『インヒアレント・ヴァイス』


ポール・トーマス・アンダーソン監督。トマス・ピンチョンの『LAヴァイス』原作。
主演は『ザ・マスター』に続き、ホアキン・フェニックス。その他にも、ジョシュ・ブローリン、リース・ウィザースプーン、オーウェン・ウィルソンなどがちょこちょこ出てきます。

以下、ネタバレです。





舞台が1970年代ということで、スクリーンもスタンダードサイズ、画面もガサガサしている。電話も携帯電話などなく、ダイヤル式。ファッション、ヘアスタイル、メイクもレトロで可愛かった。
ただ、可愛いだけでなく、独特でもあり、出演キャラクターの多い本作、全員がアニメ化できそうだった。全員個性が強く、普通の人が出てこない。

主人公のドックですら、もみあげとひげが繋がったような一目見たら忘れられない強烈な風貌。しかもマリファナ漬けである。でも、これでも一応主人公だし、映画の中では一番まともかもしれない。それぐらい、他の人々が濃い。

元が小説のせいか、会話が多く感じた。特に前半は、人に会って話を聞き、しばらく会話をして物事が少し明らかになり、場所を移動して違う人に会ってまた会話をして…といった具合なので、話運びがはやい。
更に、会う人会う人がリアリティが無いほど濃いキャラクターなのである。話される内容を頭の中で整理しようとしていると、画面からの情報量も多く、すべてを処理しようとするとパンクしそうになってしまう。それで、観ているとだんだんぼんやりしてくる。
なんとなく夢の中のことのような気分になってしまう。それも悪夢。ドックがマリファナ中毒であることがそれに拍車をかける。

また、ドック目線というのとは少し違うけれど、常にドックを中心にして、ドックにカメラが付いていく形式なので、観ている側も一緒に物事に巻き込まれ、彼が混乱する様子を見て一緒に混乱する。

ドックが訪ね歩く場所や施設の世界観も、ウェス・アンダーソンのような独特の作り込まれ方をしていた。
受付嬢がエロい歯医者も面白かったけれど、特に精神病院の異様さが目をひいた。建物は真っ白で医者も白衣で白い。患者も白いフードを被っている。その中に、黒いスーツとサンダルで乗り込んでいくドックは一人だけ異質だった。けれど、病院が異常に見えたので、異質なドックだけがまともに見えた。

終始出ていたホアキン・フェニックスも良かったけれど、ビッグフットを演じたジョシュ・ブローリンも良かった。あれは怪演と言えるのではないかと思う。
チョコバナナをまさにあの感じで舐めるように食べる様子は長く撮られてたのが笑った。その後で、“彼なりの相棒を追悼する意味が含まれていたのだ”みたいなセリフが出てきたのにも笑ってしまった。
Sukiyakiが流れる店で、「モット!パンケイク!」と叫ぶ様子もおもしろかった。このセリフ自体は台本にあったらしいけれど、あんなに何度も叫ぶようには書いてなかったらしい。ずるい。
最後にドックの部屋に来て、大麻を葉っぱのままむっしゃむっしゃ食べる様子も迫力があった。劇中では衝突もするドックとビッグフットが同時に謝る様子からは、仲が悪そうだけれど相性は良さそうな、面白い関係が見て取れた。

この二人の関係は面白いし、インヒアレントヴァイスというのが結局なんだったのか、わかりづらくもあったので続編が観たいと思ってしまったけれど、原作があるものなのでありえないと思うし、わかりづらかっただけで多分解決したのだろうと思う。

俳優陣の演技はいいし、登場人物や世界観の濃さや小道具などの美術面での楽しさもある。ちょっとした笑いがふんだんに取り入れられているのもいい。ジョニー・グリーンウッドによる、なにか不安な気持ちをかきたてられる音楽も健在。
でも、謎解きものなのに終わり方があまりすっきりしなかった。原作を読んでみた方がいいのかもしれない。

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