『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』



2002年公開、アメリカでは2001年公開。ウェス・アンダーソン作品。彼の初の日本公開作品らしい。
Theが付いているし、“ロイヤル”から、タイトルからは想像できなかったけど、ロイヤル・テネンバウムは人の名前だった。

10歳の頃に天才児だったロイヤルの子供たちの様子が序章で描かれる。『Hey Jude』がずっと流れている。少し感傷的な気持ちになる。リッチーが鷹のモルデカイを外に放し、空に飛び立つところで、サビのラーララララララーになるため、映像からは希望を感じて、明るい未来が待っていそうに思えた。

しかし、20年後にシーンが移ると、多くの天才児がそうであるように、全員が全員挫折している。家族もばらばらである。

それを知ってというわけではなく、元々は妻の再婚の邪魔をするためだったと思うが、父であるロイヤルが病気で死期が近いことを理由に家族を家に集める。
チャスの孫と思いっきり遊ぶロイヤルのはしゃぎっぷりが良かった。ちゃんと息子を連れて行った闘犬場にも連れて行っていた。ロイヤルを演じたのはジーン・ハックマンなんですが、こんなコミカルな演技もできるとは。

結局、病気ではなかったことがバレて愛想をつかされるんですが、普通ならバレるのは終盤なのではないかと思う。けれど、この映画の場合はここが折り返し地点でこのあとが本番だった。
みんなが、本当に父はしょうがないなという思いで一致したとは思うけれど、父が去り際に「人生で最高に楽しい6日間だった」と言ったように、久しぶりに家族に会った彼らも楽しくなかったわけはない。
子供の頃の栄光に縛られて、その後はなんとなくうつうつと過ごしてきただろうけれど、家族に会って、癒えたものもあるだろう。
嘘だとしても、病気を理由に家族を引き合わせるきっかけを作ったのは父だし、何より、しょうがない人でも父なのだ。

現代が舞台の作品なので、『グランド・ブダペスト・ホテル』ほど画面がびっちり作り込まれているわけではない。シンメトリーも控えめ。
と思っていたけれど、監督のオーディオコメンタリーを聞いていたら、すべてロケではあっても、作り込みやこだわりは細かい部分でものすごかった。
ステンドグラスが画面に映らないから下のほうに作り直したとか、一瞬しか映らないロイヤルの母の肖像画も実際にモデルに看護師の服を着せて描いたものだとか、物入れの中にはボードゲームが積み上がっていて電気紐に付いているのはモノポリーのコマだとか。
一番驚いたのは、ロイヤルとマーゴが話をするアイスクリームパーラーの客が全部父娘である点。ぞわっとした。
構図も○○って映画を参考にしたとか、マーゴの部屋のシマウマの壁紙は○○ってレストランを見て決めたとか、それぞれに元ネタがあるようだったけれど、半分もわからなかった。もちろんだけれど、音楽にもそれぞれ意味がある。
特に、探偵が調べてきたマーゴの破天荒な経歴が、映像によって明かされるシーンでラモーンズが流れるのは笑った。

すべてストーリーとは直接関係ないし、映画内でいっさい説明もされないのがすごい。でも、このこだわりがウェス・アンダーソンっぽさ、彼の世界観を作り出しているのだろう。

消防車かクレーン車のシーンが良かった。これはウェス・アンダーソン作品だとよくあるんですが、巨大な絵を端から端までカメラが横に移動して映している。クレーン車の上で座って話している救急隊員とロイヤルや家の前で混乱しつつも雑談している人々をただ映す。状況が俯瞰で見える。

最後のお葬式のシーンでずっと赤かったチャスのジャージが黒いのが泣ける。ちなみにアディダスの赤いジャージかと思ったら、これもぴんとくる赤い色がなかったので作ったらしい。
礼砲が孫たちによるBB弾なのも良かった。あれでチャスはだいぶ怒っていたけれど、完全に許したのだ。
映画の最後に墓の門を閉める、Thenenbaumという文字を見せるのもさすが。門を閉めるのが、おそらくロイヤルに一番近しい人物だったパゴダというのもいい。

墓標に刻まれた“ロイヤルは沈む軍艦から家族を救い、非業の死を遂げた”という一文を読んで牧師は首を傾げていたけれど、間違ってないと思う。
彼の葬儀にちゃんと全員集まったのだから。家族だけではなく、その周辺の仲の良い人物も集まった。それまで離散していた家族や仲間。彼は亡くなる前にちゃんと絆を繋いだのだ。
もちろん死は悲しいものだけれど、それだけではない。

死者に想いを馳せるというのは、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』において個人的に好きな要素だけれど、10年以上も前の作品にも出てくるとは思わなかった。
また、“架空の小説を元としている”という設定も同じだった(だから、第一章みたいなのが出てくるらしい)。昔の作品でも、現在の好きな作品と同じ部分が出てくると嬉しくなる。





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