『スティーヴとロブのグルメトリップ』


2010年イギリスで公開。日本では去年DVDが発売されて劇場未公開。マイケル・ウィンターボトム監督。
原題が『THE TRIP』なんですが、同名のテレビシリーズを再編集して劇場版にしたものとのこと。来月公開の『イタリアは呼んでいる』(原題『THE TRIP TO ITARY』)はそのイタリア版らしい。話が続いているのかどうかはわかりません。

スティーヴ・クーガンとロブ・ブライトンが実名で出演。それぞれ、出身地のマンチェスターやウェールズの話をしたり、実生活でも友達らしいけれど、ドキュメンタリーではない。
スティーヴが恋人と一緒に行くはずだったグルメ取材旅があったが、断られてしまったために親友のロブを連れて行く。

グルメ取材旅とはいっても、実は料理についてはほとんど語られない。二人はイングランド北部へ車で出かけるので、その地域のうまいもの紹介みたいなのをやると思ったら大間違い。
料理を作っている風景やテーブルに運ばれて来るところ、二人の食べる様子なども映ることは映るけれど、特に料理について話をするでもなく、ただガツガツ食べる。おいしい/まずいについても話していなかったかもしれない。

じゃあ何をしているのかと言ったら、気心の知れた者同士の雑談です。どこまでがアドリブでどこまでが台本通りなのかわからない。有名人の名前がどんどんでてきて、モノマネをしてどっちが似てるかをわーわー話している。内輪受けといってもいいかもしれない。
だから、料理映画と思って観ると拍子抜けをすると思う。普通だったら料理のうんちくが語られるところだろうが、語られるのは有名人のうんちくである。

けれど、私はスティーヴ・クーガンが好きなのと、中年男性たちがだらだらしているのが好きなため、楽しく観られました。ガツガツと食べるだけでも、その様子が妙に色っぽかったりもする。

モノマネも最初のマイケル・ケインからして両方とも似ていて笑ってしまった。このようなモノマネや、車の中で歌うシーンで「3オクターブ出るぞ!」とかどこまで声が出るか対決なども繰り広げられるため、吹替は入ってません。
途中、人の名前がどんどん出てきて、知らない人も多かったのでぼんやり観ていたら急に、アレックス・ジェームスという名前が出てきた。たぶん、ブラーのベースのアレックスのことだと思う。“20歳の誕生日を酒で祝い、30歳はドラッグ、40歳は食べ物で祝った”としか言われていなかったため、確認はできてません。

その他、「年を取ると歯と歯の間にモノがつまる」「歯茎が下がってくるからだ」みたいなおっさんならではの話も。
また、スティーヴは離婚歴ありで、彼女ともうまくいっておらず、他の女性とも遊びまくり、仕事もあまり来なくなっている…と、飄々としてるように見えながらも、年齢ならではとも言えるいろいろな悩みを抱えていた。
ロブは家族と幸せに暮らしていて、旅行中の悩みは奥さんと離れていることがつらいくらいなもののようだった。

最初は、スティーヴも仕方なくロブを誘ったようだった。最初のホテルがダブルのワンルームしかとれていなかったときにも(「あいにく満室で…」というお約束もあり)、ロブは別に同室でもいいとノリノリだったけれど、スティーヴはうんざりしていた。
けれど、悪夢を見た翌朝も二人でくだらないことを話していたり、モノマネをすればすぐに調子が元に戻る。悩みはあっても、笑顔になっていたし、一時ではあっても現実を忘れられたようだった。本来、旅とはそういうものである。

二人で、ABBAの“The Winner Takes It All”を歌うシーンも泣ける。“勝者はすべてを持っていってしまう”という、敗者の気持ちを歌った曲。
また、墓場に行って、「葬儀に来てくれる?」と話すシーンも、中年ならではで良かった。「葬儀のスピーチをやってみてくれ」というのは恥ずかしい。だって、葬儀のスピーチというのは、相手がすでにこの世に居ない状態で、相手に対するありったけの想いや普段はどう思っていたかを話すものだから。それを、本人を目の前にして話すのは酷である。けれど、お互いに葬儀スピーチをやることで絆は深まっていたようだった。

ただ、旅には終わりがある。
ロブは家に帰って家族と食事をして、妻に「何日間も離れてられないよ〜」みたいに甘え、幸せそうだった。
一方、スティーヴはというと、部屋に一人である。洗練された家だけれど、暗い。
旅行中にロブに「息子が虫垂炎になるのと、自分がアカデミー賞で主演男優賞とるの、どっちをとる?」と聞かれ、それでも息子をとると自分の気持ちを再確認したため、新ドラマのアメリカでの撮影を断る。これで、アメリカにいる彼女とも完全に切れた形になるのだろう。

旅行中は、はしゃぐロブを鬱陶しげに思い、そのうちロブのペースに引き込まれたスティーヴだけが旅のロスに陥っている。おそらくロブは家に帰れた嬉しさすら感じている。旅も楽しかったとは思っているだろうけれど、現実に戻されたとかさみしいと思っているのは、飄々としているように見えたスティーヴだけなのだ。しかも、映画は部屋で一人、所在無さげにしているスティーヴの姿を映して終わってしまう。

『イタリアは呼んでいる』を早く観たくなった。スティーヴのためにも、次の旅を早く見届けたい。

カメオでベン・スティラーが出てくる。スティーヴに仕事を斡旋するエージェント役。「リドリー・スコット/トニー・スコット兄弟、コーエン兄弟、ウォシャウスキー姉弟と、あらゆる兄弟が君と仕事をしたがっているぞ!」という夢。無くても良さそうなシーンだけど笑ってしまった。

あと、スティーヴがエージェントにまわされる仕事で、ドクター・フ−の悪役というのがあるんですが、なんとなく、この仕事がまわってくる俳優がどのようなポジションなのかわかった気がした。『エキストラ』でもリッキー・ジャーヴェイスがエイリアン役をやってましたが、ドクター・フー自体は国民的テレビ番組でも、悪役ということは結局、以前の有名人いまは二流という人の仕事なのかもしれない。

料理はそれほど出てきませんが、旅ならではの景色もそれほど出てこない。でもちらっと出てきた限り、イギリス北部の丘陵地帯は羊などの牧場も多そうで、携帯電話の電波が入らない描写も出てきていたのでかなり田舎のよう。
また、ダウンを着ていたり、車が凍っていたりと寒そうだった。

スティーヴがカメラマンに撮影されるシーンがあるが、『嵐が丘』のモデルとなった土地の近くだったらしく、「ヒースクリフみたいに撮ります」と言われていた。
車内でも二人でケイト・ブッシュの『嵐が丘』を歌うシーンも出てきます。





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