『スーパー!』



2011年公開。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督。

日本では『キック・アス』の半年後くらいに公開された本作ですが、なんとなく似たような作品なのかと思っていた。私生活では冴えない男が自分を変えるために自警団じみたヒーローになるといった感じに。ざっくりとした、大筋はその通りなのだけれど、途中から進む方向が変わり、ラストも違う。
元も子もないことを書いてしまえば、『キック・アス』と同じで良かったのに…と思ってしまった。

オープニングはあまりうまいとは言えないイラストのアニメで、でも、悪役もヒーローも動物もみんな揃って楽しそうにしていて、なるほど、ギャグ混じりのこのノリかと思った。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』同様、マイケル・ルーカーとジェームズ・ガンの兄、ショーン・ガンが出てくる。この二人は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではラヴェジャーズという主人公たちを襲いながらも、悪役ポジションではないところに位置するグループに属していた。邪魔されても、憎めない。
今回も二人は同じ“悪役”グループに属していて、今回もきっと、この二人は憎みきれない役柄なのだろうと思い込んでいた。リーダーもケヴィン・ベーコンである。
けれど、オチも何もなく、本当に悪いやつらだった。

序盤で主人公がヒーローになれという天命を受けるシーンがあるんですが、主人公の頭がぱっくり割れて、脳がむき出しになり、そこに触手みたいなのが直接何かを塗りこむという、グロテスクな映像だった。作り物感バリバリだし、イメージ映像としてはこのようなものを挟むのはB級っぽくていいかなとも思ったけれど、この先の主人公が攻撃するシーンなどももれなくグロテスクだった。

ヒーローとは言っても、自作のスーツ(縫い目がものすごく雑なのは笑った)を着ただけで、特殊能力を手に入れたわけではない。だから、武器(=レンチ)を手にして悪人をめった打ちにする。血が吹き飛ぶ。
ニュースでは主人公のほうが犯罪者扱いにされていて、このジレンマはおもしろいと思った。

また、アメコミショップの店員の女の子が、ヒーローの相棒をやろうとするのもおもしろい。アメコミショップで働いてるから、オタクというかアメコミヒーローに詳しくて、主人公の行為もかっこいいと思うし、バットマンにはロビンだろ、と相棒の存在も必須だと思っている。
この子がエレン・ペイジなんですが、自作のスーツに身を包んだ時の自慢げなセクシーポーズがとても可愛い。
主人公はあんまり歓迎していない様子だったけれど、いいコンビに思えた。

それで、二人は悪人のアジトに乗り込む。もうここから先は、ファンタジーにしてくれて良かったのに。
特殊能力を持っていない二人が悪人のアジトに乗り込んだらどうなるか。危険に決まっている。そして、死人も出る。
憎めない悪人だと思っていた二人は、むごたらしい方法で殺される。主人公の相棒ボルティは顔を半分破壊されて殺される。
主人公たちは死なないなんて漫画だけの話だ。死ぬにしても、綺麗な姿のままなんてことはないのだろう。

そんなことはわかっている。でも、そんなリアリティの追求はしなくても良かったのに。

主人公の妻の“コマとコマの間で起きていること”というセリフがすべてを表しているのだと思う。漫画では飛ばされている部分。人が目を背ける部分。映画では、それを敢えて描いたのだろう。

その試みはわかった。でも、漫画が何故それをコマとコマの間に落とし、わざわざ描かないのか考えてみたらわかるだろう。読者が楽しめないからである。
もうこれは好みの問題でもあると思うけれど、私は楽しめると思って観ていた。ましてや、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督である。痛快エンターテイメントみたいなものを期待していた。

しかし、ラストでは、すべてをかけて救い出した妻も家を出て行き、手元には新しく飼いはじめたうさぎしか残っていない。うさぎを撫でながら、完璧な瞬間を描いたイラストを見て、一人、涙を流しているのである。
完璧な瞬間が増えたのは良かったと思う。けれど、主人公は笑顔ではなく、涙を流している。悲しんでいるのだ。
イラストを見つつ、少しでも笑顔になっていたら、妻は出て行ってもヒーロー活動を通じて楽しい思い出がたくさんできたからいいと納得はしているのだろうと思う。
また、妻は出て行っても、ボルティが生きていたら、この先も二人で楽しくヒーロー活動できたと思う。
でも、妻もボルティもいない。うさぎはいても、主人公は泣いている。

じゃあ、主人公にとって、ヒーロー活動とはなんだったのだろうか。まったく関係のないアメコミショップの店員さんを巻き込んで死なせるという犠牲を払いながら、救い出した妻は出て行った。思い出も彼の心を癒せない。

できれば、ハッピーエンドの話が観たかった。ハッピーエンドじゃなかったとしても、後味が悪くなければ良かった。主人公のこの先のことを考えると不憫でならない。不憫にならない程度にファンタジーにしてほしかった。

ジェームズ・ガン監督自身も出演していた。テレビのヒーローに捕まっている悪魔、デーモンズウィル役。真っ赤に塗られていても、顔はそのままなのでわかる。ロープでぐるぐる巻きにされ、動けないけれど、抵抗するように長い舌を出し入れしていた。





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