『グランドピアノ 狙われた黒鍵』


2014年公開。スペインでは2013年公開。
イライジャ・ウッド主演なのでアメリカ映画だと思っていたけれど、スペインのエウヘニオ・ミラ監督作品。

映画は、ほとんど一つの演奏会が舞台になっていて、作りがおもしろい。おそらく低予算映画だと思うんですが、これもアイディアだと思う。そして、ほぼノンストップで進んでいくので緊張感が持続する。

最初は久しぶりの演奏会という緊張感だけだった。しかし、ステージが始まると、何者からか脅迫されながらの演奏となって、さらに緊張感が増す。
何者なのか、その目的は…などの謎解きも加わっていく。

ただ、演奏者本人が脅迫されながら謎解きをしていくので、どうしても、一人だけがせわしなくなってしまう。
不安そうな顔をするのはもちろん、きょろきょろしたり、影でメールを打ったり、自分の出番ではないときに立ち上がってステージから立ったりする。

明らかに不審だし、客席も気づくだろうし、何より同じステージにいる指揮者やオーケストラの人たちは普通に演奏を続けているのが不自然に見えた。

後半、アンコールのときに、客席にいる自分の妻に歌わせて、自分はステージから離脱し、犯人を追いかけ、結局ステージ上部から落下してくるというシーンがあった。思わず笑ってしまったんですが、会場のお客さんたちは騒然、急いで逃げ出していた。

確かに、私もその場にいたらそういう行動をとると思うのだ。
では、なぜ爆笑してしまったのだろう。どうも途中から、あんまりシリアスに見る事ができていなかったのだと思う。

今から思えば、他の人たちは平然としている中で、主人公一人だけあわあわしている様子もコントでよく見る風景に似ている。
人も殺されるけれど、凄惨なシーンをわざと避けるようにして撮られている。首を切るシーンが、コントラバスの弦を引くシーンに入れ替わったり、死体が出てきても血塗れとか目を背けたくなるようなショッキングなものではなかった。だから、映画内で思っている事の重大さが実感出来なかったのかもしれない。
ちなみに殺される主人公の友達役にアレン・リーチ。『ダウントン・アビー』の運転手ブランソンですね。『イミテーション・ゲーム』に続きここにも出ていた。彼は三枚目役をよくやっている俳優さんなのかもしれない。

彼の行動も常軌を逸していた。ステージ上で演奏している主人公から携帯に電話が入り、おなしいなステージ中なのに、と思いながらかけ直していた。ここまではわかるけれど、そこで主人公が出た時に、普通に話を続けようとしていた。ステージ上で演奏している人と、携帯で話そうとしていた。

演奏会が続いているという手法はおもしろいものの、ところどころで普通はそんな行動をとらないのではというのが出てきてしまい、うまく入り込めず、一歩引いたところから観賞していた。

難曲の最後のフレーズを間違えずに弾くと、それがキーになってピアノの中に隠されたスイス銀行の鍵が取り出せる、という仕掛けもオートマタのようでおもしろかった。まったく悪くはなかったけれど、何かが少し足りないと思ってしまった。

映画内で出てくる難曲“ラ・シンケッテ”は、ピアノをやっている人なら知っている幻の曲だったりするのかと思っていたけれど、監督のエウヘニオ・ミラが作曲したらしい。多才である。


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