ショートショート フィルムフェスティバル 2015 ケベック特集
Posted by asuka at 5:19 PM
ケベック特集は今年から登場とのこと。このイベントとカナダのサグネ国際短編映画祭が提携して実現したらしい。
サグネ国際短編映画祭からMarie-Élaine Riouさんがゲストでいらしていて、上映前にトークの時間があった。
サグネ国際短編映画祭は今年で20回目だそうで、モントリオールから5、6時間くらいかかる場所で行われているけれど、この映画祭の期間の3月には大変な賑わいを見せるらしい。ほぼケベックの作品で占められているとか。
UK特集と同じ日に見ましたが、比べてみると、少し難解な作品が多いように思われた。セレクションにもよるかもしれないけれど。
以下、全作品について、ネタバレなど含みます。
『PAS/ステップ』
最初にピナ・バウシュの“話すのが怖いから私は踊る”といった意味の言葉が引用される。
その通り、会話はなく、ダンスによって人と人が触れ合い、次第に心を開いていく。
屈強な警官や、路上生活者が、急にちゃんとしたダンスをし始めて、さっきまでのは演技だったのか!と思った。
公園で滑り台などを使いながら友達と踊る女の子。車に大人数の若い女性が乗っていて、パトカーにつかまり、路上でのダンス。路上生活者に手を差し伸べて、そこからの二人の色っぽさすら感じるダンス。その三つが交互に出てくる。
会話はなくても、感情が伝わって来るようだった。
そして、エンドロールでは、横断歩道を渡っていたおばあさんが傘を持ったまま踊りだし、最初は車に乗っていた人もいらいらしていたけれど、降りてきて一緒に踊ったりとハッピーな映像が流れた。
あとで解説を見たら、“ローズは生涯をかけてダンスで周囲とコミュニケーションを図ろうとする”と書いてあった。じゃあ、すべてローズだったのか。
そこまで読み取れなかったが、最後には横断歩道でパーティーが始まるほどなので、ハッピーエンドで良かった。
『Miroirs d'été/鏡』
グザヴィエ・ドラン主演。2006年の作品。今回はこちらの監督のEtienne Desrosiersさんもゲストで来ていた。
90ページくらいのベトナムの短編小説を原作にしているらしい。ケベック州に資金援助をしてもらい、撮影期間は2日間。スタッフやキャストにも恵まれ、撮影監督も有名な方らしい。
グザヴィエ・ドランはオーディションをして、70人くらいの中から選ばれた。子役で7、8歳くらいからドラマに出ていたのでその時にはまあまあ有名だったとのこと。
撮影時15歳だったが、それくらいの年齢の男の子はふらふらしているがそんなところがなく、仕事に対してプロ意識を持っていた。監督曰く、「彼はギリシャ系だからじゃないかな」とのこと。
この映画の紹介の写真では、二人の男の子が裸で寝ているものが使われていたが、それはただ、兄弟と寝ているだけで、何か直接的なことは起こるわけではない。
家族でコテージに休暇をとりに来ていても、あまり楽しいことも起こらなくて常に表情は暗い。両親のセックスを目撃したり、弟と喧嘩したり。友達も彼女と遊んでいて、そこに加えようとするが、彼は断る。
何かを求めながら眉間に皺を寄せつつ一人で散歩をする。
あれは親戚なのか、知り合いなのか、家族ぐるみで付き合いのある家の息子と追いかけっこのようなことをしたシーンだけ、心からの笑顔を見ることができた。体の下でカンカン帽がぺちゃんこになっても気にしないくらい夢中になっていた。
木漏れ日などの光や、水など、風景とともに、グザヴィエ・ドランの瑞々しい姿がしっかりと閉じ込められている。比べてみると、15歳のドランはだいぶふわふわとしていて、今のほうがもっと目つきなどがソリッドな印象。過去の姿が映像に残っているのは貴重だと思う。
『Del Ciego Desert/盲目の砂漠で』
これ、コメディだとは思うんですが、不謹慎すぎて笑っていいのかどうか迷った。
タイトルでは盲目になっているけれど、盲目ではなくて斜視です。しかも両目の斜視で、西部劇風に砂漠で二人の男が向かい合っているけれど、片方が両目外斜視、片方が両目内斜視のため、狙いが定まらない。
