『クルードさんちのはじめての冒険』



2013年アメリカで公開。日本では劇場未公開DVDスルーの作品。
『ヒックとドラゴン2』にしてもそうだけれど、この作品も劇場で観たいと思わせる演出が多かった。ただの劇場公開だけではなく、3Dで観たいと思うシーンがたくさんあった。このような作品がDVDスルーになってしまうのは残念。
監督はクリス・サンダースとカーク・デミッコ。クリス・サンダースは『ヒックとドラゴン』シリーズの監督でもあります。

ただ、主人公たちが原始人一家なので、とっつきにくい雰囲気なのもわかる。おもしろいと噂は聞いていても、少し疑いながら見始めた。

けれどこれが、原始人である特徴を生かしたアクションと話運びで、わくわくする作品に仕上がっていた。

原始人である特徴とは言っても、本物の原始人がどんなものなのかはイメージでしかわからない。でも、最初の狩りのシーンからスピード感溢れていて最高でした。
狩りといっても卵を盗むんですが、家族でまるでラグビーのようにして、後ろから追いかけてくる他の動物を振り切りながら突っ走る。まるでスポーツもののようだった。この部分の音楽も恰好良かった。

他にも動物的な動きが多かった。家族の赤ちゃんのサンディは凶暴な子犬のようだったし、体にまとった毛皮の背中の部分に犬の足跡マークがついていた。
お姉さんのイープは虎の毛皮で、動きも野性的、中でも他の人から虎に例えられることが多かった。ちなみに吹替えているのはエマ・ストーン。ハスキーな声が男勝りなイープによく合っていた。

クルード一家の大黒柱である父のグラグは危険なことがありそうだと、事前に動き家族を洞窟へ押し込んだ。それは家族を思ってのことだし、そうして来なかった他の家族は事故でいなくなってしまった。家族が無事に過ごしていられるのは父の用心のためといえる。

それでも、イープはつまらない。そこに外からガイという少年がやってくる。

ガイは、クルード家、特にグラグとは考え方が違う。ガイが進歩的、グラグが保守的といった具合に。一人で外で過ごし、危険から身を守る術を学んでいるからなのか、いろいろなことを知っているし、クルード家よりも文化的な生活を送っているようだった。

外から火や靴、傘などの道具が持ち込まれ、クルード家の中で革命が起こる。全員が自分で考えるようになり、様々なアイディアを思いつき、行動をする。それは原始人から一歩進んだ、まさに人間の進化を見るようだった。原始人一家を主人公にした意味がここで見える。

そんな中で、グラグだけは考えを変えられない。皆が一家の父親である自分に従わないことに納得がいかなそうだった。
このままでは父の威厳が保てないと、ガイにならっていろいろとアイディアを出してみるが、どれもこれもイマイチ。でも、そこが憎めない。
ちなみにグラグの吹替えはニコラス・ケイジでそこを思うと余計に憎めない。

一家に新しく入ってきた文化(ガイ)には乗り損ねたグラグだけれど、力なら負けないと、自分の特色を出すのが良かった。
裂け目の向こうへ、家族を一人一人放り投げる。当然だけれど、グラグだけが、残ってしまう。

グラグは一人洞窟へ入る。暗い洞窟の中、ガイの見よう見真似で火を起こす。無事に着火して、「おい!ついたぞ!」と嬉しそうに言っても誰もいない。
そこでグラグは愛しい家族のことを思いながら、壁画に一人一人の姿を描くんですね。そして最後に、全員を両手で包み込むようにして自分の姿を描く。
裂け目の向こうへ放り投げる前に家族と一人一人話していて、そこも感動的だったんですが、私はこの壁画のシーンで泣いてしまった。
やっぱり、グラグは家族を救うのは自分しかいないと思っていたのだ。

洞窟の中で、微かにホラ貝の音が聞こえる。ホラ貝は助けを求めるサインと決めたから、グラグはなんとしても向こうへ行かねばと思う。自分のほうが危機的状況なのに、家族のことを一番に考えていた。

そして、ここでグラグも文字通りの進化を遂げる。考えて考えて、ガイ流ではなく自分流のアイデアを思いつく。

裂け目の向こうへ行った家族たちは家族たちで、父のことをまったくあきらめていない。一人でホラ貝を吹くイープに、おばあさんが「私が言ってくるから」と言いながら横に並び、結局、一緒にホラ貝を吹いたのにも泣けた。その後、家族とガイの全員でホラ貝を吹いていた。

自分の方法で空を飛んで向こう側を目指しながらも、途中途中で小動物たちを拾ってあげるシーンからもグラグの優しい面がよく表れていた。それは進化したグラグだからなのかもしれないし、元々のグラグのすべて助けるみたいな本質なのかもしれない。

様々な地形を通り、凶暴な動物に追いかけられ、裂け目に行方を阻まれて…というのは洞窟の中で怯えて暮らしていたら経験しなかったことだろう。まさにタイトルの“はじめての冒険”なのだ。
その果てに辿り着いた海辺は、水がある。魚も住んでいるだろう。少なくとも、以前住んでいた砂漠のような場所よりは恵まれていると思う。
それでもきっとグラグは、どこにいても家族全員を守ることだけを考えているんだろう。

クルード一家以外の動物は架空のものばかりで、特典映像を見ていると、パンチモンキー、キリンゾウ
  
などと名前もちゃんとついていたようだ(ガイが名付けたのかもしれない)。他の動物はクルード一家を襲ったりもするし、クルード一家も動物を食べたりする。
だから、敵という位置付けではないのだろう。

この映画で何かと戦っているとしたら、それは(地球なのかはわからないけれど)大地であり、自分自身のような感じがする。姿のはっきりとしたものが襲ってきて、それを倒してハッピーエンドではない。その辺の、単純そうに見えて実は凝っているのもおもしろかった。



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