『シタデル』



2012年公開。アナイリン・バーナード主演でたぶん唯一日本で観られる映画。
ジャケットからはホラーかと思われたし、たぶんジャンルとしてはホラーなのかなとも思うがあまり怖くはない。

トミー(アナイリン・バーナード)は、住んでいたマンションから、臨月の妻との引越し作業中、妻が何者かに襲われる。赤ちゃんは助かるものの、妻は死亡。
以降、何者かの影に付きまとわれ、怯えて暮らす日々を過ごすが…という内容。

最初のほうで、事件の被害者同士が集まるセラピーのようなものに出ていて、被害者が再び被害に遭う可能性が高いのは被害者オーラが出ているせいだという話をされる。
だから、トミーは妻が殺される不幸な事故の後遺症のような感じで、強迫観念にかられているのかと思った。襲ってくる何者かも妄想。

しかし、病院で優しくしてくれた看護師さんが「大丈夫よ、怖くないところを見せてあげるわ」と言って何者かの集団の中に入って行って、結局本当に殺されてしまった。看護師さんはもちろん強迫観念にとらわれていないから、何者かは本当に存在するということになってしまったのだ。

また終盤、看護師さんが「病気なのよ」と言っていた神父の言うことが正しいとも証明されてしまった。彼女が唯一まともっぽかったので彼女の言うことを信じたのに。

トミーの住んでいたマンションが悪の巣窟みたいな感じになっていて、最後には爆破して事なきを得ていたけれど、トミーは長らくここに住んでたんですよね? 今までおかしいことは起こらなかったのだろうか。他の住民はいなかったのだろうか…。
序盤で妻にキスするトミーは幸せ真っ只中といった具合だった。何も心配事などなさそうだった。さすがにあれだけの悪の巣窟なら気づきそうだけど。

怯えや強迫観念、恐怖心を抱くことで異形の者たちに見つかるようだったから、今まではそのような感情がなかったから気づかなかったということだろうか。

ラスト付近では心を強く持つことで、異形の者たちの中を見つからずに歩いていた。これは、妻が殺されてしまったことで生まれた恐怖心などを克服して強くなったという捉え方でいいのだろうか。異形の者たちは何かのメタファーなのかもしれない。
でも、もしそうならば、看護師や神父を殺すのはやめてほしかった。特に看護師までも殺されるのは理不尽すぎるし、話の中でも必要性を感じない。トミーのサポート役兼ほのかなラブ要員として活躍させてほしかった。
神父はそのマンションに因縁があったようだから殺される必要もあったのかもしれないけど、そこまでの怨念マンションなら、トミーが幸せに暮らしていたのも疑問。

強迫観念とか恐怖心の克服をテーマにするか、本当に異形の者が存在して邪悪にどんどん殺していくホラーにするか、どちらかに振り切ってほしかった。中途半端です。

ゾンビものにしても、ゾンビが走る走らないとか、頭を撃ち抜けば死ぬとか、噛まれるとゾンビになるとかルールを徹底してくれないとおもしろくない。ホラー自体をそれほど観ているわけではないからわからないけれど、ルールが徹底されていないと世界観に入り込めない。この映画は異形関係でのルールも徹底されていなかったと思う。この点でも中途半端。

ただ、アナイリン・バーナードはとても良かったです。終盤以外は赤ちゃんを抱きしめて怯えている。守ってあげたい感じ。
たぶん看護師も同じ気持ちだったのだろうけど、目をつぶって怯えているトミーに口づけるシーンがあって、すごく共感しました。

アナイリン・バーナードは2009年にローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を受賞してるのに、もっとそれが活かせる映画を…と思ってしまいました。
中盤までは、赤ちゃんを抱いてはいるけれどほとんど一人芝居なので、演技は堪能できる。けれど、ストーリーがこれではもったいない。

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