『ファースト・マン』



デイミアン・チャゼル監督、音楽ジャスティン・ハーウィッツ、ライアン・ゴズリング主演の『ラ・ラ・ランド』メンバーによる新作。
月面着陸50周年記念作で、人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロングについて描かれている。

以下、ネタバレです。





ニール・アームストロングについて描かれているのは知っていても、月面着陸のプロジェクト全体についての映画かと思ったけれど、本当にニール・アームストロング個人について描かれていた。
月面着陸成功することはわかっているのだし、それに向けて、各所でベストを尽くすお仕事映画、言うなれば『オデッセイ』のような、力が集結してラストで成功!やったー!という華々しさがあるのかと思ったけれど、どちらかというと地味な映画。月面着陸についての暗部が描かれていたと思う。

これは今までも言われていたことだけれど、月面着陸初成功にはアメリカの国の威信がかかっていた。ソ連に先を越されるわけにはいかなかったのだ。それによる焦りのためなのか、パイロットが次々事故で死んでいってもプロジェクトは強引に進んで行く。ニール自体についても途中何度も生命の危機を感じた。月面着陸を成功させることはわかってるから、途中で死ぬことはないのもわかっているのに。
時代のせいもあり、最初の船内は狭く、それも恐怖感を煽る。カメラが宇宙飛行士目線にもなるのでかなり揺れるし酔うけれど、4DXで観たらアトラクション感覚になるかもしれない。
狭い船内はまるで潜水艦のようだし、仲間の宇宙飛行士たちが次々死んでいく様子はまるで戦地のようだった。前線に出る兵士が宇宙飛行士で、その気持ちなど鑑みずに政治家は勝利だけを目指すのも戦争に似ている。
直接のドンパチは無くても、冷戦下なのだし、宇宙開発も戦争だと思い知らされた。
仲間が事故に巻き込まれた後、葬儀などは映さず、2年後に飛ばして、ニールが訓練中の事故で危機一髪という目に遭っていたのはうまい演出だと思った。省略しつつ、常に危険と隣り合わせなのがわかる。
また、ニールがアポロ11号の乗組員に選ばれてるのも別に経緯などは詳しく描かない。だって、みんな知ってるから。

また、ニールの家族にもスポットが当てられている。妻であるジャネットはただ待つだけである。通信を聞いて見守っていても、息子たちは暴れ放題だし、重大な危機が近くなると通信が切られる。苛立ちを募らせていた。序盤には娘も亡くしていた(娘のアクセサリーを月のクレーターに投げ入れていたが、これも実話なのだろうか)。
宇宙飛行士を夫に持つ妻同士で仲良くなった女性もいたが、その夫は途中で死んでしまった。自分もいつ夫を亡くすかわからないと思い、ますますストレスがたまったはずだ。
ジャネットを演じたのがクレア・フォイ。そんな役どころではないから当たり前ですが、ほぼ笑顔がない。自分を強く持とうと、つぶされないようと考えているようだった。
特に、黙って出て行こうとするニールを叱責する姿が良かった。戻れないかもしれないと、ちゃんと息子たちに話していけと。また、息子のうちのお兄ちゃんのほうはある程度ここまで見てきて聞いてきたからなのか、事情を察して厳しい顔をしていた。こんな小さな子まで、無理を強いている。宇宙飛行士の華々しさしか今まで知らなかった。

いざ月面に着陸するという時にも、アラームがなって、NASAに連絡をとっても「そのエラーコードは平気だから続けて」などと言われていてひやひやした。自分が乗組員になら、大丈夫だとしても説明してほしい。そんな時間もなかったんでしょうが。
下が岩で着陸できないとか、燃料がどんどん減っていくとか、ここも、着陸できることはあらかじめわかってるのに緊張感があった。ここのジャスティン・ハーウィッツの音楽が素晴らしかった。音楽的には一番盛り上がるシーンだと思う。

緩急の付け方がうまいと思ったのは、いざ着陸してからニールたちが上陸しようとする時にはまったくの無音になるところである。これは映画館で観てよかった。もちろん、映画館で観ても他の観客に邪魔されることもあるのでなんとも言えないけれど、家で観ていたらまったくの無音ということはありえないだろうから。ここの無音シーンは耳に痛いくらいで、身じろぎできなくなってしまった。

なるべくCGを使わず、宇宙船の外の景色もブルーバッグではなくLEDで流してしたらしいが、このCG廃絶主義はちょっとクリストファー・ノーランを思い出した。舞台美術(プロダクション・デザイン)も『インターステラー』『ダンケルク』『ダークナイト』のネイサン・クロウリー。ちなみに、ノーランは本作を絶賛しているとのこと。話の流れというか、人間の描き方もちょっと似てると思いました。

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