『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』


ベネディクト・カンバーバッチ主演。アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされていました。
他にも、美術賞や作曲賞など、8部門ノミネート。脚色賞を受賞したグレアム・ムーアのスピーチも話題になった。

以下、ネタバレです。






これも実話なので、ネタバレも何もない。ただ、予告編を観た時に、タイトルの“秘密”が示しているのが、この映画の主役のアラン・チューリングが同性愛者であるという事実だったら嫌だなと思った。
結果的には、それも含まれつつ、暗号機エニグマの解読後も解読ができたことや、ソ連のスパイが誰か知ってしまったことなど、いろいろな秘密が出てきたので複合的な意味だとも思う。
でも、邦題のサブタイトルの通り、“天才数学者の秘密”としてしまうと、同性愛者のことしか指していないようになってしまう。
『シェフ』もそうでしたが、おそらく検索しやすいようにだと思うけれど、サブタイトルで首をひねってしまった。
また、同性愛者であるということは知っていたので、それが最後にバーンと明かされて驚愕のまま終わるみたいな展開だったら嫌だと思っていたけれど、ほぼ序盤で明かされたので良かった。

実話でシリアスなものだし、アラン・チューリングは過酷な運命を歩んで来ているけれど、決して映画が真面目で説教臭いものになっていないのがいい。
暗号解読にいたるまでも、ミステリー仕立てになっているのも良かった。また、コミカルなシーンもあるし、ドラマティックに切なく仕上げられている。

おそらく、脚色賞を受賞した小説家グレアム・ムーアの脚本がいいのだと思う。
彼のアカデミー賞でのスピーチも良かった。

“自分は変わり者で居場所が無いと感じている若者たちへ。あなたたちには居場所があります。だから、そのままで大丈夫。いつか輝く時が来る”

彼自身もオープンリーゲイだそうで、16才のときに自殺未遂をしたらしい。だから、自分と重ねているところもあると思うし、彼が壇上でこのスピーチをしたことで、勇気をもらった人も多いはずだ。

このスピーチが素晴らしすぎて、映画中に何度も思い出してしまった。映画で述べられているテーマはまさにこのことなのだ。
変わっているからといって、自分を卑下することはない。そして、みんなに合わせようとしなくてもいい。あなたにだけできることが必ずある。

アラン・チューリングを演じたベネディクト・カンバーバッチの演技は良かったけれど、彼を追いすぎるあまり、ベネディクト・カンバーバッチアイドル映画のようにもなっていた。いろいろなベネディクト・カンバーバッチが見られる。アップも多かったと思う。彼の良いところとか魅力を余すところ無く伝えようとしているのがわかった。
おそらく、現時点での代表作になると思う。

言われた事をそのまま受け取って、周囲を呆れさせるような返しをしてしまう素っ頓狂な様子。興奮して吃りながら矢継ぎ早に話す様子。警察の取調室での表情は、感情をすべて殺しているようで、無表情、目は青いビー玉のようだった。でも、個人的にはこのシーンのベネディクト・カンバーバッチが一番好きでした。そして、薬物治療により、やつれてしまった様子…。家に置いてあるコンピュータを過去に好きだった人と同じクリストファーと名付け、まるで人のように扱っている様が切なかった。

映画内では、アラン・チューリングが学生時代のエピソードも出て来るのだが、演じている役者さんは違っても、同じ人物なのだというのが伝わって来たのだ。違う人が演じていると、同じ人間としては見られないこともある。しかし、この映画の場合、部屋のクリストファーと離れたくないと悲痛な声をあげて泣く終盤のシーンで、彼は学生の頃から気持ちは変わっていない、一人の人間なのだというのが伝わって来た。
映画内で観た、学校でいじめられたシーンやクリストファーが助けてくれたシーン、暗号解読などで親交を深めたシーンなどが一気に思い出された。それが積み重なって、エニグマを解読したアラン・チューリングになったのだ。一人の人間の一生。
学生時代を演じたわけでもないのに過去すら感じさせるのは、やはりベネディクト・カンバーバッチの演技がうまいということなのだろうと思う。

ジョーン・クラークを演じたキーラ・ナイトレイも良かった。部屋で「あなたがいたおかげで世界は少し素晴らしくなった」と伝える場面も良かったのだが、クロスワードパズルが得意な女性というのが良かった。暗号解読チームに抜擢されるくらいなので、ずば抜けて得意なのだ。ジョーン・クラークも女性としては変わっているのだと思う。
アラン・チューリングが彼女の指導役みたいな感じになっていたけれど、おそらく、自分の姿を見るようにして指導していたのではないか。

暗号解読チームでは他に、すごく見たことがあるけど誰だかわからなかったのが、アレン・リーチ、ダウントン・アビーの運転手ブランソンだった。少し太ってました。
あと、マシュー・グードは相変わらず厭味なインテリが良く似合う。ハンサムで顔が小さく、姿勢がいいからだろうか。
癖のある上司役にマーク・ストロング。彼も相変わらずだけど、声が素敵。電話をするシーンがあるけれど、彼の声を耳許で聞いてみたい。それほど出番は多くはないけれど、存在感は抜群だった。

アカデミー賞美術賞にもノミネートされていたけれど、エニグマを解読する機械が恰好良かった。暗号のパターンをためすために、ダイヤルが一斉にまわる様子が美しい。実際の機械をかなり忠実に再現しているとのこと。

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