『The King and I 王様と私』



渡辺謙とケリー・オハラ主演の『The King and I 王様と私』の映画館上映。
2015年4月にブロードウェイにて19年ぶりにリバイバル上演され、第69回トニー賞では4部門に輝いた(ミュージカル部門リバイバル作品賞、主演女優賞ケリー・オハラ、助演女優賞ルーシー・アン・マイルズ、衣装デザイン賞)。渡辺謙も主演男優賞にノミネートされた。
今年夏には来日公演も控えている。
映画館上映は2018年8月のロンドン公演版。

以下、ネタバレです。






『王様と私』自体は原作が1944年、海外でのミュージカルの初演が1951年、日本でも1965年に日本人キャストにより初演、その後何度も上演されており、映画版もある。
しかし、今までまったく触れてきておらず、『Shall we dance?』くらいしかわからないため、ストーリーも何も把握しないまま観ました。他のバージョンを観ていないため、違いなどもわかりません。今回も渡辺謙目当てです。

舞台は1860年代。タイの王様にイギリス人の女性アンナが子供達の教育係として雇われる。王様に見初められる一般女性の話なのかと思っていたらとんでもない。二人の間にロマンスらしいロマンスはなく、どちらかというと戦友のようだった。

ロマンス成分はタプティムとルン・タという二人が担っているのですが、タプティムが王に気に入られたために、もともと恋人なのに許されぬ二人になってしまう。
タプティム役のナヨン・チョンが歌がとてもうまかった。個人的にはケリー・オハラよりナヨン・チョンが好きでした。夏の公演にも彼女がくるのだろうか。

1860年代のタイは専制君主制がとられていて、誰も王には逆らえない。特に女性の身分は低い。王には多数の妻がいて、子供も70何人と言っていた。
そんな中でもアンナは別の国から来ていることもあり、不平不満をどんどん王へぶつけていく。
傲慢でプライドが高いし、嫌な王だな…と思っていたけれど、観ているうちに彼のことがどんどん好きになってしまう。

70何人かの子供のうちの数人の紹介をするんですが、子供が一人一人わーっと出て来て、最後にアンナに向かって手のひらを上に向けるのですが、アンナが王を見ると、「あなたの両手をその上に乗せて挨拶してあげなさい」とジェスチャーで教えてあげる。あれ?もしや優しい?と思っていたら、子供のうち数人が王に絡んでいき、それへの王の対応がいちいち素敵だった。足にしがみついた子ははがしてあげてたし、反対向きにおじぎをした子は両手で持って向きを変えてあげていた。仁王立ちをする王の足の間を通る子もいた。
子供に好かれているし、王も子供たちのことが好きなのだ。もしかして、いい王様なのでは…。

また、国を一人で治める上での孤独感や苦労、恐怖心などを苦悩しながら歌うシーンもあった。渡辺謙は歌が上手いというわけではないんですが、半分くらい語りのような歌だったし、それより何より、表情が豊かだった。舞台だと大袈裟なくらいに表情を作った方が映えるのだなと思った。また、渡辺謙は日本人の中でも目鼻立ちがくっきりしているのがあらためてわかった。
比べてしまうと、大沢たかおは元の顔のせいもあるが、表情に乏しかったし、演技も大仰なものではなかった。もちろん、そういう役だったからかもしれない。でもでっぷりとした重量感のある体つきは見事でした。

王はプライドの高さゆえなんですが、アンナに聞きたいことがあっても「教えてください」とは死んでも言えないんですね。でも、異文化に興味があって、本当は取り入れたい。勉強熱心で先生(アンナ)がそこにいるのに、プライドの高さが邪魔をする。それで、遠回しになんとかアンナ自身が、聞きたいことを喋るように仕向ける。けれど、その仕向け方が下手すぎて、アンナもこの人、プライド高いから聞きたいのに聞けないんだな…というのがわかる。わかった上で意地悪をせずに教えてあげる。畏れてはいないけれど、王として敬意は払っているから意地悪はしない。王はめちゃくちゃ言っているようで、アンナに甘えてしまっている。なんていい関係なんだろう。

自分よりも頭を高くするなと言っていて、アンナも仕方なく従っていたけれど、そこは意地悪をするように、変に頭を低い位置にしたり、面白いポーズをとったりしていた。アンナはいちいちポーズまで同じようにする。本当に微笑ましい二人だった。
夏の日本公演用のポスターが寝転んでニコニコしている二人なんですが、これも、王様が不意に寝転んだことで、同じポーズをとって図を低くするアンナなんですね。ここで一幕が終わりです。好きにならずにいられない二人だった。

特にやはり、私が渡辺謙目当てで行っていたせいもあるかもしれないけど、彼が出てくると完全に舞台を支配してしまい、観客の心を掴んで離さない。困った王様なんですけど、チャーミングで人間くさい。

二幕はイギリスからの客人を迎え入れるために芝居をするんですが、これがタイの古典舞踊風でメイクや衣装、動き、声の出し方など、かなり見ごたえがあった。要は劇中劇なんですが、違う芝居を二つ観たような気持ちになった。内容自体はとても悲しいものだった。

この後にお待ちかねの『Shall we dance?』があるんですが、これもロマンティックに優雅に踊るのかと思っていたけれど、結構ドタドタしていた。ポルカなので、ステップが弾んでいてダイナミック。でも、ここまで観て来た二人、アンナと王に合っている。
王は異文化だけでなく愛も知るんですが、アンナを愛するというよりは、愛そのものを知った感じだった。もちろん、アンナのことも好きにはなっているけれど、それは妻にしたいという気持ちではない。最初は異国の、しかも女性という訳のわからない存在だった彼女を受け入れたのだ。
この辺りから、多様性や女性の地位向上など、今風のテーマだと思うけれど、これはさすがに原作の通りなのだろうし、そうなると、1944年にこの原作が誕生していたことに驚く。
文化の違いについて、恐れずに受け入れてみると世界を見つめる視野が広くなる。いろんな見方ができると、楽しいことがもっと増える。

また、二幕最初のタイ古典舞踊はさすがに今回特別に加えられたのだろうなと思ったけれど、作品そのものの解説にも、“シャム・バレエ風のダンスによる上演”と書いてあるので、もしかしたら他の上演でもやっていたのかもしれない。でも、さすがに日本人版ではやっていないと思うのだけれど…。
これだけたくさんのバージョンがあるので、何か他にも見て比べてみたい。


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