうというのは間違っている、“戦争は麻薬である”といっても断ち切らなければならないという監督からのメッセージにも思えた。
『ハート・ロッカー』は戦争に向かうシーンで終わるので、映画を観終わっても自分もなかなか日常へ帰って来られなかった。
『アメリカン・スナイパー』での戦闘シーンでは臨場感のある突入シーンも多くて、キャスリン・ビグロー作品ばかりですが、『ゼロ・ダーク・サーティ』の最後の突入シーンも思い出した。あの映画も観終わっても、なかなか感覚が戻って来ないようだった。
しかし、『アメリカン・スナイパー』では観終わってもふわふわした感じにならなかったのは、クリス・カイルがちゃんと戦争から帰って来たからだと思う。もう戦争は嫌だという気持ちになり、妻子と一緒の日常生活の中へ戻って来たシーンもわりと長めに入っていた。
戦闘はリアリティのあるものだったけれど、後半は少しドラマティックというかお話っぽく、エンターテイメント寄りになっていた。友人の敵討ちをするシーンでは遠く離れた相手に弾が当たるか当たらないかというところでスローになったり、撤退シーンで砂嵐が来たり。砂嵐のせいで画面がよく見えず、撤退できたのかできてないのかがわからなくてハラハラした。
実話なのでネタバレも何もないんですが、ABCニュースやCNNだと行われていた裁判の模様も流していて、せっかく映画を観るし結果を知りたくなかったので、この話題が始まったらTVを消すようにしていた。
ただ、裁判はどうやら妻がおこしたものだということと、クリス・カイル自身は出ていなかったので、死んでしまったか逮捕されているかどちらかだとは思っていた。戦地で亡くなったか、帰って来てもPTSDで自殺をしてしまったか、PTSDで不安定になり誰かを殺してしまったか。
結局は逆で、PTSDの退役軍人に射殺されてしまうという一番やりきれない結果になってしまった。戦場から戻って来た兵士の多数がPTSDになってしまうというが、クリス・カイルも映画を観る限りだと少し正常ではなくなっていた部分もあったようだった。でも、そこから回復していたのに。そして、同じ退役軍人の助けをしていたというのは、精神力の強さがうかがえるし、尊敬すらしてしまう。
もちろん、撃った犯人が悪いことには違いない。ただ、戦争に行ってなかったらどうなっていただろうと考えると、本当にやりきれない気持ちになる。
ちょうど映画を観た日に、終身刑の判決が出た。陪審員7人中3人は死刑でもいいのではないかと言っていた。アメリカではこの映画が裁判の行方に影響を与えたのではとの意見もあるらしい。
私はこの事件を知らなかったけれど、たぶん、アメリカでは相当有名な事件だったはずで、アメリカの人たちは結果を知った上で観ていたのだと思う。
射殺されてしまう日が描かれる時、スクリーンに日付のテロップが出るため、知っていたらここでまず気づくのだろう。
そしてクリス・カイルが兵士と射撃場に出かけるシーンまでしか映画では描かれない。その後、画面が暗転して、文字のみで射殺の事実が知らされるだけだったのがより衝撃的だった。
撃たれるシーンを入れないのは、みんな知っていることだろうし、英雄が殺される姿をわざわざラストに入れることはないということかと思ったが、お子さんに配慮してのことらしい。また、事件が起きたのが2013年2月と最近なので、詳しいこともわからなかったのではないかと思う。
亡くなる前に映画化の話が出ていたというのも更にやりきれない。
映画ではそのあと、追悼パレードの様子がおそらく実際の映像で流される。彼がいかに愛されていたかがよくわかった。
そして、そのあとのエンドロールが無音というのもまた、どうしてこうなってしまったのだろうと考える時間を与えてもらったようにも思えた。
クリス・カイルを演じたのはブラッドリー・クーパー。鍛えたせいなのか首がだいぶ太くなり、顔も太って見えた。軍人の体を作ったのだろう。いつものイケメンとは少し違っていた。
クリス・カイルの妻、タヤを演じたのはシエナ・ミラーなんですが、実際のタヤさんのアカデミー賞参列時のドレス姿が女優さんかと思うくらい綺麗だったのも印象的。
あと、エンドロールを見ていたら、TAYA'S THEMAという曲があって、作ったのがクリント・イーストウッド監督だったようです。
予告で、「間違えたらコトだぞ」というセリフがあって、字幕が戸田奈津子さんでは?と話題になっていたけれど、本編だと「間違えたら軍刑務所行きだぞ」になっていた。字幕は松浦美奈さんでした。予告編だと字幕の文字数制限がより厳しくなるんだろうか。
あと、予告の緊迫した場面が本当に序盤にでてきたのはびっくりした。クライマックスにも見えるけれど、最初の射撃のシーンだった。最初からクライマックスである。
『アメリカン・スナイパー』
Posted by asuka at 2:39 AM
クリント・イーストウッド監督作品。実在の伝説的な狙撃手を描く実話。どの程度実話なのかわからなかったんですが、ご本人の回顧録を原作にしているので、おそらくほとんど実話なのだと思う。
以下、ネタバレです。
4回のイラクへの派遣と戦闘の様子が映画の中心になっていながらも、その合間の日常に帰って来た時の様子も描かれている。
狙撃兵のクリス・カイルは伝説とか英雄などと呼ばれていて、腕は確かなこともあるのかもしれないが、次第に日常との齟齬を感じているように見え、戦闘地域のほうが生き生きとしていたようだった。また、友人や他の兵士を自分が救わなくては、という使命感にも燃えていたようだった。
