『パレードへようこそ』


原題『PRIDE』。プライドでパレードという文字りは…とも思ったのですが、観てみるとこの邦題もいいです。
ゲイ映画かと思いきや、どちらかというと、『リトル・ダンサー』や『ブラス!』のような炭鉱閉鎖もの。
ビル・ナイ、アンドリュー・スコット、パディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイと、イギリス映画好きにはたまらないキャストが揃えられています。

以下、ネタバレです。






1980年代、ゲイやレズビアンにとっては警察や国家は敵であったが、炭鉱夫たちにとってもそれは同じだった。だったら、ということで、同性愛者たちが炭鉱夫ストを応援するために募金活動をする。
同じく少数派であり、戦う相手も同じならば協力しちゃおうよ、というのはものすごく良くできた脚本だなあと思いながら観ていたら、なんと実話だった。しかも、ラストを観ていると、いかに実在の人物について描かれていたかがわかる。

『リトル・ダンサー』にしても『ブラス!』にしても、炭鉱の村というのは労働者階級の村で、しかもサッチャー政権から抑圧されているから雰囲気が暗い。色も無い。
今回はウェールズの南部のディライスという場所が炭鉱の村として描かれているが、やはり、地味な印象である。そこへド派手な恰好をした連中が来るだけでも大騒ぎなのに、さらに同性愛者だというから、保守的な村の人々は警戒する。当たり前である。

結局、差別というのは自分と違うものに対しての恐怖なのではないかと思う。得体が知れないから怖いという、それだけなのだろう。
でも、性的指向が違うというだけで、根本は同じである。それをてっとり早く示したのが、この映画の中ではダンスだった。

セクシーに腰をくねらせながら、ダンスを踊ると村の女性たちは大喜びで一緒に踊り出す。言葉で説明しても伝わらないなら、もっと直感的にわかってもらおうという作戦で、観ているだけでもニコニコしてしまうハッピーなシーンになっている。
更に、つんけんしていた村の男たちも、モテたいからダンスを教えてほしいと申し出る。後半の募金の資金集めパーティーのシーンでしっかりモテていたのも良かった。

群像劇というか、登場人物が多く、一人一人に違うストーリーがあるけれど、同性愛者たちと炭鉱夫たちの募金活動を通じての交流が大きな筋になっているため、散らかった印象は受けない。多数の登場人物に寄り添って描写していくため、すべてのキャラクターに愛着が沸いてしまう。

ダンスを踊っていた奔放な性格のジョナサン(ドミニク・ウェスト)の恋人がゲシン(アンドリュー・スコット)。勘当同然の状態で家を飛び出したけれど、母親のもとを再度訪ねるシーンが良かった。ベルを鳴らして、落ち着かなそうに体を貧乏ゆすりしていたのが細かい。ジョナサンが開けっぴろげな性格なので、自分がしっかりしなくては、と思ってそうなのもいい。アンドリュー・スコットは『SHERLOCK』のジム・モリアーティのキレキレ演技というか瞳孔開きっぱなしのインテリみたいなのしか観たことがなかったんですが、今作では神経質そうな、でもすごく優しいんだろうなという、渋さすら感じる演技が観られる。007の次作『Spectre』も楽しみ。

個人的に一番楽しみだったジョージ・マッケイは本作でも素晴らしかった。親にもカミングアウトしておらず、ゲイコミュニティにも入りたて。“ブロムリー”と住んでいる場所の名前で呼ばれちゃう。ハッピーバースデーの缶バッジを胸に付けたままにしちゃったり、ポロシャツをズボンにインしてたり、アグリークリスマスセーターを着ちゃったりとさえない。
でも、いままでおそらく隠れて過ごしていたのだろう、初めての経験が多そうで何もかもを吸収していってるようだった。良く言えば純朴である。
新しい日々はきらきらと輝いていて、楽しくてたまらない。特に、炭鉱夫の村に行って、家に帰ってきたときに、部屋で一人、こらえられなさそうに顔を元に戻そうとしても笑顔になっちゃうという表情が良かった。
好きなカメラを持って、カムデンでのフェスで写真を撮っているさまもいきいきしていた。そこで、おそらく初めてのキスをするシーンもロマンティック。
ただ、両親にバレてしまい、猛反対される。鼻を真っ赤にして泣いていたのは可哀想なシーンではあるけれど、少し可愛かった。
結局、縁を切るような形で家を飛び出す。まるで過去のゲシンのよう。ゲシンのエピソードが前に出ていることで、おそらくブロムリーも何年後か何十年後かわからないけれど、両親とちゃんと向かい合うことになるのだろうとわかる。今はその時ではない。

