『THE GUILTY/ギルティ』



デンマークの国立映画学校の卒業生たちが20日足らずで作り上げたとのこと。ノミネートまではいかなかったが、アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表になった。
緊急通報ダイヤルで働く男が、かかってきた電話を頼りに誘拐事件を解決しようとする。
出演者はほぼ一人。他は電話の音声のみなのに景色が見えてくる。

以下、ネタバレです。









ワンシチュエーションでリアルタイムに進んでいき、主人公以外が電話での出演ということで、『オン・ザ・ハイウェイ その夜86分』に似ていた。あれは主人公は車を運転しながら動くことはなく、いろんな箇所に電話をかけまくって周囲を動かすという映画だった。それでも、やはり本作と同じく電話口の向こうの景色も生き生きとしていた。向こうも別撮りではなく、出演者が控えていて一斉に演技していたという手法も面白かった。本作の撮影方法も気になる。トム・ホランドやオリヴィア・コールマンが出てました。感想はこちら

本作の主人公アスガーは、自分から積極的に動いていた。場所は部屋移動くらいですが、もっと自分の意志が感じられた。なんとしても、自分で事件を解決したい。
しかも、アスガー自身、何か失態をやらかして電話番にまわされているだけで、本当は現場で働く刑事のようだった。刑事としてのプライドと、おそらく本件が最後の緊急通報ダイヤルを受けての事件なのもあっただろうが、もっと何か問題を抱えているようだった。
話が進むうちに少しずつ明らかになるが、その失態の裁判が明日で、多少ナーバスにもなっている。

誘拐事件側も刻々と事態が変わっていくけれど、それにつれて、アスガーの自分自身の出来事に対しての心も変化していくのが面白かった。

緊急通報ダイヤルの奥で男の声が聞こえていて、女性ははっきりとは喋れない。
この先もアスガーと共に、いろんな電話の向こう側に想いを馳せることになる。
情報が追加されるにつれ、自分の想像の中も変わっていくという経験が面白かった。車種が明らかにされるまでは、想像していた誘拐されてる様子は車内の中だけだった。白いワゴンと言われると、高速道路を走る白いワゴンも見えてくる。

自宅には子供が二人残されている。6歳のマチルダは頭が良く、しっかり者のようだった。これも伏線でもあったかもしれない。
でもこの娘によると、離婚した父が母を誘拐したらしい。そこで、アスガーも私たちもDVの可能性を疑う。アスガーは母を無事に返すと約束して使命に燃える。

一方、明日行われるアスガーの何らかの裁判の証言を友人なのか同僚なのか、頼んでいたラシッドは、最初はごまかすが周囲が騒がしいことが電話でわかり、酒を飲んでいると白状する。そんなことで証言は大丈夫なのか?供述書通りにやってくれとアスガーは怒っていた。この時点でははっきりとはわからないが、何かしらの失態に対して、真実ではないことを証言させようとしているようだった。そのプレッシャーで酒を飲んでいたのではないか。また、その失態が原因なのかは不明だが、妻は家を出たらしい。

アスガー側と誘拐事件とが少しずつ明らかになっていく。アスガーは、おそらく願掛けのような気持ちで誘拐事件解決に臨んでいたのではないだろうか。この事件が解決したら、自分の裁判もうまくいくし、妻も帰ってくる。単なる正義感とも思えなかった。

残された子供達のいる家へ向かった警察からの電話では、マチルダが血だらけであることがわかる。情報が追加され、想像の中の子供が血だらけになる。そして、赤ちゃんは死んでいる。その報告を受けて、アスガーが「息があるか確認しろ!」と言っていたが、私もそう思った。その時点では眠るように横たわる赤子を想像していたから。しかし、腹をズタズタに切り裂かれているという情報が追加されて、確かにそれは確かめるまでもない…と思った。

一気に猟奇殺人事件になってくる。アスガーもそんな男といる女性が危険だと思う。だから、ワゴン車の後ろに閉じこめられている女性は危険だと思ったし、レンガで男を攻撃しろと命令するのもわかる。わかったのだが、この時の会話で、怯えている時は怯えている声なんですが、楽しい会話をしている時にも落ち着いた声色には聞こえなかった。何か変だ…と声だけでなんとなく嫌な予感がしていたら、「赤ちゃんの腹からヘビを出してあげたら泣き止んだ」と…。
そうすると、最初から全てが逆転してしまう。アスガーも同じ気持ちで頭を抱えていて、しかもレンガで殴れなどと言ってしまった。女性は言われた通りにレンガで殴って逃げ出す。

誘拐事件ではなく、夫は妻を精神病院に連れて行こうとしてたんですね。北部はどうやら雨が降っているらしく、電話越しにずっとしとしとと雨音が聞こえていて、寒々しさと物悲しさが伝わってきた。電話のかかってきた場所が、ピンポイントでないまでも広範囲で示されるので地図で大体の場所がわかるのも想像の手助けになった。

逃げ出した女性はアスガーに電話をかけてくる。どうやら陸橋の上らしい。自殺をする気なのだ。
女性も自分が赤ちゃんを殺したことに気づく。今見たら手が血まみれだったと言っていた。情報追加。
ここで誘拐事件とアスガー自身の話が絡み合うのがおもしろい。
アスガーは自分の事件について告白する。若者を撃ち殺したと。確かに悪党だったが殺さなくてもいいのに殺した。明日はその裁判で、同僚にはその偽証を頼もうとしていたんですね。でも、もう緊急通報ダイヤルのほかの電話番の人たちがいる前で堂々と真実を告げていた。そうしないと伝わらないからだ。
自分は故意で殺したけど、あなたは故意じゃなかったのだ。仕方ないではないか。

電話の向こうでは、女性を保護するパトカーのサイレンの音が近づいてきている。女性は「あなた、いい人ね」と言い残して、飛び降りてしまった。
と思ったら、無事に保護されていました。陸橋から飛び降りるだの自殺だのはアスガーが言ってただけで、完全に騙されてしまった。飛び降りたにしては電話が留守電に繋がるんだなとは少し思っていたのに。

ミスリードを誘う作りになっているとはいえ、耳から伝わる情報で想像をすることのいい加減さがよくわかった。でも、想像するのが楽しかったし、映像が頭の中で書き換わっていく感覚が新鮮だった。

アスガーは最後、部屋を出て、誰かに電話をしていた。それは誰かは明らかにされないし、音声もつかない。その状態で私は妻にかけているのかなと想像したが、偽証を頼んだ同僚にかけていると読む人もいるらしい。誰とでもとれるように、わざと音声をつけなかったのだと思う。ラストまでにくい演出。観終わってズシンとくるタイトル含め、おもしろかったです。

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