兵士がむしろ戦争にひかれてしまう様子は少し前だと『ハート・ロッカー』でも描かれていた。あの映画も優秀な爆弾処理班の班長が主人公で、スーパーマーケットのシリアル売り場で呆然とするシーンが印象的だった。
映画は主人公が戦場へ戻っていくシーンで終わる。俺の生きる場所はここだとでもいうべき背中が印象的だった。流れるミニストリーも合っていた。
『アメリカン・スナイパー』では、クリス・カイルの弟も戦地へかり出されている。ちゃんとは描かれないけれど、小さい頃に弱虫だったことから考えてもあまり戦闘が得意ではないはずだ。彼は戦争なんてくそくらえというようなことを言っていたし、正常な立場の人間として描かれていたのだと思う。やはり、戦場に惹かれてしまうというのは間違っている、“戦争は麻薬である”といっても断ち切らなければならないという監督からのメッセージにも思えた。
『ハート・ロッカー』は戦争に向かうシーンで終わるので、映画を観終わっても自分もなかなか日常へ帰って来られなかった。
『アメリカン・スナイパー』での戦闘シーンでは臨場感のある突入シーンも多くて、キャスリン・ビグロー作品ばかりですが、『ゼロ・ダーク・サーティ』の最後の突入シーンも思い出した。あの映画も観終わっても、なかなか感覚が戻って来ないようだった。
しかし、『アメリカン・スナイパー』では観終わってもふわふわした感じにならなかったのは、クリス・カイルがちゃんと戦争から帰って来たからだと思う。もう戦争は嫌だという気持ちになり、妻子と一緒の日常生活の中へ戻って来たシーンもわりと長めに入っていた。
戦闘はリアリティのあるものだったけれど、後半は少しドラマティックというかお話っぽく、エンターテイメント寄りになっていた。友人の敵討ちをするシーンでは遠く離れた相手に弾が当たるか当たらないかというところでスローになったり、撤退シーンで砂嵐が来たり。砂嵐のせいで画面がよく見えず、撤退できたのかできてないのかがわからなくてハラハラした。
実話なのでネタバレも何もないんですが、ABCニュースやCNNだと行われていた裁判の模様も流していて、せっかく映画を観るし結果を知りたくなかったので、この話題が始まったらTVを消すようにしていた。
ただ、裁判はどうやら妻がおこしたものだということと、クリス・カイル自身は出ていなかったので、死んでしまったか逮捕されているかどちらかだとは思っていた。戦地で亡くなったか、帰って来てもPTSDで自殺をしてしまったか、PTSDで不安定になり誰かを殺してしまったか。
結局は逆で、PTSDの退役軍人に射殺されてしまうという一番やりきれない結果になってしまった。戦場から戻って来た兵士の多数がPTSDになってしまうというが、クリス・カイルも映画を観る限りだと少し正常ではなくなっていた部分もあったようだった。でも、そこから回復していたのに。そして、同じ退役軍人の助けをしていたというのは、精神力の強さがうかがえるし、尊敬すらしてしまう。
もちろん、撃った犯人が悪いことには違いない。ただ、戦争に行ってなかったらどうなっていただろうと考えると、本当にやりきれない気持ちになる。
ちょうど映画を観た日に、終身刑の判決が出た。陪審員7人中3人は死刑でもいいのではないかと言っていた。アメリカではこの映画が裁判の行方に影響を与えたのではとの意見もあるらしい。
私はこの事件を知らなかったけれど、たぶん、アメリカでは相当有名な事件だったはずで、アメリカの人たちは結果を知った上で観ていたのだと思う。
射殺されてしまう日が描かれる時、スクリーンに日付のテロップが出るため、知っていたらここでまず気づくのだろう。
そしてクリス・カイルが兵士と射撃場に出かけるシーンまでしか映画では描かれない。その後、画面が暗転して、文字のみで射殺の事実が知らされるだけだったのがより衝撃的だった。
撃たれるシーンを入れないのは、みんな知っていることだろうし、英雄が殺される姿をわざわざラストに入れることはないということかと思ったが、お子さんに配慮してのことらしい。また、事件が起きたのが2013年2月と最近なので、詳しいこともわからなかったのではないかと思う。
亡くなる前に映画化の話が出ていたというのも更にやりきれない。
映画ではそのあと、追悼パレードの様子がおそらく実際の映像で流される。彼がいかに愛されていたかがよくわかった。
そして、そのあとのエンドロールが無音というのもまた、どうしてこうなってしまったのだろうと考える時間を与えてもらったようにも思えた。
クリス・カイルを演じたのはブラッドリー・クーパー。鍛えたせいなのか首がだいぶ太くなり、顔も太って見えた。軍人の体を作ったのだろう。いつものイケメンとは少し違っていた。
クリス・カイルの妻、タヤを演じたのはシエナ・ミラーなんですが、実際のタヤさんのアカデミー賞参列時のドレス姿が女優さんかと思うくらい綺麗だったのも印象的。
あと、エンドロールを見ていたら、TAYA'S THEMAという曲があって、作ったのがクリント・イーストウッド監督だったようです。
予告で、「間違えたらコトだぞ」というセリフがあって、字幕が戸田奈津子さんでは?と話題になっていたけれど、本編だと「間違えたら軍刑務所行きだぞ」になっていた。字幕は松浦美奈さんでした。予告編だと字幕の文字数制限がより厳しくなるんだろうか。
あと、予告の緊迫した場面が本当に序盤にでてきたのはびっくりした。クライマックスにも見えるけれど、最初の射撃のシーンだった。最初からクライマックスである。
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