『サラの鍵』
Posted by asuka at 3:19 PM
2011年公開。フランスでは2010年公開。
2006年に出版された小説を原作にしている。
ユダヤ人の迫害というとドイツのイメージだけれど、フランスでも行われていたのを知らなかった。1940年のドイツ軍フランス侵攻で負け、フランスはナチスドイツに占領されていた。
その時代、1942年に行われたフランス在住のユダヤ人が大量に検挙されたヴェル・ディヴ事件と、そこから逃げ出した少女サラと、そのサラの行方を追うジャーナリストジュリアの話である。
ヴェル・デイヴ事件というのも知らなかったのですが、ユダヤ人が競輪場に大量に集められ、そこから、強制収容所へ送られていったらしい。女子供問わずだったとのこと。
ホロコーストが題材ではあるけれど、政治色が強すぎたり、変に説教臭かったり、ガチガチにかた苦しくはならない。1920年代だけではなく、現代も平行して描かれているからかもしれないし、ジュリアによるサラの素性調査という形をとっているからかもしれない。
パリ、ブルックリン、イタリアと飛び回り、縁のある人に話を聞いて、徐々にサラの人生が明らかになっていく様子は探偵ものの謎解きミステリのようだった。
一体、サラの身に何が起こったのか、そして、今どこにいるのか…など、先が気になって仕方なくなる。これは、映画がそういう風な作りになっているせいもあるが、実話ではなく原作が小説だからかもしれない。ちゃんと、次々読み進められるように、ページを捲る手がはやくなるように書かれている。
サラが逃げた時に匿った老夫婦とその孫、サラが以前住んでいたマンションのオーナー(夫の祖父)、サラの夫、サラの息子…。話を聞くたびに、サラが形になっていく。
しかし、同じマンションに住むというだけで、そこまで入念に調べる必要があったのだろうか。気になるのはわかるし、ジャーナリスト魂みたいなものが疼いたのかもしれない。でも、墓をあばくようなことにはなっていなかったのだろうか。
ジュリアは調べていけばサラご本人に会えるのではないか、と考えていたのかもしれない。しかし、サラは若くして自殺をしていた。
両親が強制収容所へ送られたこと、そして、弟を納屋に閉じ込めたまま、結局は殺したような形になってしまったことをずっと考えていたのだと思う。
そんな辛い現実を知る必要があったのだろうか。サラの息子も何も知らないようだった。
息子に関しては、自らのアイデンティティーが揺らぐような事柄を、まったく自分と関係のない、初めて会う人から聞かされたわけである。家庭内で解決すべき問題だった。言うタイミングなども、父親は考えていただろうし。
ただ、父親ももう施設に入るような年齢だし、息子も「50年間知らないままだった!なんで教えてくれなかったんだ!」と怒っていたようだったので、きっかけを作ったのは良かったのかもしれない。
ジュリアは高齢出産を決意し、産まれた子供にサラと名付ける。元々、同じマンションだったというだけで、縁もゆかりもなかったけれど、詳しく調べることによってもう他人とは思えなくなったのだろう。平行して描かれていたサラとジュリアの人生が、初めて交わったのを感じた。
観ているのが苦にならないようなミステリ風の語り口で、重要な歴史を白日の下にさらす。それは映画の役割の一つでもあると思う。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: