『女王陛下のお気に入り』
Posted by asuka at 12:13 AM
ヨルゴス・ランティモス監督。
アカデミー賞は作品賞を含む10部門にノミネートされています。
アン王女とその侍女サラの元に没落貴族のアビゲイルが現れる。
アン王女にオリヴィア・コールマン、サラにレイチェル・ワイズ、アビゲイルにエマ・ストーン。三人とも素晴らしかったですが、やはり主演のオリヴィア・コールマンが素晴らしかった。アカデミー賞は主演と助演2人で3人ともノミネートされています。納得。
以下、ネタバレです。
アビゲイルが存在したのかどうかわかりませんが、アン王女は実在のあのアン王女で、17回妊娠したけれど子が育たなかったのも本当らしい。
サラはラストネームが出てこなかったと思いますが、サラ・チャーチル。チャーチルの先祖。
ニコラス・ホルトが演じたハーリーも実在の人物。ハーリーは小狡く立ち回る憎々しい役で、ニコラス・ホルトの白塗りも表情も本当に憎らしかったので、サラが途中で「あいつのホクロを引きちぎってやりたい」と言っていたのもそうだそうだと同意したし、実在の人物はアン王女に見限られて失脚するというのも溜飲が下がった。
サラはアン王女のわがままを聞きつつも、長年側近をやっているようだったし、病気がちのアン王女の座を乗っ取ろうとしているのかと思った。
対するアビゲイルは最初は女中だし、庶民的でなんとなく観ている私に近い存在に感じられ、彼女に感情移入しながら観ていた。
王女の痛風の足に牛肉を貼るという効くんだか効かないんだかわからない治療方法の代わりに薬草を摘んできて王女の足に塗る。しかも、私が取って来ましたよというアピールも欠かさない。
結構ずる賢いなと思っていたら、あれよあれよという間にのし上がっていく。
アビゲイルは優しい無邪気な子なのかと思ったら、裏表があった。エマ・ストーンの可愛さがあざとい。
すべて策略なのだ。今回、ハーリー含め、男はまったく役に立たないというか、話に絡んでこない。アビゲイルと結婚するメイシャムものし上がる道具で、結婚して以降は見向きもされない。初夜にベッドで股間を膨らませていても、アビゲイルは手でこするだけ。しかも、メイシャムのほうを見ることもなく、アビゲイルはサラのことを考えている。
一方、サラはキリッとしていて知的。ハンティングの時のパンツ姿の正装も美しい。ふわふわしている(ように見える)アビゲイルとは対照的。
でも、アン王女は、肉体的にも精神的にも簡単に快楽を与えてくれるアビゲイルを優遇するようになる。そのようなものに飢えていたのかもしれないし、サラとは長い付き合いで新しい刺激が欲しかったのかもしれない。
そうなると、アビゲイルは更に調子に乗って、サラに毒を盛って追い出す。落馬して顔に傷を負って戻ってきたサラは、本格的にアン王女に避けられる。
ここで、サラがアンに嫌われないように傷を隠すために顔半分を黒いリボンで覆うんですが、それがとても恰好良かった。アビゲイルに毒を盛られたこともわかっていて、表情も怖くなっているから、ゴスっぽくなっていた。今まで、私はエマ・ストーンのほうが好きでしたが、今回、レイチェル・ワイズが大好きになってしまった。
サラは本格的に追放されるんですが、その時に「鍵を返しなさい」と言われて出す鍵がすごく大きくぎらぎらしてて笑ってしまった。小道具も凝っていた。女王の部屋の壁紙もゴテゴテしていた。魚眼レンズみたいなので撮られているシーンが多くて、内装をたくさん映すためかなと思ったんですが、アビゲイルの詰所のような質素な部屋も魚眼レンズで撮られていたので違いそう。
サラは去り際に、私は正直な意見を言っていてそれが愛だとアンに言っていた。王女としてではなく、ちゃんとアンとして愛していた。アビゲイルとは違う。
追放してからアンはサラの存在の大きさに気づく。そばにいなくなって、失って初めて愛を知ったのだと思う。ここからのオリヴィア・コールマンが疲弊したように気力がないながらもすごく綺麗で、これはどんな演技なんだろうと舌を巻いた。素晴らしかった。
アビゲイルはサラを追放して目標を達成、放蕩三昧だったが、アン王女の寵愛を受けられていないことに気づく。結局、アビゲイルはサラになりたかったんですよね。サラのようには愛されないままだった。全てを手に入れたと思ったら、愛は手に入れられていなかった。サラからの手紙を燃やしてましたけど、そんな姑息な手段をとってももうなんの意味もない。
普通なら国外追放までしたら大勝利で高笑いしていてもいいはずなのに、完全敗北。女王を通して、アビゲイルもサラを失った大きさに気づく。
後悔するアンの表情と、虚しさを感じるアビゲイルの表情が重なって、暗転し、THE FAVOURITEというタイトルがバシッと出て終わる。すべてが台無しになってから、“お気に入り”と出されてもと失笑が漏れるとともに、なぜか清々しいラストだった。
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