この決闘が起こることになったきっかけが過去の映像として決闘の合間に流れる。外斜視の人は一家全員外斜視、内斜視の人もまた然り。お互いの一家は隣りに住んでいるけれど、争いが絶えない。そんな中、娘と息子が許されない恋に落ちてしまう。
お互いの家族はカンカンで、家に火をつけたり、爆破したりと過激な手段に出る。死者すら出る始末で、その仇討ちとしての決闘だったのだ。
一方、産まれた子供は斜視ではなかった。
結局、決闘では一発も当たらないまま弾切れになり、はずれた弾に驚いた馬も逃げてしまったため、二人はそのまま、砂漠の真ん中で朽ち果てる。
数年後に白骨化した姿で発見され、あの時に産まれた子供が大きくなって騒動で生き残ったおばあさんと一緒に砂漠を訪れる。
「これはあなたのおじいちゃんたちよ。お互いの見え方が違ったから許せなかったの」とおばあさんが言うと、子供は朽ち果てた骨の目元の砂を払う。「こうなってしまえば同じなのにね」
不謹慎ギャグをやっておきながら、最後にはドキッとさせられた。哲学的な締め方だった。
『Les journaux de Lipsett/アーサー・リプセットの日記』
60年代に活躍した実験映画の巨匠アーサー・リプセットの最期の日々を綴った日記をアニメーション映像化した作品。49歳で自殺されているらしい。
アニメーションとはいっても、セピア色調で、鉛筆でささっと描いたものが動いているといった感じ。また、実際には日記は存在せず、創作らしい。
アーサー・リプセット自体がケベック出身だということで、ナレーションはグザヴィエ・ドラン。
アーサー・リプセットが母に捨てられたくだりを、母に執着しているドランが読むのはどきどきした。
『Y2O/Y2O』
水の中にいる二人の男女の映像。水の中なのでセリフは一切無い。口からは空気が漏れることはあっても。
水中での洋服の布や髪の毛の動きは綺麗だし、重力がある状態とは違って予測がつかないのでおもしろい。
CMやミュージックビデオのように、映像を観賞するものだと思っていたけれど、これも、解説を読むとちゃんとした意味もあるようだった。男女の内面の感情の衝突などを表していたらしい。
『Jeu d'enfant/子供の遊び』
何の事情があったのかは説明されないけれど、父と娘姉妹二人の父子家庭。父親は林業をしていて、娘の姉の方に跡を継いでもらいたいので仕事へ連れて行く。幼い女の子は当然林業に興味は持てない。
女の子は自宅から少し離れた家に忍び込む。自宅では朝食のシリアルすら充分に用意されていなかったけれど、その家ではお菓子が置いてあって、冷蔵庫の炭酸飲料とともにむしゃむしゃ食べて、テレビを見て、家の人が帰って来ない隙に、好き放題遊ぶ。
やがて遊び疲れて寝てしまい、外は真っ暗。家の人が帰って来る気配を感じて外へ飛び出す。
外は真っ暗で、森を抜けるのには苦労する。何か動物の遠吠えのようなものも聞こえて来る。おまけに、雪も積もっている。
この雪の積もった夜の森というのがカナダ特有の風景なのだろうなと思った。行きは辿り着いたのだから、家にもすぐに帰れるはずだ。けれど、夜の森は行く手を阻み、懐中電灯の電池も切れてしまう。
途中で転び、気力も尽き果てて、その場に倒れ込んでしまう。
朝になって、父親が助けに来る。
多分、長女は妹に比べて自分は嫌われているのではないかと考えてもいたのではないか。でも、ちゃんと助けに来てくれたことで、愛情の確認が出来たのだと思う。
『Toutes des connes/人生はサイアクだ』
英語でのタイトルは『Life's a bitch』。
一人の男性が彼女に振られるところから始まる。そこからの冴えない日常。ショックを受けて落ちこんで、泡風呂に入って、クラブに行ってナンパし、また振られてお別れ…。
まるでルーチンワークのように、細かいシーンがパッパパッパと移り変わり繰り返される。
そうだ、体を鍛えようと思い、公園を走って、自宅で宅配ピザを注文し、走って、チキンを注文し、走って、中華を注文する。本当に駄目な、でも思わずにっこりとしてしまう、そしてありふれた日常。
細かいシーンの積み重ねで進んでいき、とにかくテンポがいい。95シーンが5分強の中にまるでパッチワークのようにおさめられている。
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