『シンクロナイズドモンスター』



監督はスペイン出身のナチョ・ビガロンド。
スペインとカナダの共同製作。
アン・ハサウェイ演じるアル中寸前のダメ女が巨大モンスターとシンクロしてソウルの町を壊しまくる…というあらすじだけ聞いていて、荒唐無稽でおもしろそうと思ってたけど、それとは少し違うタイプの映画だった。でも、想像していたよりもおもしろかった。

以下、ネタバレです。










アン・ハサウェイ演じるグロリアは、酔っ払って朝帰りし、同棲している彼氏に怒られて捨てられる。既視感というか、あるあるな気持ちになったのがちょっと厳しい。
この彼氏役がダン・スティーブンスなんですが、圧倒的に言ってることは正しいし怒る気持ちもわかるけれど、まともで真面目すぎる感じ。結局、彼女のことは考えずに自分のことを中心に考えているのかなと考えてしまうような男性でダン・スティーブンスに合っている。

グロリアは同棲していたニューヨークのハイソなマンションから、昔住んでいた田舎町へ戻る。そこで小学校時代の同級生オスカー(ジェイソン・サダイキス)に再会し、テレビをもらったり、自分のバーでの仕事を紹介してもらったりする。
このまま、田舎での暮らしが順調に行くのかなと思ってたところに、急遽ソウルに出現したモンスターが彼女の動きとシンクロしていることに気づく。

最初は驚いていたけれど、酔った勢いでオスカーとオスカーの友人にシンクロしている姿をダンスしたり変なポーズをとって見せていた。
突然手に入れた不思議な能力を無邪気に使う様子はアニメ版の『時をかける少女』の真琴を思い出してしまった。他人や他の事象に影響を与えない、些細に遊ぶ感じが可愛い。悪い人が能力を手に入れると悪いことに使うけれど、グロリアも真琴も根がいい子だからこんなことをして遊んでしまう。主人公にさらに愛着がわく。

ところが、グロリアは酔っていたので、転んでしまう。ソウルではモンスターが転んでいるのだ。被害を与えてしまったことを反省して、グロリアはもうしませんと韓国語で教えてもらってモンスターを操ってソウル市民に謝る。

これでめでたしめでたしの映画なのかと思っていたのだが、ここからがストーリーが動く部分だった。

なんと、オスカーも巨大なロボットとシンクロしてソウルの町に現れる。それだけではなく、そこから徐々にオスカーが豹変して行く。
オスカーの友人とグロリアが寝たのがきっかけだったのかもしれないけど、オスカーの中のタガがはずれる。

酔った勢いでロボットとしてソウルの町へ。グロリアはもうしませんしたのにこれはまずい。でも、追い出せるのは彼女しかいないから、モンスターになってロボットをソウルから追い払う。
ネットで配信もされてるから、良いモンスターが悪いロボットを追い払ったみたいな図が出来上がっておもしろかった。
公園でグロリアがオスカーにビンタすると、近所のネット配信でソウルの様子を見ているだろう家々から歓声が上がる。わざわざソウルの町を映さなくても、ソウル側の動きが想像できるのがうまい。

けれど、それと同時にオスカーは悪いロボット=悪い人間ということが露呈していく。バーではグロリアに無理な仕事を押し付ける、グロリアの家に勝手に入っているなどかなり怖い。

オスカーは小さい頃からずっと同じ田舎町にいて、その中では大将なんですよね。ただ、くすぶってる部分もあって、ニューヨークで成功したグロリアが許せないし、グロリアのことも支配したい。
言及はされないけど、グロリアと寝た友人もグロリアが何言われても黙ってたし、酔ったオスカーの助手席に座ったりしていた。無言で従っているのだ。たぶん、ここまでの間に従わないと殴られたりしていたのだろうと思うとつらい。殴られるだけならまだしも、あの様子だと殺されかけたのかもしれない。逆らえない。

だから、グロリアも言っていたけれど、最初はオスカーはグロリアのことが好きで、優しく面倒見てやったのに友人のほうと寝やがってこの恩知らずが!みたいな気持ちかと思ったけれど、そうではなくて、グロリアだけでなく、友人と寝たことも許せない。自分に黙って勝手なことをされるのが許せないのだ。

小学生の頃にグロリアの作った町のジオラマを踏み潰したのも、俺より上手いのは許せないみたいな気持ちなのだろうか。子供の頃からそんな感じで、大人になるに従ってその支配欲や権力志向は強くなっていったのだろう。
狭い世界の中なら、他人を従わせるのも簡単だったはずだ。

そんな人が簡単に町を破壊できる能力を手に入れたらどうなるかは簡単に想像できる。その力を使って、グロリアを脅してニューヨークに戻さないようにする。こうしてやるぞ、と言いながら、実際に町を破壊していた。

グロリアがモンスターになってロボットを止めようとしても、結局は生身の男女の取っ組み合いだから力では勝てない。
それでもソウルのことは放っておいてグロリアはニューヨークに帰ってしまうのかなと思った。勝ち目がないし。
けれど彼女が向かったのはソウル。ソウルとあの田舎町がシンクロしているなら彼女がソウルに行けば、田舎町にモンスターが現れるのだ(多少強引だけどまあ)。

逃げ惑うソウル市民の中、一人巨大ロボットに向かって行くグロリアはヒーローのようだった。そうだ、いい奴が悪い奴を倒す、この映画はヒーローものだったのだ。
オスカーを手で掴み、食べそうなくらいに口に寄せて脅したあとでぽいと遠くに放り投げていた。もうオスカーの姿もロボットの姿も見ることはないと思う。
悪者がやっつけられた時の爽快感もヒーローもののそれとまったく同じである。

ダメ女グロリアがモンスターの力を使って自分の道を切り開き立ち直る話かと思ったけれど、モンスターの力は戯れにしか使わず、中盤でまともになるのが良かった。
そして、そのあたりからのオスカーの豹変っぷりはさすがのジェイソン・サダイキス。なぜ彼がキャスティングされたかわかった。ただの親切な男なわけがなかった。

ラスト、悪者を倒したグロリアは、ソウルの店に入る。多少興奮気味に「すごい話を聞かせてあげるわ」と言う。店員さんに「お酒は?」と聞かれて、飲めるものなら飲みたいけど飲めないんだったわという顔をするのがめちゃくちゃキュート。

あんな時、ぜっっっったいにお酒飲みたいもの。ヒーローもので最後に打ち上げがない状態ですね。耐えられない。
でも、彼女と酒の関係は通常とは違う。あそこでお酒もらったら台無しである。ふりだしに戻ってしまう。
だから、酒を飲まなかったあたりで彼女がちゃんと一歩先に進んだことがわかるようになっているのだ。うまい。


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