炭鉱組合の書記であるクリフ(ビル・ナイ)はつかず離れずというか、あまり口を出して来ないので、募金をしてもらうことについて賛成なのか反対なのかわからなかったけれど、結局は賛成派だった。直接彼らとやりとりはしなくても、感謝をしているのが伝わってきた。
後半、委員長のヘフィーナと並んで大量のサンドイッチを作っているシーンで、「僕もゲイなんだ」と驚くべき告白をするシーンもあった。ヘフィーナは動じず、「知ってた」と。ヘフィーナがパンにバターを塗って、クリフがカットするベルトコンベア式で作業をしてるんですが、切り方の間違いを正したりと、作業を止めもしない。別にいつも通りという、この優しさがいい。
最初、真ん中に縦にナイフを入れて、「そうじゃなくて斜めに三角に切って」と注意されるんですが、告白に自分が動揺しちゃったのか、何枚か正しく切ったあと、斜めに二方向、クロスさせるような感じで小さい三角に切っちゃってたのが可愛かった。
ラスト付近で新聞記者から「ゲイの人たちと最初に会った時に奇妙な感じがしましたか?」という質問に「奇妙な感じがするかね?」と茶目っ気たっぷりに返す様子がとてもビル・ナイっぽかった。出番はそれほど多くないけどいい役。

炭鉱夫の村の代表というか、唯一最初から理解を示していた住民がダイ(パディ・コンシダイン)。いくらダンスで打ち解けたとは言え、彼のような両者の橋渡し役の人物がいなかったら協力はなしえなかっただろう。温厚なしっかり者の役柄がよく合っていた。

同じく、ゲイコミュニティー側の代表のマーク(ベン・シュネッツァー)がいなかったら、物語は動かなかっただろう。募金の発起人であり、正義の人である。ただ、常に正しさを求めるが故に、一人で頑張りすぎるところがあり、「君も少しは休みなさい」とダイが言葉をかけるシーンが泣けた。二つのグループの似た立場だからこそ言えるセリフなのだろう。
マークの元恋人役でカメオ的にほんの少しだけれど、ラッセル・トビーも出てきます。少ししか出てこないわりに強烈な印象を残す。

あと、『ブラス!』でもそうだったんですが、炭鉱の村の男共よりもおばちゃん最高。もちろん、実際に炭鉱で働いているわけじゃないというのもあるとは思うのですが、細けえことはいいんだよ的なガハハ感がある。募金集めのフェスのためにカムデンにやってきたおばちゃんたちの夜の描写が本当に楽しかった。
ゲイバーだって、「遠くから来たんだからいいじゃないの」って言いながらずいずい入っていく。
ゲシンたちの家の二階に泊めてもらうことになったようで、エロ本やおとなのおもちゃを見つけてキャーキャーバカ騒ぎしているのが可愛いやらおもしろいやら。
一階で、「寝ないつもりかな」とゲシンが言うのが可愛かった。ジョナサンがちゃんと抱きしめてあげるのも良かった。

歴史的に、炭鉱側が負け、サッチャーの勝利に終わることもわかっている。けれど、頑張ったところで報われないというような暗い結末にはならない。
映画のラストでは、ゲイパレードに多数の炭鉱組合が駆け付ける。募金への感謝を表明するため、直接やり取りしていた村以外の人々も現れた。
誠意を持って接すれば、ちゃんと想いは通じるのだ。元々は少数だって、行動を起こせば何かが動かせるかもしれない。
まず一歩踏み出すことが大切なのだという勇気を与えてくれて、爽やかな気分で映画館を出ることができる作品だった。

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