『胸騒ぎの恋人』



2010年カナダで上映。日本ではWOWOWで放送された後、DVDがリリースされて劇場公開も少しずつ行っている。

グザヴィエ・ドラン監督、主演。『Mommy/マミー』で母親を演じたアンヌ・ドルヴァルも少し出てくる。

フランシス(グザヴィエ・ドラン)とマリー(モニカ・ショクリ)は友達で、同じタイミングで同じ男の子ニコラ(ニールス・シュナイダー)を好きになってしまう。少女漫画のような話だった。
二人とも別に好みじゃないけどねと言いながらも、最初からニコラのことが気になって仕方がない様子だった。この辺は、思わず顔が笑ってしまうのが抑えられない表情や鏡の前でおめかししている様子から察することができる。

二人は牽制をし合っているけれど、マリーはやはり異性という強みがあるからなのか積極的で、フランシスは偶然を装って会ったりと健気。異性/同性ではなく、単に二人の性格なのかもしれない。

たぶんニコラの誕生日会だと思うけれど、パーティに二人が呼ばれるけれど、ニコラはすでに酔っぱらっている。プレゼントも適当に置いておいてと言われ、開けてももらえない。二人とも、ニコラのことを考えて一生懸命プレゼントを選んでいたし、パーティに向かう最中もニコニコしていた。報われない。
それでどうするかというと、二人でお互いのプレゼントを褒め合うというよくわからないことになっていた。でもこれは、本当は二人とも、ニコラに褒めて欲しかったんだよね…と考えると悲しい。
それでも、パーティで踊るニコラを見て、二人とも一気に恋心を燃やしているのがわかった。目を見開き、彼の姿に釘付けになっていた。

次のシーンでニコラはちゃんと、フランシスがあげたタンジェリン色のセーターを着て、マリーのあげたカンカン帽をかぶっていて、律儀な態度をとっていた。パーティで相手できなかったことのアフターケアというか。
なんとなく、ニコラは全員に同じ態度をとっているのではないかとも思った。パーティでは女の子に人気があったようだし、女友達にパスタを作るという話も出てきていた。
二人が自分に好意を向けていることを知った上での態度なのではないだろうか。
ニコラの母親(アンウ・ドルヴァル)が結構強烈な人物で、きわどい衣装のダンサーを生業としていて、世界興行にニコラが小さい頃に連れて行っていたらしい。ニコラは周りのダンサーたちにちやほやされていたとか。そんな風にして育ったら、少し問題のある人物になりそうな気がする。

三人の仲は縮まって、別荘へ遊びに行く。
車の運転席にはニコラ、助手席に座ったマリーはうきうきだったけれど、夜に焼いたマシュマロをニコラがフランシスにあーんで食べさせる一連の行動を見て、機嫌を損ねる。
確かに、こいつやっぱり知っててやってるよな…と思うような感じに、食べさせ方がやけに性的だった。それとも、幼い頃に身につけた媚び癖みたいなものなのだろうか。
一人で部屋に戻って寝たマリーが朝起きても二人はいない。探すと、遠くへ散歩に出かけている。

映画を観終わった今となっては、これもマリーの性格なのかなと思うけれど、激しく嫉妬をしてしまう。一人で帰ると言い、二人は追ってくるけれど、フランシスに平手打ちをして結局取っ組み合いの喧嘩になってしまう。
遅かれ早かれ、こうなっていたかなとは思うけれど、フランシスはいくらマリーが助手席に座っても、別に周囲に迷惑をかけるような嫉妬はしなかった。もちろん心の中では自分も助手席がいいとは思っていたとは思うけれど、おそらく三人の関係を最優先にしているから、こんな行動はとらない。

この喧嘩をきっかけにして、三人はバラバラになってしまう。ここでの行動も、フランシスはあくまでも三人の関係を修復しようとし、マリーはどうにかして二人で会おうとしていた。
マリーはセックスフレンドにぐだぐだと文句を言っていたけれど、元はと言えば、自分のせいで調和が乱れたのだ。平穏に楽しく過ごしていたのに、独占できないと癇癪を起こす。でもきっと、三人の関係では物足りなくなってしまったのだろう。

フランシスは店で思い出の味マシュマロを買って、一口食べてニコラのことを思い出していた。なんて健気。

それで、結局ニコラにちゃんと告白するのもフランシスのほうなんですよね。結局、「僕はゲイじゃない」という、どうすることもできない理由で断られてしまうけれど。
マリーは偶然ニコラに会ったときにも、あの手紙は実はあなた宛じゃなくてねなどと言い訳めいたことしか言っていなかった。
振られてしまったのは悲しいけれど、虚勢をはらずにちゃんと告白したフランシスはえらいと思う。

マリーはニコラをお茶に誘う。そこでも関係ない話をしながら、「それで、あれからニコラには会ったの?」みたいな聞き方をしていて、始めからそれが聞きたくて呼んだんだろうに!と思ったけれど、たぶん、本当にこうゆう性格の女性なんだと思う。
店を出ると雨が降っていて、傘をさしたマリーと傘を持っていないフランシスが並んで歩いている後ろ姿が映される。マリーがすっと傘に入れてあげて、特にセリフはないけれど、仲直りしたのがわかる。

一年後に、何かのパーティで二人はニコラに会う。ニコラはたぶん、例の調子の良さで近寄ってきて、「会えて嬉しいよ」などと言おうとするけれど、言っている途中でフランシスが叫び声をあげて、言葉をかき消す。
当たり前だ。ふられてるんだ。そして、受け入れる気がないならもう、近寄って来るのはやめて。
この意見は、二人の間で一致したようで、マリーは気丈に、何も言わずにニコラを睨んで追い払う。ここでの態度も二人の性格の違い、そして、上っ面だけで行動するニコラの性格がよく出てておもしろかった。

そして、そのパーティにて。二人は新たな恋に落ちる。同じ人の元へ、すっと歩み寄っていくシーンでおしまい。
懲りない。また悪い男そう。二人は仲良しだから好みが似てるんだ。これ、きっとニコラの前にも同じようなことがあったんだろうなと思う。

このシーンとエンドロールにかけて、ダリダの『Bang Bang』という曲が流れる。本編中にも何度か流れて、映画内で同じ曲が何回も使われるのは珍しいのではないかと思った。たぶん、恋に落ちるシーンで流れていたようだった。
フランチ歌謡というか、日本の昔の歌謡曲っぽいというか、日本の昔の歌謡曲がフレンチ歌謡の影響を受けているんだろうけども、悲しげでメロドラマっぽくなっていた。

現在のように構図が凝っているというのはあまりよくわからなかったけれど、スローモーションが多用されているように感じた。

あと、マリーとフランシス、それぞれの恋人ではないパートナーとのセックスシーンがあるけれど、ニコラを好きなときはマリーが赤いライト、フランシスが青いライトだった。喧嘩後はマリーが黄色でフランシスが緑。きっと何か、色に意味がありそう。
ライトが全体的に当たっているので、裸だけれど肌色ではなく、行為そのものというより指の動きや抱きしめるしぐさなどで表されているので、いやらしくはなく美しい。ここもスローです。他の映画では見たことの無い表現だと思った。

あと、ちょっとしたことですが、かくれんぼをするシーンで、数を数えるときに「ワインが一本、ワインが二本…」と言っていたんですが、フランス語圏では当たり前のことなのだろうか? すごくフランスっぽく感じた。



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