『カニバル』


マヌエル・マルティン・クエンカ監督。いままでは短編やドキュメンタリーを撮ってきたらしい。スペインのアカデミー賞ともいえるゴヤ賞に8部門ノミネート、うち、撮影監督賞を受賞しました。
主演はアントニオ・デ・ラ・トレ。『アイム・ソー・エキサイテッド!』の機長役の方。機長と副機長のやりとりが好きだったのでまた見れて嬉しい。
タイトル通り、殺して人肉を食べる話ですが、残虐描写はほとんど削除され、美しい映像で作られているし、ホラーではないです。

以下、ネタバレです。




ホラーではないけれど、まったく残虐描写がないわけではない。女性の足だけが映っていて、ナタか何かをふるう音と足が上下して、ああ、解体してるんだなと思う。
なんの説明もないけど、冷蔵庫に入っていた肉は人肉に違いない。フライパンで焼いて、おいしそうに食べていた。
はっきりと描かれてはいなくても、想像力でいくらでも残虐にできる。この映像の作り方がうまい。

また、最初のシーン、遠くのほうの人をカメラがずっととらえてるんですが、その人たちが車で移動すると、カメラが自動車内にあるのがわかる。主人公目線というか、犯人目線だったわけです。獲物を見つけて、じっと観察してたんですね。スプラッター描写がなくても、不気味さが十分に伝わる。

主人公のカルロスは普段は仕立て屋なんですが、仕立て屋だから当たり前なのかもしれないけれど、きっちりと長さをはかったり布を裁断していて、神経質で潔癖症っぽい。スーツ姿もびしっとしていて、印象は暗いけれど不思議な魅力がある。

神経質さは、すぐ食べられるようなさばきかたをした肉を小分けにラップで包んで、冷蔵庫にストックしてあることでもうかがえる。彼のこの性格のおかげで、切断した人体にそのままかぶりついて口の周りが血まみれ、というような描写はない。しかしそれでも、静かな猟奇性が不気味さを強調していてたまらない。ハー ブみたいなのを擦り込んで焼いて食べてた。

彼の行為に性的な興奮があったのかはわかりませんが、女性だけを狙ったということは、おそらくあったんだろうと思う。殺す前に、腹のあたりの匂いも嗅いでいた。
彼にとっては、好き=喰う(死)だったのに、包丁を突きつけるところまでやって殺せないというのは初めての経験だったと思う。
好き=生になって、自分でもどうしたらいいかわからなくなってしまったのかもしれない。

ただ、妹を殺して食べたと言ったら、うまくいくわけはない。でも、告白しなくては気が済まなくなってしまったのだろう。

彼の行動に共感できるわけはないから、どんな行動に出るのか、彼の考えてることがまったく想像できない。けれど、黙っているわけにもいかなかったのだろう。

自分が殺したわけではなく死んでしまい、亡骸を胸に泣いていた。たぶんあの後は、彼女を食すことはしなかっただろうし、死の意味が初めてわかったのではないか。

ラスト、キリスト教の祭りか何かの山車みたいなもののマリア像を見て険しい顔をしていたが、あれは懺悔の気持ちだったのではないか。
あの後、彼が再び殺して喰うという行為をしたかどうかはわからない。でも、あの時一瞬でも生にひかれたのだろうし、初めての気持ちだったのだろうし、その先のカルロスに何かしらの影響は与えたと思う。

テレビで、サッカーだったかな、何かのスポーツの映像が流れるのですが、アップでわざとらしく映った男性がハビエル・カマラに見えたんだけど、確かめようがない…。

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